第74回 議場は何を為すべきところか~議場へのパソコン持ち込みを巡る一考察~  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】

第74回 議場は何を為すべきところか~議場へのパソコン持ち込みを巡る一考察~ (2014/2/26 船橋市議会議員 日色健人氏/LM推進地議連会員)

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政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。現在は、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を連載しています。第74回は、千葉県船橋市議会議員の日色健人氏による「議場は何を為すべきところか~議場へのパソコン持ち込みを巡る一考察~」をお届けします。

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船橋市議会議員 日色健人氏

船橋市議会議員 日色健人氏

 私の暮らす船橋市は千葉県北西部に位置し、人口62万人弱を擁する県内第2の都市である。東京まで30分余りという交通至便の地であり、古くから宿場町として商工業が発展してきただけでなく、東京湾の恵みも受ける自然豊かな街でもある。

 一昔前は船橋ヘルスセンター、スポーツの強豪市立船橋高校が勇名をはせていたが、昨年からは「ふなっしー」なる市非公認キャラクターが一躍その名を全国のお茶の間に届けるようになった。おかげで、どこの自治体に視察に行っても、「ああ、ふなっしーの・・・」で会話が弾むようになったのはありがたいことである。

 市議会の定数は50人、いわゆる「議会改革先進自治体」では決してないが、それでも昨年より市議会独自のLINEアカウントを取得して情報発信を始めるなど、議会改革に向けたさまざまな取り組みを試行錯誤しているところである。

 そのような中、過日開催された議会運営委員会で議場へのパソコン持ち込みをめぐる議論が展開された。いわゆる先進市では議会全体でのタブレットやスマートフォンの導入などの取り組みが進む中で、いまさら何をやっているのかとあきれる向きもあるだろうが、それでもなお、おそらく全国津々浦々の議会運営委員会で同様の(かみ合わない)議論が行われていることと推察することから、改めて論点を整理して有権者の方にもご覧いただくとともに、「そもそも議場は何を為すべきところか」という観点からこの問題を考えてみたい。

(1)議論の経過

 当市議会では数年前より、たびたび議場へのパソコン持ち込み許可を求める提案が議会運営委員会になされ、その都度合意に至らず先送り(現状維持のまま禁止)されてきた。一方で、委員会室への持ち込みはそれぞれの委員会の判断に委ねられることとされ、複数の常任委員会では委員による合意を得てすでにパソコンの持ち込みが委員長より許可されている。

 そのような中、先般の本会議において議会運営委員会に参加していない無所属議員が議場にタブレットを持ち込み、開会前に議長より持ち出しを指示されるというハプニングが起こったこともあり、改めて議会運営委員会において議論されることとなった。

 なお、当市議会の会議規則における携帯品の規制などについては標準会議規則に準じたものとなっており、パソコンの持ち込みを禁止する明文の規定はないものの、議会運営委員会での議論に基づく事実上の申し合わせとして現時点では持ち込みを禁じることとされている(携帯電話についても同様)。

 また、全国的には、やや古いデータではあるが2011年12月末現在で、議場でのパソコンの使用を許可しているのは809市中29市(3.6%、全国市議会市長会調べ)であり、今日では若干の増加はあると思われるものの、一般的と呼べるには程遠い状況である。

(2)持ち込み賛成派・反対派それぞれの主張

 典型的な賛成派・反対派の主張と反論を、簡単にだがまとめてみるとこのようになるのではないか。

賛成派の主張 反対派の反論
メモをとるのにPCを使いたい 紙とペンで十分
資料や例規集をデータで持参・閲覧したい これまで通り紙資料で持ち込めばよい
議論で出た事例や用語をネットですぐ調べたい 会議終了後に行えばよい
反対派の主張 賛成派の反論
キーボードの音がうるさい、ディスプレイが目障り 個人の感覚の問題
ゲームやネット閲覧などで遊ぶ者が出る 個人のモラルの問題
ツイッターなど外部への情報発信を防げない 個人の使い方の問題
パソコンを使えない議員もいるので不公平 使う使わないは個人の自由

