【都知事選】細川護煕氏の出馬会見全文(2014/1/22) (2014/1/24 政治山)
細川護煕氏(76)が22日夕、東京都庁で記者会見し、2月9日投開票の東京都知事選挙(23日告示)への立候補を正式に表明しました。細川氏の冒頭の発言は以下の通りです。
◇ ◇ ◇
私は政治の世界を退いてからこの15年余り、焼き物をやったり絵を描いたり創作活動をする一方で、東日本大震災後は、東日本の海岸で瓦礫のマウンドに木を植えていく「命の森のプロジェクト」という活動をやってきました。その一方で、脱原発の声を上げ続けてまいりました。半分隠居暮らしをしていたものですから、都知事選に出るなどということは、ついこの数日前まで思ってもみませんでした。
ところが、各界の敬愛する方々から、ぜひ最後のご奉公をあなたがやるべきだと言われ背中を押されて、日増しに真剣に受け止めるようになって、特に脱原発の同志である小泉元総理から強いメッセージを受けて、意を決して出馬の意向を固めた次第です。
21年前、日本新党を一人で立ち上げた時には、小舟の舳先に旗を立てて、この指とまれということで船出をしたのですが、今回は本当に躊躇しながら、迷いながら、孤独に苦渋の決断をさせていただきました。しかし、決めた以上は後戻りはできません。力を尽くして、東京をさらにいい方向へ進めていかなければならないし、また国のありようにも東京から注文をつける事があれば、いろいろ物申していきたいと思っております。
なぜ決意をしたかということですが、今の国の目指している方向、その進め方に何かと危ういものを感じているからです。憲法でも、安全保障でも、あるいは近隣諸国との関係でも懸念していることがいくつかあります。デフレ脱却について安倍さんは頑張っておられますが、現在の1億3000万人の人口が、50年後には9000万に、100年後には江戸時代に近い3分の1の4000万人ぐらいにまで減ると予測されるこれからの時代に、今までのような大量生産・大量消費の経済成長至上主義ではやっていけないのではないか。腹いっぱいではなく、腹七分目の豊かさでよしとする抑制的なアプローチ、心豊かな幸せを感じ取れるそういう社会を目指して、成熟社会のパラダイムの転換を図っていくことが求められているのだと思います。
これは世界で初めての歴史的実験になるかもしれませんが、世界が生き延びていくためには、豊かな国が生活のスタイルを多消費型から共存型へ変えていくしかありません。成長がすべて解決するというごう慢な資本主義から幸せは生まれないということを、われわれはもっと謙虚に学ぶべきだと思います。
今のことと関連しますが、私が特に心配しているのは、成長のためには原発が不可欠だと言って、政府がそれを再稼働させようとしていることです。そのことに私は改めて強い危機感を持ち、それが今回、出馬を決意するきっかけともなりました。
原発のリスクの深刻さは、福島やチェルノブイリを見るまでもなく、ひとたび事故が起こったら国の存亡に関わる大事故になる可能性をはらんでいます。そのためには、現在の原発依存型のエネルギー多消費型社会を180度方向転換しなければ駄目だということです。
なぜ私がそういう危機感を持つに至ったかということは、3.11がもちろん決定的なきっかけになりました。かつて私も不覚にも信じ込んでいた、原発がクリーンで安全だという神話は、もはや完全に崩壊しました。福島の4号機は本当に大きな地震がきても大丈夫なのか、汚染水の垂れ流しは本当に止まっているのか、核のゴミは捨てる場所さえ見つからない、捨て場もないのに原発を再稼働させるようなことは、後の世代に対する正に犯罪的な行為だと私は思います。
原発が無ければ日本の経済は成り立たないという人がいますが、もう2年間、原発は止まったままではありませんか。もちろんそのために火力発電の燃料費など、相当なコストを海外に払っているわけですが、一方で、今まで原発事業の無責任体制によって、現実には実は天文学的なコストがかかっているわけです。しかし、それが見えない形で、税金などで国民の負担にされて、原子力による発電のコストは安いというごまかしと嘘がまかり通ってきました。
原発の安全性の問題や、核のゴミのことを考えたら、原発がいかに割に合わないものであるかということは明白です。そういう原発に依存するよりも、同じコストをかけるなら、自然エネルギーなどに変えていく方が、よほど生産的だと思いますし、新しい雇用や技術を開発していく可能性もそこから開けてくると思います。世界の自然エネルギー産業の成長を日本に取り込んで、成長の切り札にしていく絶好の機会であります。今ここで原発ゼロの方向を明確に打ち出さなければ、50年、100年経っても原発依存の状態から抜け出すことはまず不可能でしょう。私もそういう意味で再稼働にストップをかけ、自然エネルギー大国日本を世界に発信していく方向に、今決断すべき時だと確信しております。
この都知事選は、小泉さんが言ったように、原発がなくても日本は発展していけると考える人々と、原発がなければ日本は発展できないと考える人々との正に戦いです。私は、原発がなくても日本は発展していけると信じている人々とともに、その先頭に立って戦う決意です。
原発問題は、都知事選の争点にふさわしくないとという人がおりますが、都知事の第一の任務は都民の生命と財産を守ることです。東京から100キロ、200キロぐらいのところにある浜岡とか、東海第二とか、あるいは柏崎刈羽などでも、もし事故が起こったら、都民の生活、安全、財産というものは壊滅的な被害を受ける。オリンピックや消費税やTPPどころではないんです。すべてのものが吹き飛んでしまうわけですから、原発こそ今度の選挙の最大の争点、最大の最重要テーマであることは疑う余地がありません。
