【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】
第49回 有害鳥獣に対する取り組みと日本オオカミ再導入に向けた課題 (2013/8/28 長野県須坂市議会議員 宮坂成一氏/LM推進地議連会員)
政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。現在は、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を連載しています。第49回は、長野県須坂市議会議員の宮坂成一氏による「有害鳥獣に対する取り組みと日本オオカミ再導入に向けた課題」をお届けします。
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須坂市は
須坂市は、県庁所在地の長野市の東12キロにある人口5万2,000人(2013年8月1日現在)の町です。戦前は製糸で栄え、多くの蔵が残り『蔵の町すざか』として保存活動が進められています。
富士通信機製造株式会社(現在の富士通)が疎開してきたことにより、戦後は製糸から電子工業の町として発展してきました。
主な産業は、戦前は製糸業で発展し、戦後はりんご、ぶどうを中心とする果樹産地として、長野県果樹試験場が市内にあることから、りんごでは「シナノゴールド」、ぶどうでは「ナガノパープル」といった新品種が生みだされ、全国の市場に出荷されています。
赤カンガルーの「ハッチ」を中心とした須坂市動物園は、小さな子供からお年寄りに親しまれており、秋の収穫シーズンには『竜の里健康マラソン』や、落差85メートルの不動滝、75メートルの権現滝がある米子大瀑布などに多くの観光客が訪れます。
今、地方が抱える課題「有害鳥獣対策」
信濃毎日新聞によると、長野県林務部は7月24日、以下のように発表しました。
「2012年度の野生鳥獣による県内の農林業被害額は、前年度比10・8%減の12億6400万円となり、比較可能な03年度以降で最少だったことが24日、県林務部のまとめで分かった。被害額の減少は5年連続。ニホンジカを中心とする個体数調整(駆除)の強化や侵入防止柵の設置による成果が出たとみられる。ただ依然として被害は深刻で、県は捕獲を担う人材の育成や防止柵の設置拡大にさらに力を入れる方針だ。」
「12年度の被害額を動物別にみると、ニホンジカが全体の35・1%を占める4億4400万円で最多。鳥類は17・6%の2億2200万円、クマは11・3%の1億4300万円、イノシシは10・4%の1億3100万円だった。」
「野菜や果実などを食べられる農業被害が前年度比6・9%減の7億9400万円、樹皮が食べられる林業被害が同16・7%減の4億7千万円だった。」
「一方、12年度のニホンジカの駆除と狩猟を合わせた捕獲頭数は前年度比23・9%増の3万3668頭。狩猟で毎年ほぼ一定の頭数が捕獲されているが、近年は市町村などによる駆除が急増し、12年度は捕獲頭数全体の8割近い2万6773頭に上った。」
(信濃毎日新聞2013年7月25日付より引用)
私の住む須坂市では、サル、イノシシ等の有害鳥獣対策として、電気柵の設置に必要な部材を提供。山に接する各町が対策委員会を立ち上げ、総延長50キロにも及ぶ電気柵の設置を行ってきました。
2012年度の須坂市の一般会計当所予算は207億円、電気柵の資材に約1億円が予算化されました。鳥獣対策としての電気柵の設置が無ければ、老人福祉や子育て支援などにも回せ、財政規模の小さな地方都市にあっては、非常に大きな金額となっています。
電気柵の設置は恒久対策となるのでしょうか。電気柵設置後の維持・管理にも膨大な手間が掛かります。夏の暑い時期は草がすぐに伸び、電気柵に接すると漏電し、電気柵としての機能を果たさなくなるため、最低でも2週間に一度は点検・整備が必要です。高齢化が進む中山間地の農家にとって、かなりの負担となっています。
心配なのは、ニホンジカが増えることによる生態系の破壊と災害の多発化
2012年6月~7月、私は長野県の南アルプス北沢峠、美ヶ原、霧ヶ峰、八島湿原、メルヘン街道麦草峠、高ボッチ高原等の高山帯におけるニホンジカによる樹皮被害の状況を見てきました。
霧ヶ峰では、この時期満開となるニッコウキスゲがほとんど姿を消しています。わずかに生えているのは電気柵で囲われた中にあるだけ。5年程前には、霧ヶ峰一体が黄色くニッコウキスゲで色づいていたのがうそのようです。
国の天然記念物の八島湿原内にも、ニホンジカが夜になると活動しているとの説明もあり、長野県の貴重な観光資源である高山植物も食害に遭っています。
茅野市から麦草峠に続くメルヘン街道沿いの木々は、ニホンジカによる樹皮はぎ被害がもっとも深刻に思えました。樹皮がはがされ水分が行き届かない樹木は立ち枯れています。
最近多くなったゲリラ豪雨等の自然災害に加え、高山帯の樹皮がはがされた木々が枯れることにより、山の保水能力は無くなり、ちょっとした雨でも山肌が浸食され、下流に大きな災害となって襲いかかります。
大台ヶ原や伊豆で起こっていたニホンジカによるはく皮被害が、全国に広まっています。7月29日のデーリー東北新聞は「青森県内でニホンジカの目撃件数増える」と報じています。農林水産省、林野庁、環境省の積極的な関わりが必要であることは言うまでもありません。
生物多様性とオオカミ再導入による生態系の維持管理を
※この段落は一般社団法人日本オオカミ協会HPからの引用・抜粋です。
2.日本でオオカミが絶滅したというのは本当? 絶滅したのはいつ?
