【LM推進地議連連載/リレーコラム47~地方議員は今~】
第28回 衆議院選挙の総括から見えてくる自治の基盤整備 (2013/03/21 埼玉県越谷市議会議員 白川秀嗣/LM推進地議連会員)
政治山では、政策立案を行う「政策型議員」を目指す地方議員らで構成される「ローカル・マニフェスト推進地方議員連盟」(略称:LM推進地議連)と連携し、連載・コラムを掲載します。地域主権、地方分権時代をリードし、真の地方自治を確立し実践するために設立された団体のメンバーが、それぞれの実践や自らの考えを毎週発信していきます。9月からは、全国47都道府県の議員にご登場いただき、地域の特色や問題点などを語っていただく「リレーコラム47~地方議員は今~」を開始しています。第28回は、埼玉県越谷市議会議員の白川秀嗣氏による「衆議院選挙の総括から見えてくる自治の基盤整備」をお届けします。
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先の衆議院議員選挙は、自民党の圧勝に終わり、安倍政権の発足とともに民主党政権時の政策転換が次々と打ち出されています。しかし、民主党政権が難儀した21世紀の日本の課題である、いわゆる「凌ぎの時代」における政権運営と統治能力が試されることに変わりはありません。
日本の歴史上、世界でも前例がない、政権選択と政策選択がこれほどかい離した選挙はかつて存在しませんでした。つまり、垂直的なかい離が派生しやすいように永田町が動いたことになります。国民の民主党政権への懲罰的判断を示したことと、自民党の選挙公約(憲法改正や戦後レジュームの転換等)が争点にさえならなかったことに端的に示されています。もっとも政権交代が日本でも普通のこととして起きたことが、そのようにかい離を生んでいるとも言えますが。
これまでの右肩上がりを前提とした、成長の分配をいかにしていくのか、という政治の役割から成熟社会における不利益の分かち合いをどのように公正に進めていくのか、そのマネージ能力や政権担当能力に直面しているということです。
3.11東日本大震災から満2年が経過しましたが、その教訓とはこれまで「安心や安全」を含め、市民が行政や政治にお任せしてきた習慣や体質から脱却することでした。「任せて文句を言う習慣から、引き受けて責任を取る市民」への転換にほかならなりません。戦後3代にわたる人格形成がそう簡単に変えられるものではないのですが、しかし、もうこれ以上、次世代につけを回してはならないことも、多くの市民の共有観になったのも3.11後の急速な変化でした。
この変化が現実化し、時代の要請に応えていく舞台こそが、自治の領域であり地方自治体での共同体再生の取り組みにほかなりません。これまでの市民参加が、行政や政治の判断結果を追認させるためのものから、政策の立案、決定、執行というすべての過程に市民が参加し、当事者として責任を引き受ける、またその構造が急激に高まっているということです。
その意味では市民に最も近く、直接参加が保障されている地方議会の責任と役割がますます重くなっているともいえます。
議会改革の目的は、議員の存在のアピールか政策決定過程への市民参加か
越谷市は人口33万人、議員数32人で6つの会派によって構成されています。議会の活性化については、11人の各派代表者による議会運営委員会(これ以降は『議運』と表現します)で定期的な論議を行い、既に丸2年を経過しました。
現在協議している事項は、
- (1)正副議長選挙の在り方(2年前の改選時の議長立候補者は、議長公約の文章化とその説明の実行を実現しましたが、さらにルール化を図るために)
- (2)議会報告会の実施(すでに改選前を含めて3年間議論をしており、全会派、議会主催の報告会開催には同意しているので、その具体化を図るため)
- (3)予算・決算特別委員会および常任委員会でのライブ中継の導入(本会議場でのライブ中継は既に実施しており、さらに委員会でのライブ中継も同意されているので、その具体化を図るために)
- (4)一般質問の制限時間を短縮(90分)すること(現在一般質問は質問、答弁で2時間を目途としていますが、これを短縮する議論。短縮は合意できず市民への周知等の方法を論議中)
