役員報酬の多様化について (2018/1/23 企業法務ナビ)
はじめに
日経新聞電子版は17日、近年日本の上場企業では役員報酬に株式等を充てるところが増えていると報じております。デロイトトーマツコンサルティングの調査によりますと、41%の企業で何らかの株式報酬を導入しているとのこと。今回は役員報酬の種類と会社法上の規制について見ていきます。
会社法上の報酬規制
会社法361条1項によりますと、役員の「報酬」については定款か、または株主総会決議で定める必要があります。定めるべき事項は、具体的な報酬の額、額が確定していないものについては具体的な算定方法、金銭でない場合はその具体的な内容となります。(同条各号)。ここにいう「報酬」とは、役員の「職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」を言い、判例では退職慰労金も含まれるとしています(最判昭和39年12月11日)。なお平成26年改正で、監査等委員会が設置されている場合は、監査等委員である取締役の報酬については、それ以外の取締役の報酬と区別して定めなければならないとされました(同2項)。
株式報酬の種類
(1)ストックオプション
ストックオプションとは、会社が役員に職務執行の対価として付与する新株予約権を言います。あらかじめ定められた価格で会社の株式を取得する権利で、会社の株価が上昇した時に行使することによって上昇分を利益として得られる、いわゆるインセンティブ報酬の一つです。会社の業績が上がり、株価が上昇すれば役員の報酬も上がることから役員の業務執行へのインセンティブを与えるというメリットがあります。他方、長期不況で株価上昇が見込めない場合は効果が薄く、また付与された者とそうでない者との間で不公平感が生じたり、自社株が希薄化するといったデメリットも指摘されております。
(2)リストリクテッド・ストック
リストリクテッド・ストックとは特定譲渡制限付株式とも言われ、役員報酬として自社株が直接付与されるものを言います。ストックオプションと同様のインセンティブ報酬ですが、リストリクテッド・ストックの場合はより中長期的な視点で譲渡制限が付けられた株式が既に与えられております。たとえば「経営計画で定めた業績目標を達成した場合に譲渡ができる」というように、一定の条件を達成すると譲渡が解禁され、具体的な報酬が得られるという仕組みです。ストックオプションの場合は株価が上昇した時点で株式を売却して役員が退職してしまうというリスクもありますが、リストリクテッド・ストックの場合は中長期的に売却が制限されることから、より役員報酬に適しているとされております。
(3)株式交付信託
株式交付信託とは、会社が信託銀行に金銭を信託し、信託銀行はそれをもとに市場から株式を取得し、会社が役員に与えるポイント応じて役員に取得した株式を与えるという制度です。ストックオプション等と同様に役員にインセンティブを与える報酬の一種ですが、ストックオプションに比べ株式の希薄化が生じにくく、またより柔軟な制度設計を行うことができると言われております。しかし一方でガバナンス上の問題が生じる危険があることから一般的には受託者である信託銀行には取得した株式の議決権を制限する運用が取られます。
(4)パフォーマンス・シェア
パフォーマンス・シェアとは業績目標の達成度合いに比例して役員に株式が交付される報酬制度を言います。これも上記類型と同様にインセンティブ報酬の一種ですが、業績が上がっただけ株式がもらえる点でより強く業績に連動した報酬と言えます。リストリクテッド・ストックの業績連動の弱さを補う役員報酬とされております。一方リストリクテッド・ストックは既に株式が付与されておりますが、パフォーマンス・シェアの場合は業績が上がらなければ付与されないことから、長期間人材を引き止めるためには安定した報酬が安定したリストリクテッド・ストックのほうが効果的とも言われております。
コメント
日本では従来、役員報酬は一定額の金銭という固定報酬が一般的でした。しかし近年ストックオプションに代表される金銭以外の報酬の導入が進み、上場会社の40%以上が何らかのインセンティブ報酬を導入しているとされております。その中でもストックオプションが47%と最も多く、リストリクテッド・ストックは全体の6%にとどまったとされます。会社と労働契約を締結している労働者である従業員は労基法上、金銭以外の報酬は原則禁止されますが、会社と委任関係にある役員にはこのような制限はなく、会社法の規制の範囲内で様々な報酬が設定できます。
上記のようにインセンティブ報酬の中でも、より業績との連動が強く、業務執行へのモチベーションを高められるものから、業績が上がらなくても一定の報酬は確保できるもの、中長期的視点で人材を確保できるものなどその特徴は様々です。会社の規模や業績、景気などを見て自社とその役員にもっとも適切なインセンティブ報酬の導入を検討していくことが重要と言えるでしょう。
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