【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】
第68回 不可解な審議であったが、これを教訓に議会改革を進めていきたい (2014/1/15 岐阜県議会議員 太田維久氏/LM推進地議連会員)
政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。現在は、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を連載しています。第68回は、岐阜県議会議員の太田維久氏による『不可解な審議であったが、これを教訓に議会改革を進めていきたい』をお届けします。
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岐阜県議会、改革の現状
岐阜県議会は定員46人(現在1人欠員)。このうち最大会派が30人を占めています。私が所属する第二会派の県民クラブで8人。その他会派を含めても数の違いは歴然としています。
一方、岐阜県議会の議会改革は遅々として進みません。会派代表等からなる議会改革活性化委員会が設置されているものの、現在のところ議会基本条例すらありません。
目立った改革としては、昨年度からようやく代表質問のみ、一問一答形式に近づけようと分割質問の導入がなされたこと、現在は地元民放が本会議の中継を行っているものを来年度からインターネットでも閲覧できる見込みとなったことくらいです。本会議質問に対する執行部の反問や議員間の自由討議なども行われていません(詳しくは議会改革白書2013年版・全国自治体議会運営実態調査をご参照ください)。
こうした状況なので、執行部としては最大会派への配慮・根回しをしておけば至極円滑な議事審査ができるのです。
ところが、今年秋の定例議会では最大会派の県政自民クラブが「防災情報通信システムの強化に関する議案」に異議を唱え、知事提出議案が否決される「椿事」に陥りました。レポートではこの経緯と、審議を通して見えてくる岐阜県議会の課題についてお伝えします。
不可解な審議と教訓
問題となった防災情報通信システムは、大規模な災害時にNTTなどの事業者回線が断線や混雑で使用できなくなることに備えて整備するもので、県や市町村、消防本部や各種防災機関を専用回線で結ぶものです。
岐阜県の場合、現行のシステムが運用を開始したのが1995年で、設備の老朽化、保守部品の製造中止などでトラブルがたびたび発生していました。そこでシステムを更新し、動画伝送なども容易なデジタル回線に切り替える計画が立てられました。同様の事業は他県でも取り組まれています。
今年春の定例会では、(財)自治体衛星通信機構の通信網を使う「衛星系」システムとこれまでに県独自で整備した光ファイバー網も利用する「地上系有線」システムを2015年度中に先行して整備し、可搬式の無線機と中継局を整備する「移動系」のシステムを2017年度めどに追って整備をするという「二層先行方式」の事業が了承されました。今年6月には入札が行われ、設計金額およそ69億円に対しおよそ54億円で落札した大手電機メーカーとの間で仮契約も結ばれました。
ところが10月の定例会で、正式な契約をするために工事請負契約を審議する総務委員会の開催日直前になって「最大会派がこの議案を否決する意向だ」とささやかれ始め、総務委員会では「この議案を否決する」との委員長報告を本会議採決で行うことが決まりました。
否決の理由について、最大会派の議員は「『二層』でなく『移動系』を含めた『三層』のシステムを一から作るべきだ」「落札額が低すぎる、総合評価方式に改めるべきだ」などと述べたそうです。議案に賛成したのは私たち県民クラブ所属の議員だけでした。
結局、本会議採決では討論はあったものの、賛成15人(県民クラブ、公明党、共産党、無所属議員)対、反対30人(県政自民クラブ)で否決されました。前述の通り、知事提出議案が否決されたのは、現在の古田肇知事になって初めてのことです。
否決によって、先の仮契約は反故になってしまい、落札業者の意向によっては県が訴えられる可能性もあるということです。また「三層」のシステムを設計段階から作り直すので、額は確定していないものの数百万円から千万円単位での経費の無駄も予想されます。何より2015年度中には「二層」が先行して稼働するはずのところが、2018年度にようやく「三層」での稼働開始となり、事業に3年の遅れが出てしまうということです。
南海トラフを震源とする大規模地震が予想され、また集中豪雨による膨大な被害も毎年のように発生している状況で、住民の避難情報などに役立てる防災インフラの整備が遅れることは望ましいことではありません。
こうしたことを受けて、11月下旬になって県議会議長が「提案」として「基本設計と実施設計を一緒に行うことで稼働開始を急ぐよう」と知事に申し入れました。しかし、このような「提案」をするのなら、否決をしなくてもよかったし、あとで事業に疑問が出てきたというのなら会期中にしっかり審議し直せばよかったのです。
不可解な審議でした。今年春の定例会では全員が賛成した事業について、納得できる理由もないまま、今度は否決してしまうのですから。この審議で見えてくる問題は多々ありますが、ここでは議会での審議についての問題点と改善の方向について列挙します。
岐阜県議会の場合、委員会での審議が見えづらい状況になっています。現在6つある常任委員会は同日同時間に行われ、議員は所属以外の委員会について、基本的に傍聴はできません。しかし審議中は撮影が行われ県庁内の共聴システムで視聴可能になっています。これをネットでも見ることができるようにして、どの議員がどんな発言をしているかが誰でもわかるようにすると望ましいと思います。常任委員会の審議時間も長くて2時間程度なので、時間と日をずらして審議することも議会活性化に寄与します。委員会審議の見える化が重要です。また、重要議案については、限られた委員会所属の議員だけで審議をするのではなく、議員間討論が行える全員協議会の開催も一案です。
そして今回のような技術的に専門性の高い内容の議案については、会期冒頭に行われる議案説明会あるいは委員会での審議にあたって、中立的な専門家に意見を聴く参考人招致、または多様な意見を聴く公聴会があってもよいと思います。
今回の「防災情報通信システム」の審議は、並行して「岐阜県の指定金融機関選定議案」という、これも最大会派と執行部とが対立してきた審議も行われてきました。どちらの議案にしても、議会改革が進んでいたらこれほどまでに強引な審議は行えなかったのではと思います。不可解な点は多く残りましたが、だからこそ議会改革を進めなければならないことが明確になりました。この思いを議員間、そして県民のみなさんと共有し、歩みは遅くても、県民参加がしやすい開かれた岐阜県議会を作っていきたいと考えています。
- 著者プロフィール
- 太田 維久(おおた まさひさ):1968年神奈川県生まれ。上智大学新聞学科卒。NHK記者として15年間勤め、2006年退職。2007年の統一地方選挙で、かつて勤務した岐阜市の選挙区から岐阜県議会議員選挙に立候補して初当選、現在2期目。所属会派は県民クラブ(民主系と無所属で構成)。循環社会防災対策特別委員会副委員長などを歴任。社会保障分野に力を入れており、厚生環境委員会に5年続けて所属している。岐阜市中心部のイベント「ぎふジャズストリート」など市民活動にも関わる。
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