別府で「被災者支援拠点」運営訓練―避難所で命が失われないために (2016/12/23 日本財団)
別府で「被災者支援拠点」運営訓練
大規模災害に備え人材を育成
災害が発生した後の避難生活で被害を拡大させないようにと、日本財団は12月12、13の両日、大分県別府市、大分県社会福祉協議会と協力して、大規模広域災害の発生を想定した「被災者支援拠点」の運営訓練を別府市内の福祉施設で実施しました。大規模災害が起きた時に避難所を適切に運営する人材の育成を兼ねた取り組みで、日本財団が進めるプロジェクト「被災者支援拠点運営人材育成事業」の一環です。
大きな地震による災害が発生した際、建物の倒壊、火災、津波などの直接的な被害に加え、長引く避難生活の疲労や環境の悪化など間接的な原因で体調を崩し、病気や持病の悪化で死亡する「震災関連死」が多数発生しています。復興庁の統計によると、2011(平成23)年3月11日の東日本大震災と翌日の長野県北部を震源とする地震による震災関連死数は16(同28)年3月31日現在、3,472人に上っています。
震災発生時に助かった命が避難生活のなかで数多く失われる‐。東日本大震災でさまざまな支援活動を展開してきた日本財団は、こうした事態をなんとか防ごうと、地域の非常時を支える「被災者支援拠点運営人材育成事業」を展開。避難所の実践的な運営訓練を通して、避難所を適切に運営できる人材の育成を進めています。障害者や高齢者をはじめとした被災者が今何を必要としているか、現場の要望をしっかり理解・把握し、必要な世話や管理ができるリーダーを育て、避難所の役割を十分機能させ、避難生活を送る人の危険を減らすことを目指しています。
災害救助法上「被災者支援拠点」と位置づけられている避難所は、子ども・高齢者・障害者・アレルギー疾患のある人、自宅に留まっている被災者など、地域の誰もが安心できる場所としての機能を担います。従来は「災害が起きて避難所に避難するまで」の防災訓練が多く、「避難した後」や「避難所の運営は自分たちで担う」訓練は珍しいのが実情です。
防災と避難所のあるべき姿を包括的に学ぶ「被災者支援拠点」運営訓練の普及に取り組む日本財団は、大分県と大分県社会福祉協議会の協力で2014年、同県佐伯市で南海トラフ地震に備えた同訓練を全国で初めて実施。今回は同県内3回目で別府市では初。前回までの自治体関係者だけでなく別府市亀川地区内14自治会、市内に住む障害者など地域住民計35人も参加して、JR日豊本線亀川駅から歩いて5分ほどにある社会福祉法人「太陽の家」のサンスポーツセンター2階体育館を借りて行いました。初日はライフラインが止まっている想定で震災発生直後の避難生活体験を、2日目は震災から1週間の被災者支援拠点を想定した地域活動のシミュレーションを、それぞれ実施。実際の場面を想定して参加者がさまざまな役割を演じ、どのような困ったことが起きるか、問題点を探りました。
訓練開始前の説明会で日本財団ソーシャルイノベーション推進チームの橋本葉一が主催者を代表して「今日は大分県ではこの冬一番寒い日。その中でこれから『避難所ができた』想定で、いい人、悪い人、いろんな役を皆さんに割り振って実際に演じていただきます。役に徹していただくことで、より現実感のある訓練になります。ぜひとも頑張ってください。1泊2日、体育館の中で過酷な訓練になると思いますが、くれぐれも体調に気を付けて、いろいろなものを得て帰ってください』とあいさつしました。
別府市企画部危機管理課の村野淳子さんは「別府市は今、この亀川地域をモデルにして、要援護者の個別避難計画を具体的につくっていく動きを進めています」と紹介し「その中の一つとして今回の訓練や研修を組み込ませていただきました。この訓練を通じて感じたことや、こうしたほうがよかった、という意見を遠慮なく寄せてください。今後の取り組みや仕組みづくりにつなげていきたいと思います」と呼び掛けました。
初日の訓練は(1)亀川地域で災害が発生した時の初動期に起きる状況を想定し、その対応を体験する(2)いろいろな被災者を念頭に置いた支援拠点の運営を目指す(3)夕方から夜へ移行する時間を体験する(4)発電機、灯光器の利用方法を学ぶ(5)避難所を開設する、名簿を作る、夕飯を取る‐を目標にして、地震発生直後で電気、水道、ガスなどのライフラインが止まり、水洗トイレも使えない想定の下、午後4時から始めました。
