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女川町への巡検(後編)―語り部の言葉に触れ、「人に会う」大切さを学ぶ (2017/3/1 政治山)

防災と海洋教育について学ぶべく、宮城県・女川町を巡検に訪れた学校の先生たち。そこで得た学びと変化について、前編に続いて川路美沙氏にお話をうかがいました。

関連記事:女川町への巡検(前編)―防災の視点から海洋教育を考える

川路美沙

川路美沙さん

子どもたちの学びは、伝える先生次第

――普段は学校にいる時間の長い先生方にとっては、巡検は貴重な機会なのですね。

川路氏
海の学習をするためには、防災教育は欠かせません。そして防災意識を子供たちに伝えたり、海の楽しさが分かる授業ができたりするには、まずは「伝える側である先生たち」の意識を変える必要があります。
 
そのためには、現場を見て感じてもらうことが何より必要です。普段の研修や学習ツアーでは物足りないと思っていたことや、ここを伝えてあげれば理解しやすいと思っていた内容を盛り込んだツアーになったのではないかと思います。
大川小学校

佐藤敏郎先生の案内で大川小学校を訪れた

大川小学校を避けていた自分とも向き合う

――今回の取り組みで、川路さんご自身にも変化はありましたか。

川路氏
実はツアーの直前まで、行程表に大川小学校は入っていませんでした。係争中であることや、その事実の衝撃の大きさから、今回の学び全体に影響することを懸念してのことでしたが、早くから被災地に入った経験のある日本財団の同僚から「それは、企画者である美沙ちゃん自身が行かなくてもいいって思ったからだよ。残念だよ」といわれて、返す言葉がありませんでした。
 
私自身が企画者としてではなく、一人の教員として現場に行き、事実を受け止めなければならなくなることを恐れていたことに気付かされました。74人の児童と10人の先生が犠牲となった大川小学校は、防災と海洋教育の観点からも、被災地への理解を深めるためにも、きちんと向き合わなければならないと思い直しました。急な変更で関係者の方々には迷惑をかけましたが、やはり訪れて良かったと思います。

小学生の娘を失った語り部の、言葉の重さ

――大川小学校に、皆さんで行かれたのですね。

川路氏
はい。直前のプログラムで講話に立たれた佐藤敏郎先生(※)が、大川小学校を案内してくださいました。ご自身の娘さんを大川小学校で亡くされている佐藤先生にとっては、つらい記憶でもあるはずなのですが、だからこそ語り部としての言葉は重く、参加者の心に強く響いたことと思います。ここでも、「人に会う」の大切さを痛感しました。また、この日は冷たく強い風が吹き、震災当時もこんな寒さだったんだということを感じたことも、参加者にとっては貴重な時間となったと思います。
震災当時の様子

震災当時の様子

――現地に赴き、人に会う大切さは、私たちも大事にしなければならないと思います。今後はどのような取り組みを予定されていますか。

川路氏
夏には、個人的にですが再び巡検を企画してみたいと考えています。教職の現場から少し離れてみると、学校の先生に対する支援の少なさが改めて分かりました。先生の知識や人間性の豊かさは、子どもたちの教育の豊かさにもつながると思うのですが、その機会は多くありません。
 
今回の企画も、当初は教育委員会主催が望ましいと考えていましたが叶わず、日本財団が主催しました。なかなか身動きの取れない公の機関とは異なり、民間団体はフットワークが軽く、その点でも日本財団が果たす役割は大きいと思います。
 
参加者の中には管理職の方や教育委員会の方もいらっしゃるので、そういった方々から広がっていけばと期待もしています。

――ぜひ続けていただきたい取り組みです。最後に、今回の企画の成果と展望についてお聞かせください。

川路氏
今回の企画は、実体験が及ぼす影響力がどれほどのものか、という仮説をもって取り組みました。防災や海洋教育といった普段身近に感じにくい事柄について、概念から行動へと一方踏み出したことには大きな意味があると思います。
 
やはり理科教育、防災教育の授業研究をしている私にとって、自然や現場に入り込む巡検のような、体験活動が学びの基本、という思いをさらに強めました。これからも防災と海洋教育に関する研究を進め、先生方の関心を高めつつ理解を深め、子どもたちに伝えていく取り組みを加速させていきたいと思います。

佐藤敏郎先生※佐藤敏郎……震災では当時大川小学校6年の次女が犠牲に。現在は遺族らと「小さな命の意味を考える会」を立ち上げ、全国の防災イベントで公演などを行う。元女川第一中学校防災主幹教諭。

 

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