第14回 住民との距離を近づける「議会報告会」のあり方 ~福岡県志免町「まちづくり志民大学」による「議員と語ろう!ワールドカフェ」の取り組みから~  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第14回 住民との距離を近づける「議会報告会」のあり方 ~福岡県志免町「まちづくり志民大学」による「議員と語ろう!ワールドカフェ」の取り組みから~ (2014/4/10 早大マニフェスト研究所)

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早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第14回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。掲載は、毎月第2木曜日。月イチ連載です。今回は、『住民との距離を近づける「議会報告会」のあり方 ~福岡県志免町「まちづくり志民大学」による「議員と語ろう!ワールドカフェ」の取り組みから~』をお届けします。

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議会報告会は機能しているのか

 議会の大きな権限の1つが、予算や条例などを決める議決権ですが、その議決の結果を説明する「議決説明責任」の場として重要な役割を果たすのが「議会報告会」です。議会のあり方を規定した「議会基本条例」の中で、その開催を地域のルールとして位置付けている議会も多数あります。また、議会報告会は、議会が住民の意見を聞く場、議会への住民参加の機会と捉えることも出来るので、「意見交換会」「住民交流会」などの名称で呼んでいる議会もあります。

 早稲田大学マニフェスト研究所の調査によると、2012年の開催率は29.6%と、回答をいただいた議会の約3割、2010年の18.9%から、10ポイント近くも増えています。では、この各地で行われている議会報告会が、住民と議会との距離を近づけ、住民と議会との良好なコミュニケーションを構築する場として十分に機能しているでしょうか。議会報告会を開催している議会の議員に聞くと、議会、議員への不満が住民から多く述べられ、陳情要望の場となり、前向きで建設的な議論にならないとの言葉をよく聞きます。住民からは、「決められたことの事後報告が中心で面白くない」「議員の運営方法が未熟だ」などの不満が聞かれます。そして何よりも、議会報告会に参加する住民が少ないことを課題に挙げる議会が多くあります。

 福井県の永平寺町議会では、名称を「議会報告会」から「議会と語ろう会」に変えたり、議員が「個人的見解」と前置きして自由に発言することができるようにしたり、議員が班単位でビラ配りをしたり、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(インターネット上での交流サービス)であるfacebookなどを活用して集客の工夫をしたりしています。しかし、多くの議会が、議会報告会のあり方について、試行錯誤しているのが現状だと思います。

 今回は、そうした議会報告会のあり方について、福岡県志免町の町民有志で作る「まちづくり志民大学」が開催する、「議員と語ろう!ワールドカフェ」の取り組みを事例に考えてみたいと思います。

志免町「まちづくり志民大学」の活動

 福岡県志免町(しめまち)は、戦前戦後は炭坑町として栄え、現在では福岡空港の近隣に位置する福岡市のベットタウンとして、人口は4万人を超え、全国の町の中で人口密度が一番高い町です。

 「まちづくり志民大学」は、2010年10月に、「志免町を知る・学ぶ・提案する」「人と人とが結ばれれば町が変わる」「住みよいまちづくりには志を持った『志民』が必要」そうした思いから、町民有志によって開学しました。運営は実行委員会形式で、これまで3期開催されています。各期、140人前後の町民が参加し、まちづくり、介護、子育て、防災などをテーマに、6回の講座が開催されます。 また運営費用は、1人当たり3000円の会費のみで賄われています。

 この講座の1つとして、福岡県福津市の津屋崎地区で移住・交流プロジェクトを展開する「津屋崎ブランチ」の代表の山口覚さんから、「ワールドカフェ」という会議の手法を学びました。ワールドカフェとは、「カフェ」にいるようなリラックスした雰囲気の中、小グループ単位で、参加者の組み合わせを変えながら自由に対話し、話し合いを発展させていく場です。第1期の時に2回、このワールドカフェを学び、メンバーはその良さを実体験しました。第2期に、その手法をまちづくりに活かそうとして実践されたのが、2012年10月に「まちづくり志民大学」が主催で開催された、第1回「議員と語ろう!ワールドカフェ」でした。この取り組みは継続され、第3期においても、2014年3月に第2回「議員と語ろう!ワールドカフェ」が開催されています。

「ワールドカフェ」による議会と住民とのコミュニケーション

 第2回「議員と語ろう!ワールドカフェ」は、志免町議会議員14人のうち6人が参加し、議員以外の町民などを含めて75人で開催されました。参加費は、飲み物・お菓子代として300円。ファシリテーター(進行役)には、津屋崎ブランチの山口さんと、九州大学大学院客員准教授の加留部貴行さんの2人を外部の専門家として招きました。会場となった町の総合福祉施設のホールには、カフェのように音楽が流れ、コーヒーとお菓子が提供され、リラックスした雰囲気が醸し出されるような工夫がされています。