日本でオオカミが絶滅したのは明治時代末との説が有力です。明治時代には、北海道、東北だけでなく、中部、関西などの各地でオオカミが生息していました。最後の確認は、北海道では1896年(明治29年)函館の毛皮商が取り扱ったもの、本州では奈良県で1905年に捕獲されたものといわれています。
3.日本でオオカミが絶滅した原因は?
オオカミが絶滅した理由は次の5つです。
① 明治時代のシカやイノシシなどの乱獲で、オオカミの食物が少なくなり、数が減った。
② 乱獲により餌動物が少なくなり、馬など放牧家畜に被害を出して駆除された。
③ 文明開化にそぐわない野獣という政策的な理由で駆除された。
④ オオカミの毛皮や骨肉は価値(骨は民間薬)が高かったので、換金目当てに乱獲された。
⑤ イヌからの伝染病に罹った。
17.自然を守り、農林業を救う方法は?
頂点捕食者オオカミの復活による生態系の食物連鎖の修復が不可欠です。同時に、開発を抑え、自然再生を進め、生物多様性を高め、合理的な農林業を行うことが基本です。そして、①オオカミの復活とともに②ハンターの確保が必要です。オオカミは奥山を中心に、ハンターは里山、農耕地、集落や町など私たちの居住地域の守りにつきます。
<頂点捕食者・オオカミの絶滅とその放置が招く生物多様性低下と生態系崩壊>
絶滅種、とりわけ生態系のネットワークの要に位置する頂点捕食者の復活は、生態系の存続にとって欠かせません。日本で1世紀前に絶滅したオオカミ(正しい呼称はハイイロオオカミ)はそうしたかけがえのない頂点捕食者だったのです。
シカやイノシシの異常な増加による、植生破壊、自然生態系の荒廃、生物多様性の低下や農林水産業被害の増加は、北は知床から南は屋久島まで、全国各地で有効な対策を欠いたまま際限なく日々深刻化しています。この原因は、シカやイノシシの天敵だった頂点捕食者オオカミの絶滅にあることは明らかです。
しかし、その対策は、侵入柵の建設と捕殺(狩猟、駆除)の二つしか行われていません。今や、これらだけでは、効果がないことは明らかです。害獣の移動を妨げる侵入防止柵の建設だけでは、農地やごくわずかな植生の保護はできても、増えすぎたシカやイノシシの数そのものを生態系が許容する密度にまで減らすことには役立ちません。そのためには、どうしても狩猟や駆除、それにオオカミ復活は欠かせません。しかし、1970年代以降、狩猟者の減少が止まらず、ごく近いうちに消滅すら心配されています。困ったことには、オオカミ復活を口にするのはタブーのようにはばかられています。このような現状では、生態系とつり合う適正なレベルにまでシカやイノシシを減らすことなど、いつまでたってもできない相談です。
オオカミ先進地ドイツ・ラウジッツ地方を視察して
7月8日から11日まで、オオカミ先進地であるドイツ・ラウジッツ地方を視察してきました。日本オオカミ協会(JWA)主催による現地視察です。2012年、協会ではドイツからマグネス・ヴエッセル氏(NABU/地球の友ドイツ)を招聘(しょうへい)し、全国11都市で連続シンポジウム「日本人の心に根ざしたオオカミ恐怖感の払拭とオオカミとの共存」事例を紹介していただきました。
しかし、いまだ国民の中にはオオカミは怖いもの、人を襲う(赤頭巾ちゃん症候群)等の懸念を持つ人がいます。
「百聞は一見にしかず」ではありませんが、今回、実際にオオカミが復活し(ポーランドより移動してきた)、生息地域を拡大しているドイツを視察しました。
視察目的は以下の点です。
(1)オオカミは、広大な森林原野に限ることなく、人々が普通に田園生活を営む文化、 景観地域でも生息
が可能であること。
(2)オオカミが人を襲うのではとの恐れは、何の根拠もない杞憂(きゆう)であること。
(3)適切な対策を講じるならば、家畜被害を防げること。
(4)ドイツのオオカミ保護に関する普及啓発活動を直接見聞すること。
最初の視察地は羊農場で、農場の規模は親羊と子どもが1,700頭(肉用)おり、ピレネー犬(護衛犬)8頭で護衛しているとのことでした。視察した羊舎では、羊350頭にピレネー犬2頭が一緒に生活をしていました。子羊は1歳で外に出し、冬は羊舎に入れるとのこと。
