第36回 地方自治の「かたち」を考える~関西広域連合の経緯を通じて  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】

第36回 地方自治の「かたち」を考える~関西広域連合の経緯を通じて (2013/5/15 京都府議会議員(関西広域連合議会議員)中小路健吾/LM推進地議連会員)

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ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟 連載・コラム政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。現在は、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を連載しています。第36回は、京都府議会議員の中小路健吾氏による「地方自治の「かたち」を考える~関西広域連合の経緯を通じて」をお届けします。

◇        ◇        ◇

関西広域連合の設立と概要

 2010年12月。日本で初の府県で構成される広域連合として、「関西広域連合」が設立されました。

 設立から約2年が経過しましたが、人口2,000万人を超える新しい「自治体」の取り組みや運営は、ある意味、これからの自治体のあり方を考えるうえで壮大な実験であるとも言えます。設立当初から京都府議会選出の関西広域連合議会議員として携わってきた私自身にとっても、まさに手探りの状態での活動でした。

 国会においても、道州制をめぐる議論が活発化しそうな現在。今後の「自治体」のあり方を考えるうえで、1つの参考になればという思いから、ここでは関西広域連合の現状や課題についてレポートしてみたいと思います。

 当初、大阪府、兵庫県、京都府、滋賀県、和歌山県、徳島県、鳥取県の7府県でスタートをした関西広域連合も、2012年に大阪市、堺市、神戸市、京都市の4政令市が加盟し、11構成団体による運営となりました。

 執行機関の長(広域連合長)は兵庫県の井戸敏三知事。その他の知事、市長がそれぞれ担当する事務・部局の担当委員となり、意思決定は「連合委員会」という合議の場で行われ、現在は原則全会一致での運営が基本とされています。

 一方で、広域連合議会はそれぞれの構成団体から現在29名を選出(定数の見直しを現在議論中)。年4回の定例会・臨時会を含む本会議のほか、毎月1回程度の常任委員会(総務・産業環境・防災医療)が行われています。

関西広域連合の役割

 では具体的に、関西広域連合ではどのようなことを行っているのでしょうか。

 その主な柱は3本あります。その1つは、構成府県による広域的な行政課題への対応です。

 関西広域連合の規約に明記された事務は、「防災」「観光・文化振興」「産業振興」「環境保全」「医療」「資格試験・免許」「職員研修」の7分野です。現在は、それぞれの分野別に広域計画の策定が行われ、その計画に基づきいくつかの事業が動き始めています。

京都府議会議員 中小路健吾氏

京都府議会議員 中小路健吾氏

 「防災」分野においては、「関西防災・減災プラン(仮称)」の策定が進められており、とりわけ東海・東南海・南海地震や近畿圏直下型地震等に対応するための「地震・津波対策編」「原子力災害対策編」「風水害対策及び感染症対策」を順次策定しています。また、広域防災訓練の実施や災害発生時の広域応援・受援体制の構築、広域備蓄等の検討実施などが行われています。

 「観光・文化振興」分野においては、訪問外国人客数1,000万人を目指した「関西観光・文化振興計画」が策定され、とりわけ海外からの外国人誘客を中心としたアジア地域へのトップセールスなどを行っています。

 「産業振興」については「関西産業ビジョン」の策定のほか、公設試験研究機関の連携やビジネスマッチングや、合同プロモーションを行っており、自動車メーカーとの技術商談会などは従来よりも多くの中小企業が集まるなど成果も上げています。

 「環境保全」の分野においても、「関西広域環境保全計画」が策定中で、電気自動車の普及促進や関西版エコポイントの試行事業、広域的なカワウ(川鵜)対策などを行っています。今後、カワウ以外の鳥獣害対策についても取り組んでいく方向です。

 「医療」分野においては、「関西広域救急医療連携計画」の策定とともに、これまで京都府、兵庫県、鳥取県の3府県で運営してきたドクターヘリに加えて、大阪府と徳島県のドクターヘリが移管され、現在3機体制での広域救急が行われています。

 同様に、「広域職員研修」は今年から事業がスタートし、「資格試験・免許」については調理師、製菓衛生士、准看護師の試験が2013(平成25)年度から共同実施される予定です。

 関西広域連合設立の2つ目の活動は、地方分権改革の中にあって、国の出先機関改革の受け皿となることです。これまで国においては出先機関の権限移譲について、議論の俎上(そじょう)には上りながらも、なかなか具体的に進展してこなかった経過があります。

