特集「参議院議員選挙2013」~参院選後の展望と相場予測~
2013参院選を総括する(2) 参院選後のマーケット展望 (2013/7/26 株式会社フィスコ)
外為市場――自民勝利は想定の範囲内 ドル高・円安基調継続も米国の金融政策の動向は無視できない
参議院選挙では、自民・公明の両党で過半数議席を予想通り獲得したことから、ドルはやや底堅い動きを続ける可能性がある。ドル・円相場は日経平均株価の動向に左右される可能性があるが、参院選挙後に安倍政権の支持率がやや上昇した場合、株高につながり、リスク選好的なドル買い・円売りが優勢となりそうだ。
ただし、ドル・円相場を予測するうえで米国の金融政策の動向は無視できない。米連邦準備制度理事会(FRB)による資産購入プログラムの縮小時期が、先送りされるとの観測が台頭した場合、ドル高・円安の進行は一服するものと予想される。一方、米量的緩和策の早期縮小が再び意識された場合、ドル・円相場は8月中に年初来高値(103円74銭)を上回る可能性がある。
ドル・円 年内想定レンジ:95.00円-105.00円
債券市場――ねじれ国会の解消でインフレ期待の喚起も 長期金利は1%に向けてゆるやかに上昇へ
参院選で自民・公明の両党は順当に勝利したが、安倍政権が掲げる経済政策「アベノミクス」は、大胆な金融緩和政策(量的・質的金融緩和)、機動的な財政拡張政策、成長戦略という「3本の矢」で成り立つ。大胆な金融緩和政策とは、量的・質的な緩和策であり、円高是正と実質金利の引き下げを意図したものである。
選挙結果に関係なく、マネタリーベース残高を倍増させることでデフレ期待を後退させ、インフレ期待を喚起し、投資や消費を活発化させる方針は変わらない。デフレの根本原因である需要不足を解消することができれば、2015年頃までに消費者物価の上昇率が目標である2%に到達することはさほど困難でなくなる。
ただし、量的・質的緩和策の効果について、経済学界などでは、理論的にも実証的にも定説と呼べるものが無かったようだ。従来の伝統的金融政策は、金利という投資のコストに直接効果が及ぶことで、例えば設備投資などの経済活動に影響を与えるものであり、どのような分野に金融政策の影響が波及していくのかを把握することができる。
これに対して、非伝統的金融政策(量的緩和策)は、人々の「期待」に働き掛けることを意図したものであり、金融政策が波及していく分野を特定することは難しい。市場参加者の間では、株式、不動産などの資産価格が影響を受けるとの見方が多いが、経済活動に影響を及ぼしているとのは言えない部分がある。
量的・質的金融緩和策の最大のリスクは、大量の国債買入れは財政赤字の穴埋めであると見なされることである。それによって長期金利の大幅な上昇という事象が発生するリスクがある。しかしながら、消費者物価指数が上昇する過程では長期金利も必然的に上昇することになる。
日銀の黒田総裁は、国債買取オペを機動的に実施し、長期金利の上昇を緩やかなものにしたいと考えている。しかしながら、日銀が物価上昇率2%を目指すならば、10年債利回り(長期金利)が将来にわたって1%程度にとどまる保証はない。インフレ期待を喚起し、需要不足解消への期待が高まった場合、日銀は長期金利の「健全な上昇」を容認するものとみられる。
ねじれ国会の解消は、「アベノミクス」成就への期待を高めることになり、インフレ期待は多少喚起される可能性がある。参院選挙後も株高・円安の基調は継続するとの見方が多く、長期債利回りは、心理的な節目である1%に向けてゆるやかに上昇する見込み。金利上昇のペースが速すぎる場合は、日銀はオペなどを通じた資金供給を積極的に行い、これまで通り、金利安定化に全力を尽くすことになるだろう。
なお、日銀が金融緩和を推進しても経済成長率が鈍化した場合、財政再建に対する懐疑的な見方が強まる可能性がある。2014年度における消費増税の可否を巡って、財政面でのリスクプレミアムが増大した場合、日本国債の格下げのリスクは高まり、これによって金利上昇圧力は強まるおそれがある。
2013年末までの10年国債利回り想定レンジ:0.80%-1.10%
