目指すは新時代の鍛冶屋!妻と歩んだ「ロートアイアン職人」への道 (2019/3/7 70seeds)
子どものころ、はっきりと語れていたはずの「好きなこと」。大人になるにつれ、さまざまな現実にぶつかり、諦めてしまいがちになってしまうひとは多いはず。好きなことや夢だったことをやり続けるのは簡単ではないことを知ることが、“大人”になることなのかもしれません。
多くのひとが“大人”になってしまうからこそ、どんなにしんどくても、いくら周りの人に反対されても、「好きなこと」を諦めなかったひとは美しく、かっこいい。越智雅英(おち・まさひで)さん・と妻の純子さんご夫妻は、脱サラし、大好きな「ロートアイアン」の工房「雅iron-works(マサアイアンワークス)」を開業。社会の“レール”を外れ、オリジナルなキャリアを歩むお二人に、開業までの道のりと、これからの夢についてお話を聞きました。
#1ロートアイアンとの出会い
ロートアイアンとは、「鍛鉄」・「錬鉄」という意味。味わい深い質感と温もりを併せ持ち、職人が自由な発想で製作できる鉄の工芸品です。元々はヨーロッパで発展し、家具や階段の手すりなどに用いられてきました。
越智雅英さんは大学卒業後、市内の鉄工所に就職。妻の純子さんは内装関係の会社に勤めており、結婚後もそれぞれが独立して生計を立てていました。
「最初のロートアイアンとの出会いは、純子さんの職場でした。直感的に「これは主人に合うかも」と感じ、「こんな面白そうなのがあるよ。やってみたらどう?」と、雅英さんに薦めたそう。「趣味で日曜大工をしたことがありましたが、鉄に関しては、仕事で溶接したことがあるだけ」
興味を持ったものの、ロートアイアンが浸透していない日本には、“師匠”となるひとはいません。雅英さんは書籍やインターネットで情報を集めながら、独学で製作方法を勉強し始めます。覚えたての知識をもとに恐る恐るハンマーを振るった雅英さんは、鉄が見せる多様な表情に圧倒されます。
「鉄を叩くと、叩くたびに鉄の色が変わるんです。そしてそれが表情になって。叩く前には想像もしてなかった表情が出てきて、しかも、どんな形にもできる。『これは、たまらないな』と思いました」
#2妻の応援、寝る間を惜しんで叩く
鉄が見せる様々な表情や温もりなど、すっかりロートアイアン魅力に取りつかれた雅英さん。サラリーマンを続けながら休みの日には鉄を叩き続ける「二足のわらじ生活」を始めます。最初は趣味による製作が中心でしたが、口コミで噂が広がり、「店舗の看板を作ってほしい」「玄関の階段に手すりを付けてほしい」と、さまざまな注文を受けるようになります。
「せっかく注文してくれた人を待たせられないですし、喜んでくれる顔を見てしまったら、もう止められないですよ」
雅英さんは、お客様と直接顔を合わせ、声を聞くことができる「商い」にささやかな幸せを感じるようになりました。
そんな「日曜大工」をつづけること数年。気が付くと雅英さんの生活は一変していました。平日の夜と土日、仕事以外の時間はほとんど鉄を叩いて過ごすようになっていました。
「寝る間を惜しんでやってました。身体は本当にきつかったです。それでも頑張れたのは、好きなことだったし、妻が背中を押してくれてましたから」
#3周囲は反対。“それでもなお”
雅英さんが作った製品は周りからの評判も良く、やがて夫婦の間で「ロートアイアンで本格的に生計を立てたい」という想いが強くなってきました。しかし、そんな二人に対する周りの反応は、冷ややかなものでした。このまちの人には、ロートアイアンはまだまだ認知度が低いマイナーなもの。サラリーマンを辞めてまで続けることか?雅英さんの挑戦を応援する声はごく一部だったそう。
「10人に相談したら9人に『止めとけ』と言われました。正直なところ、僕ひとりだったら気持ちが折れていたかもしれないです。けど『後押し』って力になるじゃないですか。一緒にいた妻が常に行け行け!っていう感じで応援してくれたんです」
どんなに周りに反対されても、それでもなお、純子さんは雅英さんの背中を押し続け、雅英さんは妻の想いに応えるべく、鉄を叩き続けたと言います。そこには、純子さんの決して折れない想いがありました。
「好きなことを生業にすることで、逆につらいこともたくさんありますが、私は彼に好きなことや得意なことを仕事にしてもらいたい、という思いがありました。彼は本当にロートアイアンが好きでしたし、きっとひとつのことに向き合って何かを作るスタイルがぴったり合うと思っていました」
2018年春、諦めなかった二人の想いはようやく形になり、「雅iron-works(マサアイアンワークス)」が開業。ロートアイアンとの出会いから6年が経とうとしていました。
#4欲しいと言ってくれる人のため
好きなことを仕事に。夢をかなえたばかりの二人に、今後の目標を聞いてみました。
雅英さん「欲しいと言ってくれる人のために、これからも作り続けて、新しい時代の鍛冶屋として『鉄のぬくもり』をみんなに伝えていきたいです」
純子さん「この場所はすごく広いから、コンテナを3つくらい置いて、木の作家さんとかガラスとかそれぞれ別のモノづくりをする人が集まる場所になったらいいな、とか考えてます」
「たくさん儲からなくても、自分らしく自由に働く『こあきない』」を体現する越智さん夫婦。その目は、「モノづくりの第一人者」として壮大なビジョンを見据え、輝いていました。
#5雅iron-works
「雅iron-works」はお客様からフルオーダーで受注するため、階段や手すり、棚、テーブル、表札や看板など、実に多種多様な製品を手掛けています。大量生産品に比べると製作に時間がかかりますが、二つとないオリジナルが出来上がります。
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