 要約すると、日常的にツールとしてパソコンを使用している議員が、議場においても個人の責任において同様に使用したいと希望するのに対し、通常そうしたツールを使用しない議員が、さまざまな可能性を危ぐして消極的な態度を取っており、従来通りでも審議になんら影響がないことから全体の合意が得られず禁止となる、というのが多くの議会における現状ではないだろうか。

 そして、こうした現状に対し、(多くは若手の)賛成派の議員が、議会とはなんと時代遅れのところか、民間で会議にパソコンを使わないことなどありえない、自分が使えない(使わない)からといって他人にも禁止するのは納得がいかない、と憤っているという構図が見えてくる。

(3)問題の根底にあるもの~議場は何を為すべきところか~

 筆者は基本的に賛成派の立場でこれまで発言を行ってきているが、上記のようなかみ合わない議論を繰り返す中で、そもそもなぜ議会で(議場で)パソコンが必要とされなかったかという観点から改めて考えてみることとした。

 結論からいうと、地方議会の議場とはそもそも質問者と発議者(議案提出者)である答弁者との間で行われる質疑を中心とした議論、そしてその結果として導き出される議決のために設置された空間であって、発言者以外のその空間に在席するものはただひたすらにその議論を「聴く」ことによって議決に至る心証を形成することを求めているからではないか、というものである。

 そして、その「聴く」ことを妨げる可能性のある(聴覚以外の五感を刺激する)あらゆるものを排除するべく議場は設計され、会議規則は制定されている。全国各地の議場を訪問しても、窓のない議場は多いし、喫煙や食事はもちろん、水すら飲めないのが一般的ではないだろうか。

 こうした考えが根底にあることから、議論を「聴く」ことを妨げる可能性のあるパソコンの持ち込み(メモを取ったり、調べ物をしたりという『聴く』以外のためのツールの持ち込み)について、議場は(議会は)そもそも否定的とならざるを得ないのである。

 こうした考えに基づく見方は、パソコンを使わない議会の長老議員だけでなく、意外にも広く国民一般に受け入れられている可能性がある。典型的なのは、国会中継における議員の居眠りやヤジに対する強い批判の声である。毎年通常国会が始まると、新聞の投書欄に議員のこうした態度を批判して「税金ドロボー」と非難する声が掲載されるが、これは国民一般の「議場で議員は静粛に、威儀を正して発言を聴くべき」という暗黙の理解(期待)があることを意味している。議席で議員が一斉にパソコンを開いていたら、おそらくまた「パソコンで何をやっているかわからない」との批判が寄せられるだろう。

(4)むすびに

 正直に話してしまえば、議場にパソコンの持ち込みを認めるか認めないかなどということは、瑣末な問題であって、どちらでも構わない。

 ただ、この論点をめぐって、そもそも議会とは何のためにあるのか、その期待された目的を達するために必要な手段はどのようにあるべきか(「聴く」以外のどのような作業があり得るか)、そしてそのために設置される議場という空間はどのように利用されるべきか、その中で用いられるツールはどのようなものが認められ得るか、といった視点から丁寧な議論が行われることには大きな意義がある。すなわちそれは、議会に、またわれわれ議員一人ひとりに求められるものを再確認し、それぞれの議会ごとに共通した認識を構築する作業でもあるからである。

 ぜひ、若手と長老の対立といった不毛な議論で終わらせることなく、自らの議会のあり方を根底から考える契機としたいと思うところである。

著者プロフィール
日色 健人(ひいろ たけと):1978年9月生まれ。35歳。早稲田大学法学部卒業。サラリーマン生活の後、2003年に単身渡米しアメリカ合衆国を南北に縦断するパシフィック・クレスト・トレイル4200kmを徒歩で踏破。2007年4月の船橋市議会議員選挙において初当選。現在2期目。文教委員会委員長。第5回マニフェスト大賞優秀政策提言賞受賞。
HP:船橋市議会議員 日色健人オフィシャルウェブサイト
twitter:船橋市議会議員 日色 健人
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