「同性婚」証明書は制度の欠缺を条例制定で埋める試み (2015/2/16 東京大学大学院情報学環交流研究員 本田正美)
渋谷区による全国初の取り組み
東京都渋谷区は、同性のカップルから申請があれば、「結婚に相当する関係」と認める証明書を発行する方針を発表した。これが実現すれば、全国初の制度となる。
このような制度が実現するか否かは、3月議会に提出予定とされる性的少数者の権利を守ることを企図した条例案が成立するか否かにかかっており、区議会の判断が注目される。
検討されている制度の概要
この制度は、区内の20歳以上の同性カップルを対象とし、同性のカップルが互いを後見人とする公正証書や同居を証明する資料を提出すれば、渋谷区はそのカップルを「結婚に相当する関係」と認め、「パートナーシップ証明」を発行するものである。
渋谷区としては、区民や区内の事業者に対して、証明書を持つ同性カップルを夫婦と同等に扱うように求める方針であるとのことである。条例に反した事業者名を公表することも検討しているようだ。
憲法と条例の関係
今回、渋谷区が検討している制度については、憲法第24条との平仄(ひょうそく=つじつま)が焦点になる。憲法第24条では、「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」とされており、一般的に日本では同性婚が認められていないと考えられているからだ。
地方分権が進み、自治体おいて、自主的に条例を制定できるようになっているといっても、先行する法律や最高法規である憲法に反する内容の条例を制定することはできない。渋谷区がこの制度は同性婚を認める趣旨のものではないと発表しているのも、憲法第24条の存在を意識していることの表れだと思われる。「結婚に相当する関係」であって、「結婚と同等の関係」ではないところに渋谷区の工夫が見て取れるだろう。
先行の法律や憲法の規定と衝突しないところで条例を制定することは自治体にも認められている。著名な例としては、概括的な規定しかない地方自治法の欠缺(けんけつ=適用する法規が欠けている)を埋める形で制定された議会基本条例が挙げられる。議会基本条例は全国で500を超える議会で制定されているように、制度の欠缺を埋めるものであれば、必要性を認識され、全国にも広まることになる。
制度の欠缺を埋める
同性婚の可否自体が論争的なテーマであるが、実際問題として、同性カップルが社会生活を営む上で数々の不都合があり、その対応のための制度的な裏付けが現在は存在していない。今回の渋谷区の取り組みは、そういう制度の欠缺を条例制定により埋める取り組みとして評価されるものである。制度の欠缺が全国的に共通して認識される事態になっているのであれば、同様の取り組みが広がっていく可能性もあるだろう。
まずは、3月議会に提出される条例案と議会での議論を注視したい。
- 【取材協力】
東京大学大学院情報学環交流研究員 本田正美
1978年生まれ。東京大学法学部卒。2013年、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。現在、東京大学大学院情報学環交流研究員。専門は、社会情報学・行政学。特に電子政府に関する研究を中心に、情報社会における行政・市民・議会の関係のあり方について研究を行っている。共著本に『市民が主役の自治リノベーション』(ぎょうせい刊)がある。
- 本田正美氏の記事
- 地方議会改革の指標としての議会基本条例(2015/1/29)
- 統一選前の最後の議会、質問テーマはどうやって決まるの?(2015/1/20)
- 年間20分?「討論」を制限する渋谷区議会(2014/9/26)
- そのほかの本田氏の記事