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自治体の「稼ぐ」姿勢は広告事業に現れる―財源確保と地域の自立 (2018/8/16 川崎市議会議員/地域政党あしたのかわさき 重冨達也)

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財源確保のために推進されつつある広告事業

 公共の役割やそれに対する期待が高まる一方で、自治体は財源を十分に確保することができないでいます。市民や議員から要望を受けたときに、言葉に出すかどうかは別として、自治体職員が「予算をどこからもってくればよいのか」と考えるということはよくあることではないかと思います。一方で、自治体の裁量で独自に課税を行い、財源を確保できている自治体が多いかと言えばそうでもありません。市民に新たな負担を求めることが適切かそうでないかという議論はあるにしても、そもそも首長も議会も負担を求めることが得意とは言えないからです。

大阪市広告事業行動計画の取組と成果

「大阪市広告事業行動計画の取組と成果」より

 そこで財源を確保するために自治体によって進められている施策の1つが広告事業です。広告付き案内サインや刊行物への広告掲載、ネーミングライツなどがよく知られている広告事業かと思います。「大阪市広告事業行動計画の取組と成果」を見る限り、自治体の努力次第で広告事業の効果額を伸ばしていくことは十分に可能であるように思えます。そして自治体による広告事業が注目を浴びたのは一昔前のことですが、その後の取組みによって自治体間ですでに大きな差がうまれています。

自治体ごとの特徴を捉えると打ち手が見えてくる

 広告事業の効果額は、バナー、印刷物、施設活用、ネーミングライツ、その他、に大別されます。平成28年度の政令指定都市の効果額の集計結果を見てみると、トップの大阪市6億円からワーストの浜松市1,500万円まで大きな差があります。もちろん自治体の規模によって広告事業の市場規模は異なり、プロスポーツなどで使用される集客力のある施設を所有しているかどうかも効果額に大きく影響するので一概に比較することはできませんが、人口1人あたりの効果額を比較した場合でも自治体間に大きな差があります。

人口1人あたりの広告事業効果額

 そして金額の大きいネーミングライツを除いた状態で、印刷物と施設活用のそれぞれが効果額全体でどの程度の割合を占めるのかを確認することで、各自治体の強みと弱みが浮き出てきます。

 例えば、このA市では、印刷物による効果額が大きく、施設活用に対する取組み十分ではない可能性があります。このような自治体では、道路占用条例や屋外広告物条例などに施設活用が進まない原因がないのか確認することが必要かもしれません。もしくは、そもそも公共の施設や空間を活用した広告事業の有効性などが各財産所管の職員に認知されていない可能性もあります。

 こちらのB市では印刷物による効果額が伸び悩んでいます。一般的に、印刷物の効果額は行政広報誌への広告枠の設定によるところが大きく、発行部数の多いものやターゲットが明確な刊行物が十分に活用されているのかを確認する必要があるといえます。

A市、B市

財源の確保は地域の自立との親和性も高い

 自治体の“稼ぐ意識”の高まりは、自分たちのまちは自分たちで盛り上げていくという民間の動きと結びつくことで地域の新たな賑わいや活力を生み出す可能性も秘めています。自治体が「公共空間で財源を生み出すことはふさわしいあり方ではない」という考え方を持っている場合、民間が公共空間を活用することに対しても消極的な支援に留まるか、もしくは規制する側に立ってしまうことが少なくないからです。

 公共空間で財源を生み出し、その財源で空間をより魅力的なものにしていくという意識を官民が共有することは、財源はどこかから引っ張ってくるものではないという、地域全体としての自治の精神を培養することにつながります。そしてまちづくりに地域で生み出された財源が活用されることによって、事業の成果に対する官民の意識も高まるのではないかと思います。

民間まちづくり活動の財源確保に向けた枠組みの工夫に関するガイドライン

民間のまちづくり活動財源確保のガイドライン(国土交通省)より

 国も財源不足という裏事情がありつつ、まちづくりの財源をそれぞれのエリアで生み出すことを促進したいという意識を年々強めているように思います。平成30年6月に閣議決定された、まち・ひと・しごと創生基本方針2018では、「地方都市において(中略)、地域の「稼ぐ力」や「地域価値」の向上を図る「稼げるまちづくり」を推進し、」と示されています。また同年8月に示された「民間まちづくり活動の財源確保に向けた枠組みの工夫に関するガイドライン」では、まちづくりの活動財源について新たに「再分配法人」という考え方を示しており、まちづくりの財源確保については今後もさまざまな手法が国から提案されることが想定されます。

 もちろんこれらの手法においても公共空間を活用した広告事業は財源の中核に担う可能性があり、官民の意識の共有やノウハウの蓄積を急ぐ必要があります。

まずは自治体全体として意識の共有・強化を

 ここまで公共空間と一言でまとめてきましたが、広告事業などで活用を検討すべき空間は、道路予定地、都市公園、公開空地、教育施設、港湾施設、駅前広場、企業会計に紐づく空間など、自治体内部においても多くの部署に存在します。それぞれの部署においては「適切な管理」が最重要のミッションであり、リスクを避けるために活用に対しては積極的ではないこともあります。印刷物なども含めて広告事業を促進していくためには自治体全体として「稼ぐ」ことの意義を明確にし、意識を高めていく必要があるように思います。

次回の地域政党サミットは9月2日(日)14時より、愛媛県松山市で開催です。詳細は以下のページをご覧ください。
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地域政党サミットの目的は以下の通り。(1)地域創生を進展させるために共同で活動を展開(2)政策、組織、運営などに関する情報交換を図り、地域政党の先駆けとしてネットワーク化を働きかける(3)健全な二元代表制の実現を図るために地方議員、地方議会の質の向上に向けた情報交換・事例共有・政策研究を推進
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