- (5)一般質問の事前通告期限を告示日の午後5時とすること(現在の通告は議会開会初日にしており、これを変更するため)
- (6)教育委員および副市長の議会同意人事議案の取り扱い(現在は両方とも委員会付託を省略しているため、候補者本人からの意見表明や問題意識を一切聞かずに、議員が判断している。これを改め、これを直接本人からの意見聴取の機会をつくり判断するため)
- (7)申し合わせ事項に定める参考資料等の追加(予算・決算特別委員会等に配布される資料の中で、執行部側への資料請求や種類の整理のため)
- (8)議員の選挙公報を市議会ホームページに掲載すること(公選法の改正などもあり、市会議員選挙時の公報のうち当選した32名の議員の分をホームページに掲載、公開するため)
- (9)常任委員会の行政調査結果報告書を市議会ホームページに掲載すること(現在4つの常任委員会が毎年実施している県外の行政調査の報告は、本会議場で委員長報告として報告し、冊子にまとめられ全議員に配布されている。これをそのままホームページに掲載すること)
- (10)各委員が行政調査結果報告を作成し、市議会ホームページに掲載すること(常任委員会での報告は、委員長が代表して報告しているが、参加した議員もそれぞれ報告書を作成することで、市民への調査活動の説明を果たすため)
- (11)教育行政方針の説明を教育委員長が行うこと(現在3月議会で当初予算の提案、説明を含め市長は所信表明を行い、教育行政方針を教育長が行っている。全国的にも教育行政が問題となっており、教育の年間方針、理念は委員長が本会場で行うこと)
以上の項目ですが、どれも極めて常識的な活性化策であって、「議会改革」というような大げさなものではありません。しかし、ほぼ1年間にわたり論議が続いているにもかかわらず、議会主催の市政報告会にいたっては改選前を含め3年間にもおよぶ議論をしても、何ひとつ結論が出ていません。
その原因は、議運の運営は、全会一致を目指すことを基本としており、全会派が賛成しなければ執行ができないようになっていることです。もちろん議運も常任委員会の位置付けですから採決を多数決で決することは可能なのですが、そのようには運営しないのが慣例になっています。この運営は、でき得る限り一致点を見出すために論議を積み重ねることが、議会の合意形成の基本であるとの観点から、そうしてきているのですが、これが何も決められない大きな原因にもなっているのです。それは、そもそもの議会活性化の目的が大きく異なっているのではないか、論議を通して明らかになってきました。
例えば、議会主催の市政報告会の開催について、趣旨は賛成するのですが具体論になると全会派が一致できないこと(例えば市内13地区の公民館校区すべてで、校区居住の議員が主催して一斉に開催することを試行として取り組む等)、またライブ中継では、まず予算・決算特別委員会から試行的に実施することにほとんどの会派は賛成しているのですが、4つすべての常任委員会で一斉にライブ中継ができるようにすることなど、細部の詰めになるとどうしても一致できないことになるのです。
また市議会ホームページに、市議選の公報を掲載することについては、一括してホームページに掲載するよりは、もし市民が必要と思えば、32名の議員のホームぺ―ジに個々にアクセスすればいい(ホームページを持っていない議員もいるのですが)。さらに常任委員会の行政調査報告書の市議会ホームページ掲載も必要ではなく、内容を知りたい市民がいれば、その市民が個々の議員に問い合わせればいい、など(他の項目は紙面の都合でこれ以上は記述しませんが)。
ここに通底する基本的な考え方は、この間続いている議会への市民の不信や信頼の低下に対して、「議員はこんなに活動をしているので、その姿勢を市民にアピールする場をどれだけ確保するのか、議員の存在を示したい」という意識が見え隠れしているように思えます。
これは政策決定過程(つまり議会の審議や決定に至るすべての段階)に市民がより多く参加し、しかもオープンな場で議員という個人でなく、議会という組織で市民に向き合っていこう、議会と市民とのフラットな関係づくりを進めていこうとするための議会活性化対策とは、似て非なるものです。