株式市場――自・公圧勝で安倍政権長期化を材料視した動きがみられるか
参議院選挙は自民、公明の政権与党が76議席獲得と圧勝で終わった。市場では事前予想の範囲内との見方ではあるが、有権者はアベノミクス推進にゴーサインを出したと言えよう。今後の安倍内閣は、「ねじれ国会」の終焉を受けて、決められない政治から決める政治へと大きな変化が生まれる可能性がある。具体的にはこれまでに発表された成長戦略を一気に推し進めると想定。
個別株物色のポイントとして4月、5月、6月と計3回発表された成長戦略に絡んだ銘柄が主軸となると考える。4月は「女性の活躍」、5月は「日本の競争力」、そして、6月は「医療関係やPFI関連」に主眼を置いた内容となっている。参議院選挙後の安部政権では成長戦略を主軸に政策を推し進めるとのことから、これらに関連した銘柄が買いの対象となろう。また、自民、公明政権与党の圧勝で「ねじれ国会」解消となれば、向こう3年間は国政選挙が無いことから、小泉純一郎政権以来の長期政権が誕生する可能性が高まった。
政権が1年前後でころころと変わる日本の政治リスクを警戒していた海外の投資家も参戦しやすい地合いとなろう。その際、流動性、ネームバリューなどを考慮すると日経平均採用銘柄やTOPIXコア30など大型株への関心を高めると想定する。
今回は上記の推測に基づき、各成長戦略などに関連した代表的な銘柄と今後資金流入が期待できそうな大型株をピックアップした。
日経平均 年内想定レンジ:14000円-18000円
◇成長戦略第1弾(4月19日発表)◇
「女性関連分野」
2017年度までに待機児童0を目指すほか、事業所内保育の助成要件を緩和する。
また、育児休業からの復職支援なども。
●JPホールディングス<2749>
保育園運営などを展開。同政策が伝わった際、株価は急動意となるなど株価への反応は早い。業績寄与への期待感は大きく今後も注目されよう。
●サクセスホールディングス<6065>
病院事務所内の保育所受託などを展開。東証2部上場のため流動性は低いが、関連銘柄の一角として期待感は大きい。
「医療・保険分野」
官民一体で医療の国際展開を図る「メディカル・エクセレンス・ジャパン」を創設するほか、日本版「NIH(国立衛生研究所)」を創設する。また、iPS細胞研究に10年間で約1,100億円支援、再生医療製品の審査期間を大幅短縮する薬事法の改正など。
●タカラバイオ<4974>
遺伝子研究用試薬などを手掛ける。宝ホールディングス<2531>の子会社でバイオ関連のニュースが流れるたびに株価は大きな動きを見せる。今、旬の銘柄とも言えよう。
●リプロセル<4978>
ヒトiPS細胞、ヒトES細胞の技術を基盤としたiPS細胞事業と臓器移植などに係わる臨床検査事業を展開する。6月末に上場したばかりの直近IPO銘柄としても注目度は高い。
◇成長戦略第2弾(5月17日発表)◇
「企業活動分野」
民間設備投資額を3年で70兆円まで増加させるほか、ビッグデータ・オープンデータ活用のための施策を推進。また、海外でのインフラ受注額を2020年に30兆円まで拡大、リース制度を活用した設備投資促進策の推進など。
●富士通<6702>
昨年、ビッグデータ活用において米クラウド最大手セールス・フォース・ドットコムと提携。今年に入り、ビッグデータの処理にスーパーコンピューターを使う一般企業向けサービスを開始と伝わっている。
●三菱重工業<7011>
三菱グループの中核企業。高性能大型ガスタービンなどでは世界で高いシェアを誇る。今年の秋にはMRJ(次世代リージョナルジェット機)が初飛行の予定。
●オリックス<8591>
総合リース国内最大手。積極的な事業展開で様々な金融事業を展開。大型株ではあるが、成長戦略第二弾の骨子が伝わると株価は即反応する場面も。
「農業分野」
農業所得を10年間で倍増とするほか、農林漁業成長産業化ファンド(6次産業化ファンド)の創設。また、6次産業の市場規模を10年間で10兆円まで拡大、農林水産品の輸出額を2020年までに倍増など。
●日本農薬<4997>
農薬大手。国内の農業強化策と関税自由化に伴う海外需要拡大によって、業績拡大期待が高まりやすいと考えられる。
