外国人リピーターが何度も訪れたくなる街、下北沢を目指して~調査報告書を公表 (2016/4/6 政治山)
平成27年度地域商業自立促進事業である「下北沢の魅力度を向上させるための調査事業~外国人リピーターが何度も訪れたくなる街、下北沢を目指して~」の最終報告書が、このほど公表されました。本事業は、下北沢東会(下北沢あずま通り商店街)とI LOVE下北沢が実施したもので、今回はそのサマリーをご紹介します。
- 本報告書のメッセージ
- 下北沢は、他地域と比べて外国人旅行者からの認知度は低いが、一度街の魅力に気付くとその魅力に惹かれるようになる。
- 下北沢の魅力の源泉は、「ファッション・古着・雑貨」など、若者向けコンテンツと「冒険できるような路地裏」。留学生等長期滞在外国人などを中心とした「シモキタファン」のネットワーク化による「何度も来たくなる街」づくりが必要。
- 一方で、道路標示、案内所・休憩所・トイレなどのハード整備と、個店における従業員トレーニングなどのソフト整備といった、外国人観光客が個人で街歩きできるような対策が必要。
本事業の流れ
本事業は以下の流れで実施した。
- 外国人来街者に対するアンケート(2015年10月9日~12月31日、依頼件数約700件、うち回答件数425件)
- 外国人来街者に対する深堀アンケート(11月13日~12月19日、対象件数37件、有効回答件数33件)
- 個店経営者に対する、外国人来店客に関するアンケート(11月20日~2016年1月、対象件数:送付600件、回答済み52件)
- SNS調査(12月~2016年1月)
上記に加えて、昨今のわが国全体、または東京都全体のインバウンド旅行者の現状を把握するために観光庁の訪日外国人調査や東京都「国別外国人旅行者行動特性調査報告書」も参照した。
本事業は、昨今のインバウンド旅行者の増加の中で、今後「下北沢」が外国人来街者をどのように迎えるのか、他の東京都内外のインバウンド着地点と比較をしながら、下北沢が持っている資源、そして下北沢を訪ねる外国人来街者が何に期待し、そして何を求め、どのような課題を持っているかを明らかにした上で、外国人来街者とどのように付き合っていくべきか、調査・分析を試みたものである。
従って、(1)外国人来街者の視点(実際に何に期待し、どのような視点で街を巡り、そして満足するのか)、(2)個店の視点(外国人来街者を受け入れ、もてなす側として、日々どのような状況なのか、どのような課題があるのか)、(3)情報拡散・巻き込みの視点(ICTの時代、街の情報がどのような視点で拡散し、伝わっているのかいないのか)という視点で検討を行った。
調査でわかったこと
一連の調査でわかったことは以下の通りである。
- 外国人来街者について
- 他の都内インバウンド着地点と比べて、欧米(イギリス・フランス・北米・豪州)からの来訪者の割合が高い。
- 国籍問わず、最低でも一定以上の英語でのコミュニケーションがとれる。
- どの国や地域からも、30歳代の来訪者が最も多い。
- おおむね3週間程度の日本滞在期間の来訪者と、1~3年程度の来訪者とに分かれる。
- 街の周遊行為について
- 同伴者について、短期滞在者は、配偶者・友人・恋人と一緒に巡る割合が高い。
- 1回あたり滞在期間が長くなると、「1人」か「同僚」と一緒に来る比率が高くなる。
- また、来日回数が増えると、配偶者・親・家族など、より親族と近い人と来訪する傾向が高くなる。
- 日中は街を回遊する比率が高いが、夕方以降は決まった目的地に直行する傾向がある。
- 北口はカフェ・雑貨・古着系の周遊、南口は雑貨・居酒屋・バー系の周遊が多い。
- 購買行為について
- 1人あたり来訪1回あたりの利用額は、51%が4,999円以下。
- 飲食・カフェ・雑貨・古着・衣料購入が主体。
- 現金決済が主流。
- 来訪回数が増えるにつれ購買単価も高まる傾向がある。
- 「下北沢」を知ったきっかけについて
- 友人知人、留学生寮の職員などの紹介で知った。教えてもらわなければ知らなかった。
- 実際に来てみて、いい街だと思った。
- タイからの来訪者はブログサイト、中国からの来訪者ではSNS(微博)経由で知ったという声もあり。
- 「下北沢」の街について
- 渋谷や新宿に比べて街が小さく迷わない。
