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みずほ銀行と信用保証協会の訴訟に見る、反社会的勢力への保証 (2016/4/19 企業法務ナビ

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はじめに

みずほ銀行の融資先が反社会的勢力であったことを理由に、信用保証協会が融資先への保証は無効であるとして争っていた訴訟の差し戻し審判決が4月14日東京高裁で言い渡されました。今回は融資先が反社会的勢力であることが判明した場合の保証の有効性について見ていきます。

反社会的勢力

事件の概要

みずほ銀行は融資先会社の債務不履行を理由に、その会社に信用保証をしていた東京信用保証協会に対して貸付元本、利息、遅延損害金合わせて約6400万円の支払いを求める訴えを起こしていました。信用保証協会は主債務者である融資先会社が反社会的勢力ではないとの認識のもとに信用保証をしたのであるから、本件信用保証契約は錯誤により無効である、また金融機関の調査義務違反により信用保証の免責条項に該当するとして争っていました。原審は信用保証協会の錯誤の主張を認めていましたが、最高裁は1月13日に破棄し差し戻す判決を言い渡していました。

融資先が反社会的勢力と判明した場合

金融機関が融資し信用保証協会が保証したが、後になって融資先が反社会的勢力であったと判明した場合、保証契約の効力はどうなるのか。融資や保証契約を締結する段階で相手方が暴力団等の反社会的勢力であることが判明した場合は契約しないといった取り扱いは現在暴対法による規制の強化、暴対条例制定の下、金融機関のみならず多くの企業が採用しています。しかし融資後に判明した場合の取り扱いについては融資契約、保証契約、基本約款等には定められていないことが多く、保証契約の有効性が後で問題となってきます。この場合に無効であるとする論拠として錯誤無効、基本契約の付随義務違反が挙げられます。

(1)錯誤無効

本件東京信用保証協会も主張しましたが、主債務者が反社会的勢力だとは知らず、もし知っていれば保証契約は締結しなかったのであるから意思表示に錯誤があるとして無効であると主張することが考えられます。民法に規定されている錯誤無効(95条)の要件は①法律行為の要素に錯誤があること②表意者に重過失がないことが挙げられます。そして「錯誤」とは内心的効果意思と表示の不一致を言います。例えば赤い車を買おう(内心的効果意思)と思い、その赤い車をください(表示)と言うべきところを、間違えてその青い車をくださいと言ってしまった場合に錯誤があることになります。しかし反社会的勢力では無いという点は内心的効果意思の前提となるいわば動機です。動機に錯誤があっても民法が規定する意思表示の錯誤には該当しないのが原則です。判例では例外的に動機が明示または黙示に示され、法律行為の内容となっていた場合には錯誤を認めています。

(2)付随義務違反

信用保証協会は信用保証協会法に基いて、中小企業への融資を促進する目的で設立された公共機関です。そして暴力団排除の社会情勢のもと、金融機関と協力して相互に反社会的勢力への資金の流れを遮断すべく、融資先がこのような団体であると判明したときは融資を拒絶することが社会的義務として課されています。信用保証協会が金融機関の融資に対して保証する場合、個別の保証契約とは別に前提として金融機関と基本契約を締結します。その中に後に融資先が反社会的勢力であると判明した場合の扱いについて規定されていなくても、このような社会的義務から基本契約には付随的義務として融資先の調査義務を相互に負っていると考えられています。そして金融機関が融資するにつき、融資先が反社会的勢力ではないか調査する義務に違反していた場合は保証契約も無効であると主張することが考えられます。

コメント

昨今、暴力団排除に向けて規制強化がなされていることはよく知られているとおりです。金融庁も各金融機関に置くデータベースの充実、警察との連携等を強化していく指針を示しております。しかしそれでも融資先がそれに該当するかの調査は簡単ではありません。暴力団本部とは遠く離れた県にダミー会社を設立して融資を申し込んでくる場合も多く、これらのデータベースの網を掻い潜るように社会に紛れ込んできます。

本件みずほ銀行の事案でも、東京保証協会が後になって警察への照会で反社会的勢力であると判明し無効を主張していました。類似事例での下級審裁判例では錯誤無効が認められているものも多く見られます。しかし本件で最高裁は錯誤を認めませんでした。融資先が反社会的勢力であると分かれば当然融資を断ったと考えられても、契約の内容として当然に含まれるとまでは言えないとして動機が意思表示の内容にまではなっていないとしました。また付随義務違反について、金融機関が一般的な方法で調査すべき義務を果たしていれば、保証協会は保証義務を免れないとしました。そして差し戻し審でも一般的な調査は尽くしていたと判断されました。

このように後で判明した場合に、錯誤で無効と認められる可能性は決して高くありません。また反社会的勢力の偽装工作が巧妙になる中、一般的な調査義務違反もなかなか認められないと言えるでしょう。こうした事態に備えて、契約時には免責条項や、特約を明示して盛り込んでおくことが必要と言えるでしょう。

提供:企業法務ナビ

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