会社設立段階における暴力団排除への動き (2018/2/27 企業法務ナビ)
はじめに
法務省は27日、反社会的勢力の資金源根絶のため株式会社を新設する際に、その会社の実質的支配者が暴力団員などの反社会的勢力ではないことの申告を義務付ける制度を設ける旨発表しました。パブリックコメント(意見公募)を経て年内の実現を目指しているとのことです。今回はその制度の概要を見ていきます。
制度新設への背景
法務省の発表によりますと、近年暴力団などの反社会的勢力は株式会社を隠れ蓑とし、詐欺や資金洗浄などの犯罪行為に利用しているとのことです。株式会社は取引の主体として社会的に信用が高いことから、その信用を悪用した犯罪行為が多発しているとされます。表向きは通常の企業ですが、暴力団等の反社会的勢力がその会社の実質的支配者となっており、その資金源なっていると指摘されております。
またテロ資金根絶を目指す国際機関「金融活動作業部会」(FATF)からも法人の実質的支配者の把握と当局による管理を勧告されており、株式会社の暴力団による利用を阻止する機運が高まっていたとされます。
新制度の概要
株式会社を新設する際にはまず発起人が定款を作成する必要があります(会社法26条1項)。定款には会社の目的、商号、本店の所在地、出資額、発起人の氏名住所などを記載することになります(27条等)。そして発起人全員が署名押印した上で公証人の認証を受けます(30条1項)。その後出資や設立時役員の選任などを経て設立登記をすることにより株式会社は成立します(49条)。この公証人による認証の際に(1)会社の実質的支配者となる者、および(2)その者が反社会的勢力に該当しないことの申告を求め、「正当な理由」なく拒んだ場合には認証を拒否するというものです。これらの申告のもとに第一次的には公証人が調査を行ない、第二次的に警察等による照会により裏付けを取り、データベース化していくこととされております。
会社の実質的支配者とは
ここに言う「会社の実質的支配者」とは犯罪収益移転防止法施行規則11条2項に基づき次に該当する者を指すとされております。(1)議決権の総数の25%を超える議決権を直接または間接に有している自然人。(2)それに該当する者がいない場合においては、出資、融資等を通じて事業活動に支配的な影響力を有する自然人。(3)以上に該当する者ばいない場合は、当該法人を代表しその業務を執行する自然人。
コメント
近年暴対法の強化等により暴力団等の反社会的勢力は表向き減少しているとされます。しかし実質的には会社や法人など合法的な組織、いわゆるフロント企業などの形態を利用して水面下で詐欺や資金洗浄などの犯罪行為が行われるようになったと言われております。今回の法務省の制度新設もそういった動きに対応したものと言えます。
公証人への申告の真実性の確保や虚偽の申告等を行った場合の罰則など、制度の実効性担保の方法についてはまだ明らかではありませんし、個人情報保護との関連からもまだ煮詰めるべき問題は残っているものと思われますが、今年中には実現する見通しと思われます。昨今反社会的勢力との関わりを忌避する社会情勢はより強くなっております。関係を疑わせる事実の存在だけで企業イメージは低下し株価も下がります。法制度の動きに注視しつつ、反社会的勢力との関係が生じないようコンプライアンス体制の見直しを行うことが重要と言えるでしょう。
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