平昌パラリンピックは2020東京大会にどのような示唆を与えたのか (2018/4/3 日本財団)
「情報のアンテナを立てる」
この2018年平昌パラリンピックはどんな大会だったのだろうか。そして、2020年東京大会にどのような示唆を与えてくれたのだろうか。日本財団パラリンピックサポートセンター(以下、パラサポ)の小澤直常務理事に話を聞いた。小澤さんをはじめパラサポのメンバーは、2016年リオデジャネイロ大会に続いて平昌大会を視察、東京大会に向けてさまざまな知見を得たと話す。
――今回の視察は何を目的に、どのような行動をされたのでしょう。
目的は2つあって、ひとつはパラリンピックに対する認知の拡大。それと、ボランティアの実態調査です。メインは最初の方ですね、やはり。パラリンピックが話題に取り上げられる機会が増えてきましたが、それでも認知度は不足しています。パラサポのスペシャルサポーターの香取慎吾さんに一緒に平昌に行っていただいて、朝日新聞との共同プロジェクトで認知拡大につなげたいと…。
――香取さんは、パラサポのホームページでも、朝日新聞の紙面でも連日、写真入りでいい話を発信されてしていましたね。
香取さんの話には嘘がないんです。ほんとにあのままなんですよ。姿勢が素晴らしくて、知ったかぶりをしないで勉強をしたいと臨んでいましたね。感性が豊かなんです。それはIPC(国際パラリンピック委員会)の会長も言っていましたね。『シンゴは感性がいいね』って。ふたりはおない歳で、誕生日も10日ほどしか違わないんです。
――そういえば香取さんとIPCのアンドリュー・パーソンズ会長と懇談していましたね。そういう意味で、香取さんのような人が積極的にパラリンピックに関わることが、認知拡大にも関係してきますね。
結果としてすごく大きいと思いますね。パラサポが主催するパラサポ駅伝などもそうなんですが、香取さんは毎回インスタグラムにあげてくださるんですね。パラの応援を。パラ駅伝に行かれた選手のみなさんも(香取さんの応援)をよく知っていらっしゃってて、パラ駅伝の千羽鶴を平昌に持って行きましたが、すごく喜んでもらいました。彼の発信に対する反応も大きくて、香取さんがいなかったらパラリンピックなど知らなかったという方もいましたね。
――その意味では、香取さんのような存在というのは、パラリンピック、パラスポーツにとってとても大きいですね。
ええ、少しでも多くの方にパラリンピックを知っていただくきっかけになっていると思っています。パーソンズ会長からも、『もっとシンゴはパラリンピックに関われ』といわれていましたね。
――その香取さんと一緒に、いろいろ競技会場などをまわられましたが、気付いたことも多かったと思います
知るきっかけにもつながることですが、パラアイスホッケーの日本対韓国戦で、韓国の人気スター、チャン・グンソクさんが2018人のファンを観戦に招待したでしょう。でも、あれ日本人の方がほとんど。日本が負けた試合だったけど、『ニッポン、チャチャチャ』とやっているんですね。最初はチャン・グンソクさん目当てで訪れただろう人たちがノリノリで声援を送っていたんですね。きっと、あの方たちはスポーツをみる楽しさ、スポーツを応援する楽しさに気付かれたんだと思いました。それは2020年にも大きいことだなと思いますね。
――観客の盛り上がりは選手にとっても、大会の雰囲気という点でも重要ですよね。それが東京でできるか、気がかりですが…。
でも、野球でもサッカーでも、実際やっていますからね。あのアイスホッケーの試合でも、チャン・グンソクさんのコンサートの雰囲気に慣れているというか、そういう人がムードを盛り上げていました。これから競技団体などとも話し合っていかなければいけませんけど、東京でも何かムードづくりを考えていく必要があると思いますよ。
――リオデジャネイロ大会にも行かれましたが、感じられたことはありますか。
やはり、リオとはムードが違っていましたね。たとえば、リオではピンバッジのトレードをあっちこっちでみましたが、平昌では文化の問題かもしれませんが、あまりみかけなかった。リオは運営などはあまりよくはなかったと思います。でも、いい大会だったなと印象に残っています。それは観客もボランティアも一緒になってスポーツを楽しんでいて、会場が本当に盛り上がっていたからですよ。こちらは、韓国が強い競技は盛り上がっても、そうではないところとははっきり違っていました。韓国と日本は近いと思います。工夫しないと東京は平昌と同じになってしまうと思いますね。
――目立った工夫といえば、スノーボード会場ではDJを使って盛り上げていましたね。