ワールドカフェの様子

ワールドカフェの様子

 各テーブルには、受付の際のくじ引きで決められた、5~6人が着席します。議員はまずは、議員だけのテーブルに座ります。ワールドカフェの冒頭、ファシリテーターより、リラックスした雰囲気でこそ良いアイデアが生まれる、ここは意見の違いを受け入れその違いの原因を考える場であるなどと、ワールドカフェの説明がされます。また、次の4つのルール(1)人の話しを最後まで聞く(2)1人1回の発言は1分以内に(3)人の話を否定しない(4)テーブルのクラフトペーパーには落書きやメモをたくさんする、が示されます。

 いよいよワールドカフェスタート。1回目の対話として、「志免町のまちづくりについて今感じていることは?」というテーマで20分間話し合いが行われます。その場で感じたこと、出てきた意見は、テーブルごとにクラフトペーパーに自由に書き込まれます。それが終わると1人をテーブルに残し、その他の参加者は自由に席替えを行います。この段階で初めて、町民と議員が混じり合うことになります。

テーブルのクラフトペーパーに残された対話の記録

テーブルのクラフトペーパーに残された対話の記録

 2回目の対話のテーマは、「10年後の志免町をどのようなまちにしたいか?」で、同じく20分話し合われ、その内容はクラフトペーパーに追加されていきます。ここで、テーブルでの話し合いは一旦中断、それぞれどんな話があったか、代表のテーブルから発表してもらい、話し合いの経過を会場全体で共有します。

 再度同じ要領で席替えをした後 、第3回目の対話のテーマは、「目指す町の姿に向かって、住民としてどんな役割を果たすか?議員としてどんな役割を果たすか?」で同じく20分。

 4回目の対話はそれぞれが最初のテーブルに戻り、3回の対話の情報共有をした後に、テーブルごとに町民は町民の役割を2つ書き出し、議員のテーブルでは議員の役割を2つ書き出します。そして最後に、ファシリテーターのリードのもとに、各テーブルから出された意見を会場全体で共有するとともに、参加者の代表が感想を述べ合います。

ワールドカフェの成果物

ワールドカフェの成果物

 ワールドカフェは終始和やかな雰囲気で進められました。参加した町民の感想として、「町づくりに対しての思いは、住民、議会と立場は違うが、同じ思いを持っていることが分かった」などが挙げられました。ワールドカフェを通して、住民と議会との意識の溝が、わずかですが埋められた結果だと思います。

 取り組みを振り返って、「まちづくり志民大学」実行委員会の森内平委員長は、次のように語っています。「ワールドカフェは、議論する場ではなく、本音を語り合う場。そして、志免町の未来を、町民、議員が一緒に考える場です。話しやすい雰囲気が対話を盛り上げる。将来的には、こうした場を議会と町民が一緒に開催していきたい」。

「対話」の場としての議会報告会

 志免町の取り組みは、議会としての取り組みではありません。しかし、住民と議会のコミュニケーションのあり方としては、参考になる部分がたくさんあります。何よりも、住民、議会がそれぞれの立場を理解するお互いの信頼関係の構築には、とても有効だと思います。すべての議会報告会がこのようなワールドカフェの手法で行われるべきだとは思いませんが、テーマや場面によっては効果があると思います。

 連載の第12回で、千葉県流山市議会の議員間討議改革を事例に、議員間の「ダイアローグ(対話)」の重要性を指摘しました。ダイアローグは、「ディベート(討論)」のように、相手の意見を否定したり、物事に白黒をつける話し合いの手法ではなく、お互いに相手の意見を聞き合い、相手の立場に立つこと、それぞれの考えを理解した上で意見を相対化し、新たな解決策を導き出す話し合いの手法です。ダイアローグは、議会の中での議員間討議とともに、議会の外との議会報告会にも必要だと思います。なぜならば、ダイアローグは、その場で多様な意見が出るとともに、そのプロセスの中で参加者間の共感と合意形成が生まれ、前向きな次のアクションにつながっていくからです。

テーブルでのダイアローグ(対話)

テーブルでのダイアローグ(対話)

 ワールドカフェのような新しい話し合いの手法に慣れていない議会、議員が正直ほとんどだと思います。ならば、そのノウハウを身につけなければなりません。北海道の芽室町議会では、議員を対象としたワールドカフェの研修会を議会として開催しています。また、志免町の「議員と語ろう!ワールドカフェ」のように、外部の専門家にファシリテーターをお願いするのも1つのやり方だと思います。地域の課題発見、解決には、ディベートではなく、地域でのダイアローグが必要です。議会報告会が、住民と議会との距離を近づけ、住民と議会との良好なコミュニケーションを構築する場として十分に機能するための工夫が、議会には求められています。その解決策となる考え方が「ダイアローグ(対話)」であり、それを効果的に行うツールの一つが、「ワールドカフェ」だと思います。

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佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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Twitterアカウント(@wmaniken)
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