●井関農機<6310>
農業機械の専業大手であり、関連銘柄としては短期資金の注目度が最も高まりやすい銘柄。農業機械は農地の集約化、大規模化でメリットを受ける産業と捉えられる。
●クボタ<6326>
農業機械の国内最大手。来年末にも大型トラクターに参入すると報じられている。欧米農家の購買力の高まり、中国など新興国向けの需要増加などを背景に、参入の好機と判断したもよう。大型トラクターは利幅が大きいとされていることから、今後の収益寄与に対する期待感は高い。
「文化分野」
クールジャパン官民ファンドの創設のほか、コンテンツ輸出に係る権利調整の一元管理機関の整備を推進。また、放送コンテンツの輸出額を5年間で3倍以上とするとも。
●サンリオ<8136>
海外で人気の高い「ハローキティ」のブランドを保有。欧州景気の低迷が懸念されたものの、北米地域や中国などで人気が広がる。
●KADOKAWA<9477>
出版大手。既存のライトノベルだけではなく、映像のほかネットなどさまざまなコンテンツを有する。出版業界として今年のノーベル文学賞で村上春樹氏の受賞が有力視されていることも材料か。
●松竹<9601>
歌舞伎座<9661>の筆頭株主で全面改装した劇場オープンで興行収入増加を期待。株高による個人消費拡大の影響も。
◇成長戦略第3弾(6月5日発表)◇
「医療関連」
インターネットによる一般医薬品販売を解禁したほか、保険外併用の対象である「先進医療」を国が全面サポート。また、健康・予防サービスへの新規参入を支援など。
●ケンコーコム<3325>
医薬品通販を展開。ネットでの一般医薬品販売の恩恵を享受するとの見通しから関心が非常に高まりやすい。思惑的な買いも入りやすく株価は上下に大きく振れる可能性も。
●楽天<4755>
ネット商店大手。社長の三木谷浩史氏が経済財政諮問会議のメンバーに入り、ネットでの一般医薬品販売の解禁を強く主張したもよう。
「国家戦略特区関連」
国家戦略特区を創設のほか、大都市における容積率規制の改正も実施。また、国際的なビジネス環境を整備するため関連規制を見直し。
●ショーボンドホールディングス<1414>
橋梁大手。公共インフラの民営化などを進めるとのことから社会インフラ銘柄の一角として注目。
「PFI関連」
PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)・PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)を今後10年で過去10年の3倍である12兆円に拡大するほか、インフラ整備で長寿命化を目指す基本計画を今秋に取りまとめる。
●大成建設<1801>
ゼネコン大手の一角。PFI法施行に基づき「四日市市の市立小中学校設備整備」をいち早く展開。
●三菱UFJリース<8593>
リース大手の一角。大成建設同様、PFI事業では「きらめきプラザ」などで実績有り。
「電力システム改革関連」
電力小売の全面自由化とするほか、発電・送電事業体の分離。電力関係投資を10年間で2010年の1.5倍(30兆円)に拡大する。
●大崎電気工業<6644>
電力量計で国内首位。今年スマートメーターを1,000万台規模の製造能力を実現させる予定。
●東光高岳ホールディングス<6617>
東京電力<9501>が筆頭株主。再生エネルギー拡大を受けてスマートグリッド関連の売上が伸びている。今後は電力、一般民需、官公需の市場拡大を推進するとともに、海外へも積極的に事業展開を行う見通し。
◇安倍政権安定化を好感した海外の投資家が関心を高めそうな銘柄◇
●セブン&アイ・ホールディングス<3382>
言わずと知れたコンビニの雄。PB商品セブンプレミアムなどを武器に最高純益を連続で更新している。懸念されていた百貨店事業も個人の消費意欲向上など追い風が吹く環境に。
●オリエンタルランド<4661>
高い収益性を誇るホスピタリティ溢れるテーマパーク運営が強み。今年は東京ディズニーランド開園30周年というビックイベントがあることから年間来場者の更新確度は非常に高い。
●トヨタ自動車<7203>