そうそう。日本が準備しなければならないのはスポーツDJ、大事ですよ。スノーボードクロスの試合でスタート板の故障で間隔が空いたでしょ。あのときDJとチアの女性たちが会場を盛り上げましたよね。あれがなかったらと思うと…、ほんとうに重要性を思いましたね。英語ができる日本人のスポーツDJはどれだけいらっしゃるかわかりませんが、厳しいと思います。平昌のように外国人と日本人のDJが一緒になって会場をもりあげるパターンはありだなと思いますね。
――パラサポでも何か、考えていかなければなりませんね。
観客を楽しませる工夫は、ほんとうに必要ですよ。モニターを使ってダンスしたりするとか。それからわかりやすさをどう作っていくか。競技がわかる工夫、ルールとか、障害の違いとか、パラリンピック特有のポイント制とか、そうしたこともわかれば、より楽しめるんです。一方で日本ではパラリンピックへの関心が広がっていることも事実です。実際、パラ駅伝はユーチューブで流されると200万人ものアクセスがあるんですよ。工夫すれば、できなくはないと思います。
――日本では「おもてなし」という言葉を使って、海外から来た観戦客にいかに対応するか、考えられています
おもてなしを間違って理解すると失敗するのではないかと思います。いま言われているのは、客と迎える側、線引きがあります。そうではなくて、楽しいスポーツを見るために日本に来る客を、空港に着いてから、空港を離れるまで、楽しいという気にさせてあげるのが、最高のおもてなしだと思います。僕は金浦空港を利用したので仁川空港のことはわかりませんが、少なくとも金浦にはオリンピック・パラリンピックを楽しもうとやってくる人たちを迎える工夫はなかった。東京はもっと、わくわくさせてあげた方がいいと思いますね。
――会場を盛り上げるにはボランティアの役割も大きいと思います。
教育が大事ですよ。リオが素晴しかったのは、ボランティアを含めてスポーツの本質である『楽しさ』を知っていることです。自分たちが楽しんでいるところに、さあ外国の方も、障害者の方も来てくださいという感じでした。なるほどインクルーシブってこんなことか、そう思いましたね。ですから、われわれもボランティア教育のプログラムは考えていかなければいけませんね。
――確かに、ボランティアこそ、大会の印象を左右する顔ですから。
僕が考えているのは、ボランティアじゃなくて、ディズニーランドのキャストのようなイメージなんですよ。スポーツボランティアにはノリが必要だと思いますね。イベントの盛り上げには、飛行機から降りたところ、それと会場の手前というのが大事なんですって。少なくとも僕は今回、空港でがっくりして、ホテルでがっかりして、行った競技会場の入り口では『アニョンハセヨ』と挨拶してくるくらいで。『ハァーイ』とハイタッチで迎えてくれるようなノリがなかったですからね。東京でも同じようになりかねないので、なんか考えていかないといけない。せっかく訪れた外国人に日本を好きになってもらわなければ損じゃないですか。そのために何ができるか、みんなで考えていかなければならなんですよ。
――ボランティアは親切だけど案外、会場のことなども知らないので、教育されていないような印象もありました。
やはり日本と似てて、スポーツの本質、あるいはスポーツボランティアの本質というのがわかっていない。教えられていないんですね。楽しくなければスポーツじゃない。それはまず、ボランティアが楽しんでいないといけないと思います。
――2020年東京に向けてやるべきことは、たくさんあると思いますが…。
IPCの前の会長のフィリップ・クレーブンがずっと言っていたんですが、『リバース・エデュケーション』、未来を担う子どもたちが親をはじめ周りを変えていくという、そういう考えを徹底したいですね。子どもの頃にパラリンピックやボランティアを知って経験しておくことは、日本の未来を変えることにつながる。若年層にどうパラリンピックやパラスポーツを理解し知らせていくかだと思います。そのためには、彼らにささるような、たとえばユーチューブやマンガ、香取さんのような人たちなどアンテナを立てて情報を発信していくことが大事だと思いました。
――パラサポの役割は大きいですね。
パラリンピック、パラスポーツにもっと健常者がからみ、いや健常者がメインになって障害者を巻き込んでいけば社会を変えることができる。そのためには意識のアンテナが立つことが重要であり、それを意識してやっていくことが、われわれの戦略です。
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