【一歩前に踏み出す自治体職員~ありたい姿の実現を目指して~】
第30回 NHK大河ドラマ「真田丸」が上田市にもたらしたもの (2017/5/1 長野県上田市商工観光部商工課 尾島 裕也)
「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に自治体職員のリーダーを育成する実践的な研究会「早稲田大学マニフェスト研究所 人材マネジメント部会」受講生による連載コラム。研修で学び得たもの、意識改革や組織変化の実例などを綴っていただきます。
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大河ドラマ「真田丸」の放映を終えて
2016年1月10日から12月18日までの間、上田市は激動の1年間を迎えた。
NHK大河ドラマ「真田丸」の放映を終えてみると、「信州上田真田丸大河ドラマ館」の累計入館数において、今まで過去最高であった2008年の「篤姫館」の約67万人を大きく上回る103万5,208人もの来館者数を記録したことで大きな盛り上がりを見せた。
上田市は、大河ドラマ「真田丸」において長野県内に及ぼした経済波及効果が200億9,000万円に上ったと発表し、そのうち交通費を除いた県内での観光消費額は143億3,000万円、そのうち47.7%にあたる67億9,000万円が上田市での消費総額であり、大きな経済効果を生む結果となった。
これら数字の面から考えると華々しい結果に終わったと考えられるが、本当にそうだろうか?
上田市は大河ドラマ以前にも真田氏ゆかりの地とした観光政策を行い、春に行う千本桜祭りなどで多くの観光客が訪れる地域であったものの、経由地としての受け入れが多く、飲食や宿泊を伴う観光を増やす方策には、常に頭を悩ませていたのが現状であった。
このような課題を踏まえた上で、行政および民間が大河ドラマの放映に関して、どのような影響を受けたかを述べていきたいと思う。
大河ドラマ放映での取り組み
市は2009年から大河ドラマ誘致の署名活動を行い、全国から78万を超える署名が集まり、7年の歳月を経て実現に至った。私も大阪の民間企業で働いていたころ、60人程度の署名を集めた経緯があり、非常に喜ばしい出来事であった。
大河ドラマ決定後、上田市は組織改革を行い、大河ドラマの担当課であるシティプロモーション推進室を立ち上げることにより、よりスピーディな対応ができるようになった。
また「信州うえだロゴマーク」を作成し、上田市で商標登録を行い、真田丸製品を扱う民間企業が無償で使用できる仕組みを作り、観光客のための駐車場・観光看板の整備、中心市街地への回遊促進のため、真田十勇士ガーデンプレイスを建設し、上田城近郊だけでなく、街への回遊を行うためのイベントスペースを整備するなど、様々な事業を急ピッチで進めた。
上田市議会でも、上田市観光産業振興議員連盟の取り組みとして、上田市をPRするため、真田丸に合わせた宿泊を伴う議員視察を呼び込むため、全国都道府県および市区町村議会約1900カ所に対して、宿泊を条件とした特典付のパンフレットを発送した。
この特典では、上田市旅館ホテル組合会の協力を得て、特別料金での宿泊や「信州上田真田丸大河ドラマ館」のチケットの配布などを行い、北海道から沖縄までの89市区町村議会555人の受け入れをすることとなった。
街に与えた影響
私は、商工観光部商工課で主に工業振興に携わる業務を行っている。直接的に大河ドラマの仕事に携わっていなかったものの、大河ドラマ放映中、街の雰囲気が一変したことには驚いた。上田城付近の公・民営駐車場の多くは満杯になり、道路には県外ナンバーの車が溢れ、渋滞を引き起こしていた。街に多くの観光客が回遊し、まさに“観光地さながら”の光景であった。
多くの観光客が来る中、真田丸関連グッズが民間企業から続々と開発され、総勢172個もの新商品が販売された。また中心市街地にも多くの観光客が訪れたことから、カフェや飲食店等の創業が目立つようになり、前年度比143%の開業数となった。私の業務で、「創業支援」を行っており、多くの観光客が訪れるこの年に新たなに仕事を興す方が増えると考え、平成28年度より家賃・改修費にかかる補助金を新設するなどの対応を行った。
大河ドラマが自治体にもたらしたもの
大河ドラマを終えて、早5カ月が経とうとしている今、受け入れ自治体として、何かが変わったのだろうか。期間中に様々な想定していない課題が出たり、多くの利害関係者を1つの方向にまとめていく難しさもあった。
しかし、NHK大河ドラマ「真田丸」は、上田市にとって大きなインパクトを残したのは事実である。上田市の庁内では大河ドラマへの成功に向け、部・課を超えた取り組みを促進するため、庁内横断的プロジェクトを立ち上げて、事業を行うこととした。
大河ドラマ成功という1つの目的に向け、多角的な現状把握を行い、あるべき姿に近づけるため、浮かび上がった課題に対して、対策を行っていくプロセスを現場で見てきたことは、まさに人材マネジメント部会で研究した内容と一致していたことであり、今後に繋げられる財産となったと感じた。
その証拠に大河ドラマを終えてから、私が関わる事業の中でも、関連部署が集まり、打ち合わせをすることが非常に増えたことで、より建設的で具体的な意見交換を行う機会が多くなったことからも、庁内に変化が生まれてきたと感じている。
「『真田丸』の成功」という1つの目的のために、部・課を超えて協力する組織風土が生まれたのだ。この良い流れを止めず、今後も多くの関係者との対話を重ね、知恵を絞りながら、「市民の役に立つ人=役人」になっていきたいと強く感じた1年だった。
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- ■早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会とは
- 安倍内閣が目玉政策として進める「地方創生」をキーワードに、「地方」「自治体」のあり方に改めて注目が集まっている。市民との協働や官民連携が重要になっている中で、特に職員の働きが大きな鍵となっている。これまで自治体では民間の手法を用いた「スキルアップ」は数々試行されてきたが、本来的に必要なのは意識改革であり、人や組織を巻き込むことのできる人材が求められている。早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会では「人材を変え、組織を変え、地域を変える」ことを目的に、立ち位置を変え、主体的に動き、思い込みを打破するリーダーを育成することを目指している。