- なつかしさを感じる、落ち着く。
- 街の案内・ガイドについて
- 駅前に外国人向けの情報・案内がない。
- 公共のトイレやベンチなどがない。
- 個店ごとに案内内容や表示レベルがまちまち。
- 下北沢に関するSNSのインフルエンサー(拡散者)について
- 個別のレコードショップ・ライブハウス・アーティストといった、個別の媒体(ブログ等)を持っている人が、強固な支援者を背景にして情報のやり取りをしている傾向がある。
- 飲食店やバー、カフェの個店についても、強力な媒体については個別に直接情報を発信しているものの、弱い媒体、もしくは媒体すら持っていない店舗については訴求力が弱い。
- 行政のWEBサイトも発信力はあるものの、他の民間媒体のフォロアー数と変わらない。
- 他の地域情報媒体についても、メディアとしての発信力・訴求力はあるものの、圧倒的な個別コンテンツがある中で「ワンオブゼム」でしかないが、その中でも「カレーフェスティバル」など訴求力ある単体イベントは上位に食い込む。
- しかし、どのサイトも総合的に見て、街全体の視点で外国人に発信することが目的のコンテンツにはなっていない。
- 下北沢に関する訴求力あるブログサイトについて
- 一番拡散しているのは、タイの日本旅行ブロガーが発信するブログサイト。それ以外は基本的に音楽・カルチャーの個人発信ものが多い。
- タイ人のブログサイトは、実際にタイ人から「旅行等の際に参考にしている」という声が挙がっていた。
調査結果から
これらの調査結果から読み取れるメッセージは以下の通り。
- 東京の交通事情に明るい人でないと来ることが難しい場所にある。
- しかし、一度街の魅力を発見すると、その人はその魅力にひかれるようになる。
- 他地域のインバウンド対策とは異なる対策が求められる。
- ただエリア全体が「個店の集合体」であるため、来街者視点からみると一致した受入れ態勢にはなっていない。
商店街としてできること
上記を踏まえて、今後下北沢駅周辺の商店街として取りうる対策案としては、
- 1.外国人の「シモキタファン」のネットワーク化
- 下北沢に何度も来ている外国人留学生などが「シモキタアンバサダー」となり、それぞれの国の言葉で自分自身の声で下北沢の情報発信を発信してもらう。
- 「シモキタアンバサダー」と店主や商店街関係者との関係を密にしていく。
- 2.外国人観光客が個人で街歩きできるような街の整備
- 道路標示・案内所・公共の休憩所・公衆トイレの整備。
- 「ハラール対応」「ベジタリアン対応」など、個店での対応が可能かの検討・実施と、統一した様式による掲示の実施。
- 個店におけるディスプレイの整備、店員の教育。
- 外国人観光客に向けた「商店街ツアー」の定期的な実施。
- 少額決済が中心のため、ATMやICカード決済手段(交通系ICカード(Suica、PASMOなど))などの整備。
なお、今後下北沢地域にて外国人インバウンドをはじめとした来街者の誘致に取り組むにあたっては、2020年のオリンピック・パラリンピックに向けて、犯罪やテロ、スパイ等が集まるリスクが高まっていることを指摘しておきたい。
これまで示してきたとおり、下北沢は世界各国から個人客ベースでの来街が見込まれる。また、個々のサイトの個別ファンへの発信力が非常に高い。このことは、民泊、居候、AirBnBに代表されるネット上のマッチングサイト等を経由して、宿泊記録が残らない形で来街され滞在される可能性が高いことを示している。
また下北沢への来街も、電車など匿名性が高い手段による来場がほとんどになる。従って、下北沢においては、個々の店舗がそれぞれ来街者に声をかけることや、会話するなどしてその存在や来街動機を確認していくのが、手間ではあるが最も確実な方法といえよう。
もちろん大部分は日本を、下北沢を楽しみにして来街する人々である。防犯の意識を忘れずに、おもてなしの心で彼らを迎える体制を整えていく必要がある。
そのためには、現在商店会へ未加入の店舗への加入の働きかけを含めて、街総出で地域防犯対策にも取り組んでいく必要があると考えられる。
◇ ◇
- 本調査レポートについて
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