日本企業のシンボル的な存在。為替の円安推移で一気に業績が上伸している。想定為替レートは1ドル90円としていることで今期業績に関しては上振れ余地は十分。
●丸紅<8002>
TPPに絡み農業関連に強みを持つ商社として注目したい。中国経済への懸念などが影響しているが、他の業種からすると商社セクターは総じて割安との見方も。
●野村ホールディングス<8604>
国内大手証券ということで関心は高い。株式手数料増加による業績改善効果は限定的と考える。むしろ景気回復によるダイナミックな資金循環による恩恵を享受へ。
●日本取引所グループ<8697>
日本証券市場の顔。7月にはまず現物市場の統合が実施された。日本株を取引する場所とのことで海外投資家の思惑的な動きも入りやすいとの指定もある。
●三菱地所<8802>
アベノミクス政策による地価上昇の恩恵を享受。4月の異次元緩和発表後、株価は利益確定売りが優勢となっていたが上昇分が剥落したことで中長期的には押し目狙いか。
●商船三井<9104>
業績、株価ともにきつい状況だったが、LNG関連の需要拡大が業績回復の大きなポイントに。長期的な株価位置はまだまだ割安との見方。
●ファーストリテイリング<9983>
アジア展開を進める小売大手。業績はもちろん注目だが同社は指数インパクトの大きさか ら裁定取引やインデックスに絡んだ売買による影響も大きい。
●ソフトバンク<9984>
米企業買収を受けて新たな事業展開に。米クリアワイヤが豊富に保有している周波数を手に入れたことで米国市場での業務拡大を期待。ファーストリテイリング同様、指数インパクトが大きい銘柄のため指数上昇時には買いが入りやすいという側面も。
◇参議院選挙後の産業競争力会議には注目◇
一方、これまで産業競争力会議などの議論の対象にはなっていたが盛り込まれなかった「解雇規制の緩和」「混合診療の解禁」「企業の農地所有の自由化」「法人税率の引下げ」などは、参議院選挙後、政治的な痛みを伴う改革も含めて今後議論の対象となるとの見通し。秋口から年末にかけては、電力システム改革の第一段階法改正なども発表される予定とのことで、参議院選挙後も継続する産業競争力会議での議論内容は注目となる。
「カジノ関連法案の成立に向けた動き」
市場ではカジノは単独施設ではなく、大規模商業施設、レジャー施設、国際会議場などからなる統合リゾートとして建設されるため、カジノの経済インパクトは極めて大きいとの見方。
●日本金銭機械<6418>
貨幣処理大手。米国市場でのカジノ向け紙幣鑑別機では高いシェアを誇る。今後はマカオ、シンガポールなどアジア市場を積極的に開拓。
●ダイコク電機<6430>
パチンコ・パチスロホール向け「ホールコンピュータ」などの情報システム事業と、遊技機の表示や制御ユニットの開発などを行う制御システム事業が柱。市場ではビックデータ関連との見方も。
●セガサミーホールディングス<6460>
パチスロ製造最大手のサミーと、業務用ゲーム・アミューズメント施設運営最大手のセガを中心に、玩具・携帯電話コンテンツ・アニメーション制作などを手がける総合エンタテインメント企業。韓国で実際にカジノ経営をしていることから注目度は高い。
「解雇規制の緩和」
安倍首相は新しい雇用のあり方において、「成熟産業から成長産業へのスムーズな人材シフト」などを主眼に打ち出していることから人材の流動化が進む可能性。
●テンプホールディングス<2181>
3月には人材紹介事業をメインとしているインテリジェンスを買収、人材業界では下位を大きく引き離し第2位に。最就職支援のニーズ拡大で業績拡大期待へ。
●エン・ジャパン<4849>
インターネットでの求人情報サイト「en」を展開。転職情報サイトが主力であるが、人材紹介事業なども育成中。成功報酬型の転職情報やグローバル企業向け人材ビジネスを手掛ける子会社の売上が好調。
●リブセンス<6054>
成功報酬型のビジネスモデルを採用しており、アルバイトの求人情報を提供するサイト「ジョブセンス」など、求人情報や不動産など様々な分野の情報メディアを運営。求人情報に関しては、求職者の採用が確定した際には「祝い金」の贈呈を行うビジネスモデルを確立。