このような視点での議会活性化の論議が、今後展開されるように粘り強い努力を重ねることが求められていますが、この議運の議論の過程そのものも市民に公開していくことも大きな活性化につながると考えています。
問われる議会と市民のフラットな関係
先般行われた市会議員選挙(定数32名)で、超党派の市会議員候補者8名、県会議員候補者(東第9区選挙区/定数4名)3名は共同して「統一ローカルマニフェスト2011」を掲げて選挙を戦いました。
大選挙区制の市会議員選挙では、自分以外の候補者との違いや優位性を主張して選挙が展開されるのは普通の光景です。しかし個々の候補者が当選後、自らの公約を忠実に実行しようと思えば思うほど、議会の過半数の賛同を得ることが必須条件となってきます。このことが、実は議会活動の統一的対応や、市長との緊張関係を削いでいく原因にもなっています。そこで選挙時に掲げる公約を、当選後実行する政策として超党派の候補者で、市民と約束する試みが、先述した「統一マニフェスト2011」でした。
また、このマニフェストの策定過程には、候補者はもちろんですが市民の参加を保障しながら作業を進めると同時に、2カ月に1回の特別講座の開催を続けてきました。主催は、この超党派の議員と市民で構成する「政経セミナー運営委員会」です。このため、選挙後1年が経過した2012年6月には、「統一ローカルマニフェスト2011市民検証大会」を開催し、政策実行の過程にも市民がオープンに参加できるようにしてきました。特別講座は第2期目に入り、2013年6月には第2回市民検証開会も予定されています。
また、13の公民館区の中で、私の居住する地区では、超党派の議員主催による「市政報告会」を議会終了後必ず開催してきました。この取り組みは改選以前からスタートしたもので、すでに改選後は9回を数えています。議会終了後の開催は当然として3月議会に提案される当初予算案や新規事業の説明のため事前の市政報告会も開催してきました。
これは、議会が議案等を決定したあと、その審議経過や賛否に対する個々の議員の判断基準を発表し、市民からの質問に答えていくことは当然のことながら、議会の決定の前に市民の意見を十分吸い上げる機能こそが議会の本来の役割である、との考え方から実行してきました。この視点は3月議会前の市政報告会だけではなく、すべての報告会に通底しているものです。それだけに個々の議員の主体的な判断基準がオープンな場で市民から問われることになります。
また事前の報告会を含めて、地域の個々の要望に予算が付いているのか、そうでないのか、地域要望を超党派で実現する機会という、位置付けとはなっていません。いわゆる陳情の場ではないのです。もちろん陳情をしてはいけない、ということでもありませんが、財政構造全体がどうなっており、今後どうなっていくのか、という説明や認識の上で個々の陳情の優先順位がどこに位置付けられるのか議論していく場として設定してきました。従って参加している市民との間に大きな意識の差も生まれることもあり、主催している議員間にもやり方をめぐり異論が出されることもありました。
しかし、政治の役割が負担とリスクの分担という時代に向き合うならば、地域共同体の再生に向けて、共同体の構成員たる市民に対して、常に「市民の責任と役割」を説明し、合意を図る技術・統治能力こそが、地方議員の地方議員たるゆえんだと確信しています。
「未来を搾取する社会から、未来へ投資する社会へ」
- 著者プロフィール
- 白川秀嗣(しらかわひでつぐ):1963年、佐賀県生まれ。福岡市議会議員を1期務めたのち、衆議院秘書として日本新党細川政権を支え国会事務所で活動。埼玉県に転居し、民間企業勤務の傍ら「がんばろう、日本!国民協議会」の一員として、主権者運動を始める。2003年、越谷市議会議員に当選(現在3期)。市議会会派 新政クラブ(保守系無所属)所属、ローカルマニフェスト推進地方議員連盟会員。
HP: 白川ひでつぐ越谷市議会議員オフィシャルページ
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