安易な自治体動画PRから「アンバサダー」の時代へ (2018/7/6 兵庫県議会議員/神戸志民党 党首 樫野孝人)
PR動画には目的の明確化と戦略性を
香川県の「うどん県」や私が企画に関わった広島県の「おしい!広島県」など、2012年に地方自治体PR動画が一躍注目され、それから全国各地でPR動画花盛りとなりました。大分県の「シンフロ」や宮崎県小林市の「ンダモシタン小林」のように話題となったものもあれば、制作したものの再生回数が全く伸びず自己満足的な動画で終わったケースも数知れず。「テレビCMは予算的に無理だけど、ネット動画なら安く作れて、あわよくばPPAPのような大ヒットも夢では・・・」なんて、甘い考えがあったのではないでしょうか?
やはり、ブームに乗って動画制作に入る前に目的の整理をし、きちんと全体戦略を練ってから取り組むべきでしょう。例えば、広島県の場合は有吉弘行さんをキャスティングしましたが、単に毒舌芸人として人気急上昇だったからだけではなく、インターネット普及時代の購買行動モデル「AISAS」を意識した戦略を立てました。AISAS(アイサス)は日本の広告会社である電通によって提唱されたモデルで、A…認知・注意(Attention) I…興味・関心(Interest) S…検索(Search) A…行動(Action)S…共有(Share)の全5段階のプロセスによって構成されています。
当時、有吉弘行さんのツイッターのフォロワーは全国トップクラスの100万人を超える状態でした。そこにAISASモデルのアテンション(認知・注意)を「おしい!広島県」という自虐的動画で仕掛けた後、SNSで拡散し、楽天トラベルやじゃらんネットで宿泊客を刈り取るという計画でした。
もちろん、観光戦略と食(地元農産物)や土産物(地域工芸品)は相性が良いので、「おしい!広島レモン」や「おしい!広島カキ」「おしい!広島風お好み焼き」「おしい!三原タコ」「おしい!熊野筆」など、「おしい!」の冠をつけて部局横断のキャンペーンとして動かしていったわけです。
京都市では流行りに頼らない独自の試み
一方で、京都府の観光プロモーションは「既にブランドの王様」である京都に「おもしろ動画」は必要ないと判断し、上質のライフタイムが長い企画を立てました。映像は瞬発力はあるものの、何度も見るリピート性が足りないからです。そこで考えたのが音楽ベースのプロモーションです。映像は2~3度見れば当分観ないと思いますが、音楽は毎日聞けますし、BGMという脇役にもなれます。この息の長い企画が京都にはぴったりだと考えたのです。
そこで世界的なバイオリニストの葉加瀬太郎さんに楽曲制作をお願いし、「森の京都・お茶の京都・海の京都」という組曲が誕生します。この組曲を劇版音楽として観光映像も制作しましたが、本当の狙いはその後の「駅舎でのジングル」「タイアップコンビニの店内放送」「葉加瀬太郎さんのコンサートでの演奏」「葉加瀬太郎さんのアルバムへの収録」「京都府内の中高生による演奏会や合唱コンクール」と続く企画でした。今年で4年目になりましたが、まだまだ息の長い企画となりそうです。
人口46万人のまちが144万人とつながる
そして、これから大注目を集めるであろう企画が、広島県福山市が進めている「福山アンバサダー」です。ネスカフェ・アンバサダーは皆さんご存知だと思いますが、「好意を持ってくれている方々による善意の情報循環」システムとでも言えるでしょうか。
我々は日本でも馴染みがある「アンバサダー」という名称を使っていますが、本来は「グランズウェル(groundswell)」といい、「大きなうねり、高まり」の意味で、米フォレスター・リサーチ社のアナリストが今のソーシャルテクノロジーの隆盛によるユーザーの変化を分析し、その変化の流れを捉えてグランズウェルと呼んだそうです。このグランズウェルとは社会動向であり、人々がソーシャルテクノロジーを使って、自分に必要な情報を、企業からではなく、別の個人から調達することなのです。
現在、福山市の魅力を積極的に発信してくれるアンバサダーは404名。そのフォロワー数の合計は144万人にも及びます。この方々を中心に、以下の5つの戦略を進めていく予定です。
- 傾聴
- グランズウェルの「傾聴戦略」を使い、市民インサイトを観察します。アンバサダーのブログやSNSの書き込みを分析し、社会の空気をモニタリングします。
- 会話
- アンバサダーのSNSやUGC(ユーザー生成コンテンツ)サイトを軸にして生まれる市民との会話によって、生の声を聞いていきます。
- 活性化
- 福山市に愛着を持つアンバサダーは、エンゲージ度も高いです。特にクチコミでの効果は大きいので、レビューや格付けを導入し、熱心なアンバサダーに活躍してもらいます。定期的にアンバサダーミーティング(オフ会)を開催し、「写真の撮り方講座」を開いたり、市長からの感謝状などの名誉を付与することで、さらなる情熱を注いでもらうよう工夫しています。
- 支援
- 従来は、企業が顧客に提供していましたが、グランズウェルではアンバサダー同士が助け合います。同じ目的を持ったアンバサダー同士が意見交換できるサイトを作り、励ましあうプラットフォームを提供することで、先に挙げた他のグランズウェル戦略の実践も容易になります。
- 統合
- アンバサダーのアイデアを次の展開に取り入れていきます。既に「書き込み・シェアの定例日つくり」や「お互いに褒め合う慣習」「インスタ映えスキルの共有化」など、オフ会でもらった意見がどんどん現実化しています。
このように、グランズウェルのベースにあるのは、「人々はもともとつながりたい」という基礎的な欲求であり、その欲求を正しく満たすことができれば、強いエンゲージメント(愛着)に導くことができます。新しい潮流としての「福山アンバサダー」の動向にご注目ください!
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兵庫県議会議員 神戸志民党 党首 樫野孝人
(株)リクルートで人事、福岡ドームでイベントプロデュース、2000年に(株)アイ・エム・ジェイ代表取締役社長に就任し、ジャスダック上場。2013年神戸市長選挙に立候補。156214票獲得するも5675票差で惜敗。著書に「無所属新人」「地域再生7つの視点」「おしい!広島県~広島県庁の戦略的広報とは何か?~」「人口減少時代の都市ビジョン」など。
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