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【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】

第50回 新潟市派遣職員からみた熊本の復旧・復興の姿、熊本と新潟での足跡 (2019/4/16 熊本市都市建設局都市政策部震災宅地対策課=新潟市より派遣= 長谷川喬)

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「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。

     ◇

 2016年4月14日21時26分、熊本県で最大震度7の地震が発生した。そして、4月16日1時25分にも熊本県で最大震度7の地震が発生した。震度7の地震が立て続けに2回発生したことや、一連の地震で震度6弱以上の地震が7回も発生したことは観測史上初のことである。

 地震によって甚大な被害を受けた熊本県内の自治体には応援として全国の自治体から職員が派遣され、私が勤務する新潟市も2017年から熊本市へ職員を派遣している。

偶然の贈物

 私は2018年に派遣され、平成28年熊本地震によって被害を受けた宅地の復旧と、再度の災害防止を専門に行う部署に配属された。担当業務は地震に起因する地盤の液状化により著しく被害を受けた地域に対して、「液状化対策」を行うことだった。液状化被害については東日本大震災でも顕著な被害が発生しており、国の補助を受けて事業が実施できるのだが、「事業実施区域の住民同意」が実施要件に含まれている。

熊本市都市建設局都市政策部震災宅地対策課 長谷川喬

新潟市から派遣されている熊本市都市建設局都市政策部震災宅地対策課の長谷川喬さん

 東日本大震災では被害を受けた自治体で事業を実施する際に、事業実施区域の住民同意に時間を要した経緯があったことから、熊本市では住民同意の前に事業の実施について住民の意向確認調査を行った。意向確認調査を行う地区については、前年度から事業の実施について比較的意欲的だった2つの地区を選定し、戸別訪問による意向確認調査を行った。意向確認調査は約350戸の宅地を職員2人だけで、5月末~9月末まで個別訪問した。個別訪問したことによって直接住民の意見を聞き取ることもでき、事業の実施に必要な住民同意を得られる区域を選定することができた。さらに偶然の贈物があった。

 とある自治会から、「熊本地震が発生してから宅地の復旧にかかるまで市役所の動きが遅く、時間がかかりすぎている」との意見があり、地震発生からその自治会と市役所の関係がギクシャクしていた。今回、約350戸の宅地を戸別訪問するにあたり、意向確認の期間中は週5日のうちの半分に加え、休日夜間を問わずひたすら地元に足を運んだ。何度も何度も現場に行っている姿を、その自治会の会長さんが見ていたのであった。意向確認調査後は「市役所はしっかりと動いている」と認識してくれて、ギクシャクした関係も解消されたことから、事業の実施に関する説明会の段取りなど、いろいろと協力してくれるようになった。何度も現地に足を運び、住民一人一人と面と向かって話をしたことが住民の信頼の獲得につながったと感じている。

ワークショップ

ワークショップ

職場以外における熊本市での活動

 2016年度に早稲田大学人材マネジメント部会に参加していたことから、2018年度の人マネ研究会の熊本会場に修了生として参加した。その回のテーマは「組織の現状分析」で、それついてはどの自治体も悩んでいたことから、私が実際に行ったことを参考に伝えた。

 私が現状分析するために行ったことは、自分の所属長からキーパーソン・インタビューとして組織の現状を含めて幾つかの質問に回答してもらう。回答後は次の人を紹介してもらうリレー方式のキーパーソン・インタビューを行った。リレー方式にすることで「組織を良くしたいと考える人から話が聞けること」と「インタビューをしたことでつながりができるメリットがあること」を伝えた。その後の懇親会では、普段新潟にいたら付き合うことができない九州の自治体と交流を深めた。さらに嬉しいことに、2月に福岡で開催されたセミナーでアドバイスをした自治体職員と偶然出会い、「新潟市から来ている人マネの人ですよね」と言われた時はとても嬉しかった。

 また、今年度の人マネに参加した熊本市の職員と話をする機会があった。熊本市の人マネで素晴らしいと思ったのは、ネーミングセンスとつながりの場の提供である。ここで、一つご紹介したい。

 熊本市では市民からの多様なニーズに加え、関連部署との情報共有や連携不足が課題となっている。そこで地域のニーズや課題を“自分事”として捉える「地域主義」を意識した職員を増加させる必要があったことから、異動した元区役所職員と現在の区役所職員が語り合う「アルムナイと語る」を業務時間外に実施した。「アルムナイ」の本来の意味は「卒業生、同窓生」であるが、区役所業務を経験して異動した方々を“貴重な人的資源”という意味を込めて「アルムナイ」と定義している。

 どの自治体においても異動は避けられないものであり、地域の想いや課題は引き継がれていく。しかしながら、うまく引き継ぎができていない現状がある中、このような取り組みをすることで現在の区役所職員の不安等が払拭される。加えてく、地域のニーズや課題に対してより自分事として捉えることができる動機づけになるだけでなく、通常の「業務引き継ぎ」では難しい「想い」まで引き継ぐことができるのではないだろうか。

2018年度に行われた人マネ熊本会場研究会の様子

2018年度に行われた人マネ熊本会場研究会の様子

その他の2018年度の活動

 先ほど述べた2016年度に実施したリレーヒアリングによってできたつながりがきっかけで、2018年に新潟市で開催された「CODE for JAPAN SUMMIT 2018」で、私が新潟市の職場で取り組んでいる内容を発表する機会をいただけた。SUMMIT2018のテーマは「Salvage(サルベージ)」で、地域の宝物を掘り起こし、見直しや活用が不可欠の中、どうやって地域の宝物を発掘していくかだった。私はそのテーマに対して、市民から応募していただい農村風景の写真をサイトで公開することに加えて、Googleマップと連動させ、撮影した箇所まで案内することで、地域の資源と魅力を「再発見」「新発見」して、地域の「内」と「外」で「共有」「共感」することで地域が発展していくと発表した。

 私が行っていることが新潟市という自分の地域にどれくらい良い影響を与えられるかは分からない。しかしながら、部会で学んだ私の好きな言葉である「微力は無力ではない」という言葉を持って、自分の地域をよりよくするためにこれからも動き続けていきたい。

CODE for JAPAN SUMMIT 2018での発表

CODE for JAPAN SUMMIT 2018での発表

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■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。
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