 そうした中、関西広域連合では、国の出先機関について権限、財源、人員の「丸ごと移管」を求めて参りました。府県間の利害調整の難しさなどを理由に出先機関の権限移譲を拒んできた国に対して、その受け皿を明確に用意することが関西広域連合の大きな目的の1つというわけです。

 この点については、民主党政権下、地域主権戦略大綱に基づくアクションプラン推進委員会におけるさまざまな議論・検討を経て、最終的には「国の特定地方行政機関の事務等の移譲に関する法律案」として閣議決定までこぎつけたものの、2012年の総選挙における民主党の敗北と自公政権の誕生により、今後の見通しは極めて不透明な状況になりました。

 さて、当初想定していた関西広域連合のこれら取り組みに加え、2011年3月11日に発生した東日本大震災と福島原発の事故や、同年9月に発生をした台風12号による和歌山県、奈良県での災害に対しても、広域連合としての対応の必要性が生じました。

 東日本大震災への対応としては、発災直後の3月13日、構成府県の知事が集まり、被害が甚大であった岩手県に対しては大阪府と和歌山県が、宮城県に対しては兵庫県・鳥取県・徳島県が、福島県に対しては京都府と滋賀県が集中的に支援をしていく、いわゆる「カウンタパート方式」による支援方針が決定され、現地連絡所を開設、支援物資等の提供や応援要員の派遣、避難生活者の受け入れなどを行うこととなりました。

 こうした対応は、発災直後の情報が非常に少ない段階での情報収集と、その共有に基づく迅速で効率的な支援を可能とした点で高い評価を得ています。こうした対応が可能であった背景には、単なる「連携」ではなく、広域自治体という「組織」として広域連合が機能できた点が挙げられるのではないでしょうか。

 これは、台風12号に対する緊急の人員派遣等が可能だった点も同様です。

 また、福島原発事故の影響から、原発への依存度が高い関西地域においても、昨夏は節電対策の必要性が生じました。そのプロセスにおいて大飯原発の再稼働をめぐる国への意見・提言の調整を行うなどさまざまな議論が行われました。

 このように、日々生じる多様な緊急課題などについて、府県の枠を越えて調整機能を果たしているのが関西広域連合の3つ目の役割といえます。

どのような国と地方の関係を目指すのか

関西広域連合議会で発言する中小路氏

関西広域連合議会で発言する中小路氏

 以上、関西広域連合の概要や取り組みについて述べてきました。もちろん、関西広域連合にはまだまだ数多くの課題が残されています。

 現在、国においては自公政権や日本維新の会を中心に、道州制の導入に向けた議論が加速されつつあります。私自身は道州制を決して否定をする立場にはありません。しかし、現在の道州制をめぐる議論については疑問があります。

 まずもって、道州制の「是非」だけが論じられていることに違和感を持っています。

 本来、道州制の議論の中では、国の果たすべき役割、基礎自治体としての市町村の役割がセットで議論されるべきです。その中で、税制や法律のあり方など、国の権限をどの程度地方に移譲するのかを考えなければなりません。現状の論議は、単に日本全国をどのように区割りをするのかといった議論が先行し、どちらかと言えば単なる都道府県合併のように見えてなりません。

 これは、道州制の定義が明確になされていないことに起因しています。道州がどの程度の権限を持つのか。論じている個人や立場によってイメージもバラバラです。また、現在の制度をどのように変えていくのか、そのプロセスについても不透明です。

 そうした状況で、道州制が導入されれば地方分権は一気に進む、地域の活性化が進むという議論は少々乱暴なのではないでしょうか。

 むしろ画一的に国が制度をつくるというよりも、それぞれの地域において自らの目指す地方自治制度のあり方を考えていく。そして、そのことにより多様な地方自治のあり方が構築されていく。そんな姿を目指していくべきではないかと考えています。

 関西広域連合の取り組みはまさにそうした多彩な自治制度のあり方を考えるための貴重な材料です。その意味で、皆さんにも今後の関西広域連合の動きについても注目していただければと存じます。

著者プロフィール
中小路 健吾(なかこうじ・けんご):1973年4月11日生まれ。京都府長岡京市出身。同志社大学大学院総合政策科学研究科修了。前原誠司衆議院議員の秘書を経て、2003年の京都府議会議員選挙(長岡京市・乙訓郡選挙区)で初当選。3期目の府議として活動中。現在、民主党京都府連幹事長、民主党京都府議会議員団政調会長等を務める。また、2010年12月に設立された関西広域連合においても設立以来、京都府議会選出の議会議員として携わる。
HP:京都府議会議員 中小路健吾 On The Web
facebook:kengo.nakakoji
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