「オオカミは、人間と共存していたので問題あるとは思わない。デンマーク、スペイン、ポルトガルなどヨーロッパ全域にいた。たくさんいたときは、護衛犬も少なかった」ということでした。
羊農場見学。羊が250頭放牧され、2匹のメスの護衛犬が放されていました。バスの中で見ていると、係員に連れられた猟犬が金網で囲われた牧草地のそばに近づくと、どこからともなく護衛犬が吠えながら同じ方向に追い上げていました。
2日目に、ゲーリッツ自然博物館を訪問し、ヘルマン・アンゾルゲ教授(哺乳類部長)により、研究している内容の説明を受けました。
女子学生のマリアさんからは、オオカミと犬の違いや歯・頭蓋骨などから年齢を突き止めていること、ヤーンさんからは、オオカミの「えさ」について、カリーナさんからは、動物の死骸から、食べたものや、死んだものか殺されたものか調べている、ことなどを聞きました。「オオカミの食物の7~8割がシカである」ことなどの説明を受けました。
リーチエン町(ラウジッツ地方)の観光公園で、ラルフ・ブレーマー町長(46歳。1期目 、任期7年)に迎えられ、「ポーランドからドイツにオオカミが来た直後は、オオカミに不安を持つ人もいたが、昔からいた動物で賛成している。オオカミが増えすぎることはない。人を避けることがオオカミの習性である。人間が餌付けなどをしなければ危険ではない」など、「オオカミに対する正しい知識を持ってもらうことが大変難しいことだった」という話を聞きました。
「現在は、行政(ザクセン州)が、オオカミの保護(EUも保護を行っている)を重要なことと認めた。子どもたちへのインフォメーションなどオオカミを見るためにたくさん人が来る。これからは、オオカミも観光資源として大事にしたい」と、挨拶も兼ねて説明がありました。
各視察先で、今回の視察目的の1つである「“オオカミが人を襲うのでは”との恐れは、何の根拠もない杞憂であること」が確認できたので、これからオオカミ再導入に向けて住民に説明できるのではないかと確信しました。
私たちが視察した「ドイツ生物多様性保護連盟(NABU)」の説明によると、「欧米社会では、1970年代、長い歳月に及んだオオカミ迫害の歴史に終止符を打ち、一転、保護の時代に入り、ヨーロッパ共同体(EC)は1979年『ベルン協定』を締結し、オオカミの保護も対象とした。この政策は、ヨーロッパ連合(EU)にも継承され、現在、ヨーロッパ29カ国に25,000頭以上のオオカミが生息している」とのことです。
狭い日本では、オオカミが人を襲うのではないかと心配する声もありますが、生態系の頂点捕食者オオカミは、その昔、日本人とも一緒に生活していたことを再度、認識すべきではないでしょうか。
シカの過剰採食によって森林を育む植生が消失し、山地の崩壊すら発生しています。多くの野生生物が住処(すみか)や食べ物を奪われ、絶滅の危機に追い込まれ、生物多様性が低下している現状を見過ごしてはなりません。
環境省や農林省は、早急に対応チームを作り対策に乗り出すべきです。オオカミを導入することで、人や家畜への被害が出たらと責任論が及ぶことに気を使っていては、国土を自然災害から守ることはできません。
8月7日、環境省は「シカ倍増25年度に500万頭」と、初の推計結果を発表しました。増加の原因を「シカは繁殖能力が高く、オオカミなどの天敵が不在な上、近年は暖冬が続いて大雪でエサがなくて死ぬケースが減った」と分析しています。
ゲリラ豪雨に代表される自然災害が多発している今日、ニホンジカをはじめとする有害鳥獣対策に、オオカミ再導入は1つの方法です。
- 著者プロフィール
- 宮坂成一(みやさか せいいち):須坂市議会議員:1953年5月 4日長野県須坂市生まれ。長野県須坂高等学校卒。現在2期目。文中で、一般社団法人日本オオカミ協会発行の「オオカミ復活についての疑問44に応える。Q&A」より、引用させていただきました。
HP:長野県須坂市議会議員 宮坂成一
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