さて東京は2020年のオリンピック、パラリンピックの開催都市に決定しました。私は当初、大震災後、仮設住宅などにまだ30万人近くの人たちがおられることを思いますと、原発事故後の復旧・復興にまだめどがつかない状態下で、オリンピック、パラリンピック招致に諸手を上げて賛成する気持ちになれませんでした。しかし、開催が決まったからには、2020年を新しい東京、新しい日本の建設にとって絶好の目標年にできると思い直して、むしろ、このオリンピック、パラリンピック開催を歓迎し、これを新しい日本をつくるチャンスとして捉えるべきだとの気持ちに変わりました。
ちょうど20年前、私は総理就任後、最初の所信表明演説で、質の高い実のある国家「質実国家」を目指すということを政権の旗印として掲げました。大量生産・大量消費・大量廃棄の経済や生活を転換する必要を痛感していたからです。大震災、原発事故を経て、このような方向は今こそ決定的になったと感じています。オリンピック、パラリンピック開催を大きな目標に、日本の経済や生活を変えていく。首都である東京は、その先頭を走って、そのお手本になりたいと思います。
脱原発社会は、われわれに地産地消、自然エネルギーの普及とともに、経済活動や日常生活での電力消費の無駄の節減を要請しています。私は原発に頼らない東京を実現するために、公的部門、民間部門での自然エネルギーによる発電を促し、一方で、電力消費の節減に向かって都民の協力を求め、さらに省エネのための技術開発を促進していきたいと思います。「災い転じて福となす」という言葉がありますが、大震災、原発事故は日本を変え、東京を変える、またとない機会にしなければなりません。
東京オリンピック、パラリンピックでは、オリンピックの三大ムーブメント、すなわち競技・文化・環境の分野におきまして、さまざまな形で東北の皆さんに協力いただき、その実質は、東京・東北オリンピック、パラリンピックのようにできないものかとも考えております。
私の世代は、結果的に原発を推進し容認してきました。その世代の責任を感じるとともに、国の最高責任者としての責任が私にはあります。それは小泉さんも同じです。その不明の責任を感じ、何としてもわれわれ世代の最後の仕事として新しい経済、新しい生活の展望を開いていきたいと思います。いずれにしても、原発ゼロの具体的な取り組みについては、東京エネルギー戦略会議というものを立ち上げて、脱原発のエネルギー基本計画を作っていきたいと思います。
私は首都東京の景観にも強い関心を持っております。防災上の観点からも情緒あふれる水と緑の回廊を実現したいと思いますし、日本橋の上の首都高速を排除したり、あるいは可能な路面電車の復活も考えてみたいと思っています。
いま世界は文明史の折り返し地点に立っています。環境や資源の有限性の壁に直面して、経済や生活の転換が迫られているのです。福島原発事故は転換に着手しないわれわれへの緊急警報ではなかったでしょうか。
東京には、誰が都知事に選ばれても、取り組まなければならない重要で緊急を要する共通の課題があります。大地震に備えた帰宅困難者対策、耐震化の問題、密集した木造住宅の不燃化などの防災対策、高齢者・障害者に対する福祉、あるいは子育て支援、幼児教育の充実などです。これらについては、都議会や都庁職員の皆さんが知恵を絞って取り組んでこられました。これらの施策のうち、継承すべきものは継承して発展的に受け継ぎ、確かな成果を上げていきたいと考えております。
一方、今まで国でも都でもできなかったこともたくさんあります。とりわけ岩盤規制といわれる、各種の既得権によっては阻まれてきた医療、介護、子育て、教育などの分野での規制改革を、強力に推し進めていきたいと思います。これは既存の政党勢力と結びついた人には、恐らく難しい課題でしょう。私は何のしがらみもありません。恐れるものもありません。既得権との戦いこそ、私に最も期待されるところではないかと思います。
私は思案の上、私のすべてを東京の新しい方向付けに捧げる決意をいたしました。それはまた、日本の新しい方向となるはずです。
また今回の決意の背景には、20年前の政権担当で、必ずしも皆さんのご期待に沿う政治の実現に取り組めなかったという深い反省もあります。また借入金問題については、10年かけて全部お返ししたということを、国会でも誠意を持ってご説明させていただきました。しかし残念ながら、野党の方々にご理解いただけずに国会が空転することとなり、国民生活に関わる予算の成立を遅らせるわけにはいかず、総理を辞めるということでけじめを付けさせていただきました。私の不徳のために多くの皆さんの失望を招いたことは、この20年間、私の脳裏を一日として離れることはありませんでした。この点については、改めてこの機会にお詫びを申し上げます。
このところ、晩節を汚すなと多くの人たちから忠告もいただきました。確かに逃げる方が楽であることは間違いありません。しかし、日本の存亡に関わる時であり、志を同じくする方が立候補しない以上、私が一身の毀誉褒貶(きよほうへん)を顧みるときではないと、あえて多くの人の要請にこたえ、出馬の決意を固めた次第です。
東京が多くの首都に先駆けて、文明史的な転換を成し遂げ、新しい経済と生活の新しい形態について明るい展望を開く機会を迎えていると私は確信しております。立つ以上は最善を尽くします。誇りをもって、名誉を投げ打つことを潔しとする。私はこの歴史的戦いにすべてを賭けて戦おうと腹を決めました。
皆様の深いご理解を賜りますようにお願いをいたしまして、決意表明とさせていただきます。ありがとうございました。
◇ ◇ ◇
特集:東京都知事選挙2014
東京都知事選挙の選挙情報(1月23日告示、2月9日投開票)