「ジャパンライフ」を提訴へ、預託商法規制について (2018/1/9 企業法務ナビ)
はじめに
磁気グッズの預託商法を展開し、倒産した「ジャパンライフ」(千代田区)に対し、愛知県の複数の契約者が損害賠償を求めて来月にも提訴する方針であることがわかりました。負債総額は2400億円以上とされます。今回は預託商法に対する特定商品預託法(預託法)の規制について見ていきます。
事件の概要
報道などによりますと、ジャパンライフは「レンタルオーナー契約」と称して磁気グッズを数百万円で販売し、顧客がその商品を同社に預けて別の客に貸与し、顧客に対しては賃借料を支払う預託商法を展開していたとされます。契約時に元本や差額の返金を確約していたとされ、昨年7月末時点で約1700人と計約1700億円の契約を締結していたとのことです。
しかし消費者庁の調べによりますと、実際には現物商品がほとんど無く、レンタルの実体も存在せず、また巨額の債務超過に陥っていたとされ、備え置き書類の不備等、預託法や特定商取引法違反事実も発覚しており、4回に渡って業務停止命令が出されております。同社は昨年12月26日に2度目の不渡りを出し事実上倒産しております。原告側弁護団は詐欺罪や特商法違反に当たるとして愛知県警に告発状を提出しているとのことです。
預託商法に対する規制
預託商法とは動物の飼育や土地開発などの事業を専門家に委託し、それによる利益を分配することを名目として出資を募る商法を言います。しかし実際には専門家への委託や運用などが適切に行われず、出資者への配当や返金が、新たな出資者からの出資によって賄われる、いわゆる自転車操業的な経営が行われていることが多く、最終的には倒産にいたって多くの出資者に損害を被らせることとなります。
特定商品預託法(預託法)はこういった被害から出資者を保護する目的で1986年に制定されました。預託法では書面の交付義務、不当行為の禁止などの規定が置かれております。また預託商法は特定商取引法の規定も適用されることになります。
預託法による規制
(1)書面交付義務
預託取引業者は、預託契約を締結するまでに顧客に対して契約内容やその履行に関する事項、預託業者の業務、財産状況に関する事項を記載した書面を交付しなければなりません(3条1項)。具体的には業者の氏名・名称・住所、商品の種類・価額、預託期間、配当の額・算定方法、手数料、解約方法、賠償額の予定等、また業務財産状況については業務の開始時期、貸借対照表、損益計算書等の計算書類、月次保有状況などが挙げられます(施行規則3条1項、2項各号)。
(2)事実告知
預託取引業者は契約勧誘の際に「顧客の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」について故意に事実を告げなかったり、不実のことを告げる行為が禁止されます(4条1項)。また顧客が契約を解除することを妨げるために行う場合も同様です(同2項)。具体的には目的商品の価額およびその変動、配当額とその変動、目的商品の保有状況、目的商品の名称、所在、規模などに関して実際とは異なる事実を告げたり、故意に伏せておくことが禁止されます(施行令3条各号)。
(3)不当行為の禁止
預託業者は契約締結、更新の際に、または契約解除を妨げる目的で「威迫する言動」を行ってなりません(5条1号)。また預託契約による債務や解除によって生じる債務の履行を拒否したり、不当に遅延することも禁止されます(同2号)。
(4)書面の備え置き
預託取引業者は業務状況、財産状況を記載した書面を事業所に備え置き、顧客等の求めに応じて閲覧させる必要があります(6条)。具体的には事業年度ごとに施行規則の様式第8に則って作成した財産書類を事業年度経過後3ヶ月以内に、また1月ごとに月次保有状況を様式第9により作成し翌月の10日までに備え置く必要があります(施行規則5条1項1号イ、ロ)。
(5)クーリングオフ
顧客は契約締結時に交付される書面(3条2項)を受け取った日から14日以内に契約を解除することができます(8条1項)。契約解除は書面で行ない、顧客が書面を発送した時点で効力が生じます(同2項)。契約解除にともなって顧客に返還等を行う必要がある場合に、その費用は預託取引業者が負担することになります(同3項)。またこれらの規定を排除する特約は無効となります(同4項)。14日のクーリングオフ期間が過ぎても、顧客は中途解除することができます(9条1項)。この場合に損害賠償額の予定等があったとしても、契約目的物の価額の10%に相当する額を超えて顧客に請求することはできません(同2項)。またこれも同様に排除特約は無効となります(同3項)。
特定商取引法による規制
特定商取引法では「連載販売取引」関する規定が置かれております。連鎖販売取引とは特定の物品等の販売につき、他の者をあっせんすると利益が得られるなどと言って誘引する取引を言います。いわゆるマルチ商法のことです。この連鎖販売取引についても不実告知による勧誘の禁止や誇大広告の禁止、書面交付義務、クーリングオフなどが規定されております(34条、35条、36条等)。預託商法も場合によってはこの連鎖販売取引の性質を伴う場合があり、別途特商法に抵触することがあります。
コメント
消費者庁の発表によりますと、本件でジャパンライフが行政処分を受けた理由は、預託法に関しては書類の備え置き義務違反等であるとのことですが、別途特商法違反として勧誘目的不明示、事実不告知、契約書面交付義務違反、解除妨害が挙げられております。知人を紹介すれば利益の一部を受け取れる等の勧誘を行っていたとされており、その点が特商法適用事由に該当したと考えられます。また会社法に基づいて公正妥当な会計監査を受けた書面が備え置かれていなかった点が預託法違反とされております。
以上のように一定の事業を委託することを目的として出資を募る預託商法は、多くの出資者から多額の資金が集められることから、各種法律によって厳格に規制されており、罰則も存在します。また当初から想定されている配当や返金が不可能であることがわかっていながら勧誘した場合には詐欺罪に該当する場合もあり、実刑例も存在します。
どのような場合に法が適用される預託商法や連鎖販売に該当するかを正確に把握し、必要な備え置き書類の具備などを行うことが重要と言えるでしょう。
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