【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】
第72回 虚しさだけが残る都知事選。今、必要なのは (2014/2/12 武蔵野市議会議員 川名雄児氏/LM推進地議連会員)
政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。現在は、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を連載しています。今回は9日に投開票のあった東京都知事選について、東京都武蔵野市議の川名雄児氏に寄稿いただきました。都民として、議員として、間近で今選挙戦を見つめた川名氏が感じた懸念とは?
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2月9日の夜、私は武蔵野市の東京都知事選挙の開票所にいた。投票が締め切られたのが20時だが、この時間を過ぎるとあっという間に当確がマスコミから流れ、候補者の万歳がテレビには映し出されていた。まだ開票箱が開票所へ運ばれてもいないうちにだ。
接戦ではなかったことや出口調査などマスコミの調査力の勝ちともいえる早業だろう。だが、釈然としないのはなぜだろう。そして、今回の都知事選挙では何が問われていたのか。
すっきりしない候補者。争点なき選挙
今回都知事選挙は、政党が除名した人をその政党が応援したり、政党の党首だった人が対抗馬の応援をしたり、あるいは、立候補を打診して断られた候補を「組織的勝手連」という新たな言葉で支援したり、選対仲間での内輪もめがあったりと、応援する側でもすっきりとしない選挙だった。応援する大義がないと言い切った国会議員もいたように、応援する側にも、この候補者で本当にいいのか。同じ主張ならまとまれないのかなど、選挙に力が入らないとの話を多く聞いた選挙でもあった。
挙げ句には、事実かどうかまでは確認できないが、過去の発言からの誹謗中傷も多く見かけた。候補者同士が街頭で言い合うようなことまではなかったようだが、ネット上ではマイナス思考の足の引っ張り合いの様相も現れていた。
有権者から見れば、有力と言われた候補者の間で大きな争点はなかったのではないだろうか。対立軸に上がったのは原発ぐらいだが、東京都として考えなくてはならない重要なテーマで否定できないとはいえ、国政絡みであり、都知事選挙だけで決まるものでもない。原発よりも優先される政策があるのに、この選挙で何が変わるのか分からないと多くの都民は考えたのではなかったか。その結果が、大雪の影響もあってか、過去3番目の低さの投票率、46.14%になったとしか思えない選挙だった。
選挙前に決まる選挙
結局、今回の都知事選挙の結果へ何が最も決定打になったのだろうか。自民党・公明党の政府与党が応援したから決まったのだろうか。
事実はどこまでかは分からないが、事前のリサーチ、データ解析が勝負も決めていたようだ。つまり、事前のデータ解析ですでに勝負は決まっていたのが今回の都知事だ。
詳しい解析は専門家に譲るとして、舛添都知事がなぜ誕生したかといえば、事前調査で最も人気が高かったからにほかならない。厚生労働大臣の経験や都知事選挙に出たことがある経歴など、何が有利だったのかまでは分からないが、限られた選択肢の中から、なんとなくの好感度で決められていたとしか思えない。細川・小泉連合という大きな話題があり、選挙期間中の街頭演説でいくら人が集まったとしても、結果的には事前のデータが覆らなかった選挙だった。
この結果を考えれば、候補者を事前にリサーチし、高い者から立候補させて当選というパターンが今後も続くのだろう。候補者を立てる側からすればもっとも効率がいい勝つ選挙だからだ。
“戦後レジューム”の脱却?
地方議員の選挙では、選挙期間中は終盤戦。いや、入る前に結果は固まっており、選挙期間中は儀式のように形通りのことを行うだけとも言われている。
これは自らの名簿がしっかりしている議員の場合で、事前にどの程度の票になるのか、アナログ的な手法も含めた「リサーチ」を行っており、票が固まったうえで選挙に入るパターンの場合だ。選挙の規模は違っても、事前に勝負が決まっている点では、今回の都知事選と同じだ。
これらを考えれば選挙期間中はもはや意味がない。選挙なんか必要ないとならないだろうか。当選者は、事前の知名度で決まるのだから、街頭演説は不要だ。聞きたくない人に大音量の演説は迷惑以外の何ものでもないのだから、いっそのこと、ネットだけでやってもらえれば、聞きたい人が聞けて好都合だろう。紙資源の節約に政策チラシも配らなくてもいい。
立候補したい人は、事前の知名度をいかに上げるかを考え、政党などは知名度の高い人から候補者を選べばいい。以前、話題となったタレント議員の強さこそが当選の条件となり、今までのような古典芸能的な選挙をやめてもいいとなるのが今回の結果だ。今回の都知事選挙だけではなく、国政選挙の様子を見ていると、今後も同じようなことは続くだろう。いっそのこと、これまでの選挙制度、選挙体制(=レジューム)を変えたほうがいいとなりそうだ。
とはいえ、自らの定数さえ決められない国会だ。法的に今の体制、選挙制度は変わらないだろう。
制度、体制はともかくとして、このままでいいのだろうか。
虚しさをなくすにはマニフェスト
今回の選挙で顕著だったのは、「誰に入れていいのか分からない」「候補者の名前は知っていっても何をしたい人なのか」「政策についても具体策が全くなく選びようがない」という多くの声だ。ある候補者の応援をした私でさえ、そう思ったほどだ。
選挙は、本来、今後の任期に何をするのかを有権者に示し、当選したことで約束を果たすことが求められている。候補者の人柄という要素は加わるにしても、政策を選択するために行われるのが選挙であるべきだ。都知事や地方議員、国会議員や多くの首長は有権者の代表であり、有権者の代わりに有権者の生活に影響を及ぼす物事を決める。何を決めるか、イメージだけで選んでいいはずはない。
このことに有権者はもっと気が付き、今回のような都知事選挙を繰り返してはならないと考えるべきだ。そして、候補者となる側は、イメージ勝負ではなく、約束をもって立候補をするべきなのだ。そこから、虚しさが残る選挙をなくすことなる。地味だが最も必要なことだと改めて気付かされたのが、今回の都知事選挙だった。
約束とはマニフェストのこと。民主党政権の失敗でマニフェストという言葉への信頼感が危うくなっているが、問題は中身だった。アジェンダでも公約でも言葉はなんでもいい。確実に、分かりやすく伝わりやすい約束にすること、有権者が判断できるものにすることから、選挙は変わり政治はよりよくなる。そう確信したのが今回の都知事選挙だった。そうしなければ、ただでさえ信用が低い政治はさらに悪くなる一方だ。
イメージによる人気投票ならAKB総選挙のほうがはるかに盛り上がり、多くの人に影響は及ばない。虚しい選挙は、もう止めにしよう。
- 著者プロフィール
- 川名雄児(かわな ゆうじ):東京都武蔵野市議会議員。現在3期目。ローカルマニフェスト推進地方議員連盟事務局長。フリーライター、カメラマンとしてパソコン雑誌などで執筆をしていたこともあり、ネット選挙解禁には大きな注目をしていた。「デジタル家電ビジネスのしくみ」(明日香出版)、「二時間読み切り電子メールの本」(ジャパン・ミックス)などの著作がある。
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