事前に役割カードを一人ひとりに配布。どういう所属で、何歳で、何をしているのか、カードの内容は渡された本人しか分からない、相互の秘密保持を徹底するよう指示がありました。その上で全員がいったん体育館から外に出て、たくさんの被災者が「何とか避難所にたどり着いた」状況をつくり、入り口のかぎを開けて中に入るところから訓練が始まりました。“避難所”隅には、毛布や非常用の保存食、水など別府市の標準的な備蓄物資が用意されていました。
「足にけがをした。助けてくれ」「責任者は、行政の職員はどこにいる」「トイレに行きたい」「胸がドキドキする」「寒い、暖房器具はないのか」「意識のない人がいる、医者は、看護師は」「食べ物はどうなった」「英語のできる人は」「犬を連れてきている者がいる。外に出せ」‐あちこちから迫真の訴え、要望が一斉に湧き上がりました。間もなく食べ物として非常用保存食の乾パンが配られ「鍋も電気もお湯もないので今晩はこの乾パンだけで我慢してほしい」との“自治会長”からの要請に対し、それでもご飯が食べたいという強い意見が表れ、結果的に非常用保存食のアルファ米に水を加えて五目ご飯をつくることになりました。別のところでは男女別のトイレや授乳スペースが毛布などその場にあった資材で作成され、簡易トイレの組み立ても始まりました。次第に日が暮れ身の周りは真っ暗に。簡易トイレの組み立てやアルファ米のご飯づくりは非常用の小灯が頼りでした。
3時間にわたる訓練の後、大きく分けて「うまく運営できたこと」「改善が必要なこと」の2点について皆で共有し合いました。もっと掲示板を活用するべきだった、「本部席」の表示がなく本部ができたのが分からなかった、指揮命令系統を一本化する必要があった、協力への呼び掛けが遅くなった、役割分担がうまくできなかった、名簿作成時に避難者の要望を把握できなかった、声が大きい人に支援が集まる、日が暮れる前にものを配ればよかった、備品や食事を勝手に持っていく人に注意ができなかった‐など実にたくさんの意見、感想が集まりました。自治会長や避難所の運営に非協力的な人、腎臓に疾患のある人、68歳で風邪をひいていて文句ばかり言う人、など高齢者や母子連れ、けが人など実に多様な役割が参加者に振り分けられていたことが、この発表の場で初めて分かりました。この後全員建物の外に出て発電機の利用方法を学びました。
2日目は災害発生から1週間後の設定。避難所の外からの支援要請にどう応えるか、外部からの連携をどのように行うかをテーマに、初日と同じような形で課題の洗い出しが行われました。電気、ガスは一部復旧し、スーパー・コンビニも一部再開した、との想定のなか、訓練初日の改善点も考え併せ、しっかりした名簿を作り、上がってきた要望を専門家や助力者に発信していくこともゴール目標の一つとされました。
開始前に村野さんは「いろいろな課題を抱えている人が、あちらにも、こちらにも、ということになると、その人たちの情報を把握するのが非常に厳しくなります。被災地の中にある福祉避難所も、被災をすると開けなくなる。避難所の中でそういう人たちを、ちゃんと対応できる場所を確保しなければいけない。今日はそういうことも意識してイメージを膨らまし、役割を超えてもう一つステップアップした形を目指してください」と要請しました。
前日の反省が生き「受付」と分かる机が入り口近くにすぐ設置され、その脇に全体情報を伝える掲示板が置かれて次々に情報が書き加えられていきました。2日間の締めくくりとして最後に振り返りの情報交換が行われ、訓練を終了しました。主催者はこれに先立ち11月17、18の両日、この訓練に連動した人材育成研修を太陽の家で実施。17年1月26、27両日には別府市内の別会場で、災害時に地域全体の要望把握や外部の専門団体との総合的な調整を行う「災害時エリアマネジャー 養成研修」を開催することにしています。
- 日本財団は、1962年の設立以来、福祉、教育、国際貢献、海洋・船舶等の分野で、人々のよりよい暮らしを支える活動を推進してきました。
- 市民、企業、NPO、政府、国際機関、世界中のあらゆるネットワークに働きかけ、社会を変えるソーシャルイノベーションの輪をひろげ、「みんなが、みんなを支える社会」をつくることを日本財団は目指し、活動しています。
- 関連記事
- 気仙沼メカジキで地方創生―復興応援 キリン絆プロジェクト
- 災害の経験や知見を次につなげよう-福岡市「BOUSAI×TECH」
- 熊本・大分の復興に向けて、日本財団が「わがまち基金」を創設
- 「災害関連死」を防ごう―初参加の小中学生が大活躍!
- ソーシャルイノベーション関連記事一覧