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地方自治の実現に、なぜローカルパーティが必要か (2019/10/9 元我孫子市長 福嶋浩彦)

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市民一人一人から出発する

 自治は市民から出発する。「私はこうしたい」「こんな暮らしがいい」「こう生きていきたい」そんな市民一人一人の思いから出発し、思いはみんな違うからみんなで話し合い、合意を作り、その合意で社会を築く。これが地方自治である。

 もちろん地域や行政の課題全部を、市民が十分に議論を深め、すべて住民投票で決めるのは不可能だ。「いざとなったら大事なことは市民が決める」という住民投票(直接民主制)は地方自治の土台だが、普段の決定は、選挙で選んだ首長と議会が行う。こうした仕組みの自治体を市民の意思で動かしていくため、ローカルパーティ(地域政党)が必要だと考える。

人口減少社会こそ自治が問われる

 私たちは人口減少社会を迎えた。子どもを安心して生み育てることができ、子どもが豊かに成長する社会は、出生率の数字を上げるためではなく、私たちの幸せのために必要だ。しかし、子育て環境を改善し出生率が上がったとしても、少なくともこれから50年、日本全体の人口は確実に減る。子どもを生む世代自体が大きく減るからだ。

 そんな中、ほとんどすべての自治体が「わがまちの人口減を食い止めたい」と言っている。しかし「わがまちの人口減を小さく」しようと思えば、「他のまちの人口減を大きく」せねばならない。結局、地方創生のかけ声のもと、自治体同士が人口の奪い合い=つぶし合いをやっている。こんな先に自治体の未来はない。基本的視座を「(右肩上がり前提の)従来の社会の仕組みを維持したいから人口減を食い止めよう」でなく、「人口減になっても市民が幸せになれる持続可能な社会の仕組みに変えよう」へ転換したい。

 自治体は人口が減るのだから、地域の仕組みをうまく小さくして質を高めることが重要だ。地域を拡大するには、国の成長戦略に乗ったほうが有効な面があった。しかし質を高めるには、どんな質を高めるかは地域によって全部違うので、地域で生活する人が自分たちの頭で考え、知恵を出し、自らの責任で実行していくしかない。本当の自治が求められる。

 そして徹底して市民から出発すれば、「経済成長=国民の幸せ」の公式とは違う豊かさが見えてくる。ここに新しい社会を拓く鍵があると考える。残念ながら、アベノミクス推進の人も反対の人も、市民の消費を増やし経済成長しようという発想は共通している。しかし、日本の人口は確実に減るし、ある意味、社会には物があふれている。そうした中、市民の消費を増やし経済成長することが可能なのだろうか。生活に困窮する人をなくす社会保障の確立は最優先だが、無理やり消費を増やしても私たちは本当に幸せになれるのか?それよりも経済成長の呪縛から自由になって、新たな豊かさを探求したい。これができるのは、市民の思いから出発する地域社会であり、自治体だと考える。

 国の役割は重要だが、国は市民一人一人から出発できるわけではない。国民をマスとして捉え、様々なデータを駆使して政策を立案し、法律を作り、実行する。こうした国と、市民起点の自治体が緊張感を持って向き合い、ぶつかり合って、その相互作用によって社会を作っていくことが大切だ。しかし、自治体が国の下請けをやっていてはこの関係は作れない。

ローカルパーティという宿題

 大政党の地方組織を見ると、「県連」会長も、小選挙区ごとの「支部」代表も、国会議員かその候補者が大半で、県議会議員や市町村議員ではない。地域で活動する市民でもない。結局、大政党の地方組織は、地方政治の主体ではなく国政選挙のための地方の手足なのである。これでは自治体の自立も、市民から出発する自治も実現できない。地方政治の主体が欲しい。

 私は、大政党に分権型改革が必要だと考える。党の地方組織を国会議員選挙の手足とするのではなく、地方議員を中心としたローカルパーティとしていく。自民党、立憲民主党など名前は同じでも地方の党は自立したローカルパーティとなり、国会議員を中心とした中央の党と対等で緊張関係を持つ。国政選挙は中央の指示ではなく、それぞれのローカルパーティが自分と連携する中央政党と協定を結んで応援すればよい。

福嶋浩彦

福嶋浩彦 中央学院大学教授、元我孫子市長、元消費者庁長官

 こうした政党の分権型改革を進めるには、国から党中央に巨額の政党交付金が支払われ、それを中央が自分の地方組織に「下ろす」という構造を変えねばならない。地方の政党には自治体から交付金を出せばよい。例えば市から市の自民党へ交付金が出れば、市民税を本当に有効に使っているか、政党活動に対する市民のチェックは格段に厳しくなるだろう。

 ただ、この政党分権改革は当面望めそうにない。従って、独立したローカルパーティを私たちの手で作っていくしかない。もちろん、大政党の分権改革が進んでも完全独立のローカルパーティは存在していいし、ますます活躍の基盤は広がるはずだ。

 なお現在、全国的に知られるローカルパーティの多くは、自治体の首長が中心になって作ったものだ。首長自らがローカルパーティを作り、自分の自治体の議会で多数を占めようとするのは間違っている。首長は議会を思い通り支配しようと思ってはならない。そんなことをしたら、市民から出発する自治ではなく「首長ファースト」の独断になる。

 首長のローカルパーティでもなく、議員ありきでもなく、市民から出発し、市民自らが政治に参加するために市民の手によってローカルパーティをつくる。これは私自身にとっても、大きな宿題であると考えている。

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