副業と法律: 第17回副業実践者インタビュー(2)副業申請が思わぬ展開に職場にどこまで気を使うべきか (2017/12/21 nomad journal)
前回の『副業実践者インタビュー(1)「原則解禁」に意味はなし?副業はあくまでひっそりと~副業と法律 第16回』に引き続き今回も副業実践者のインタビューをお届けします。
須藤さん(仮名)は、服飾メーカーでパタンナーとして勤務する20代の女性です。会社の規模は小さいですが、職場の自由な雰囲気に魅かれ就職しました。入社して数年が経った頃、友人からアルバイトに誘われました。許可を得れば副業することができる会社だったので、須藤さんは副業申請をしてアルバイトを始めることにしました。ほどなく副業は許可され、順調に始まったように見えた須藤さんの副業ライフですが、その後、職場で思わぬ波乱を巻き起こすことになったのです。
趣味のイラストが雑誌に~会社の規定に則り副業申請~
――副業の内容を教えてください。
須藤:高校時代の友人が出版関係で働いていて、イラストを描いてみないかと誘われたんです。自分の描いたイラストが雑誌に載るのって魅力的じゃないですか。だから是非描いてみたいと思ったんです 。
――イラストは得意なのですか。
須藤:絵を描くことは好きです。高校時代は美術部で、普段からイラストもよく描いていました。得意かというと自信はないですが、これは何かのチャンスかもしれないと思いましたね。イラストといっても挿絵みたいな感じの小さいものでしたけど 。
――お勤めの会社は副業を認めているそうですが。
須藤:採用面接の時、管理職の方から「うちは給料多く出せないけど、その代わりにアルバイトすることを認めています」という話があり少し驚いたことを覚えています。給料が多くないと言われ不安がよぎりましたが、会社の雰囲気が自由で職場の風通しがよく、楽しく働けそうだと思ったので就職を決めました。
――これまで副業について考えたことはありましたか。
須藤:具体的に考えたことはありません。会社が認めているからといって副業しようと思うことはありませんでした。
――副業申請した時の様子はどうでしたか。
須藤:申請書に副業の内容を書いて提出するだけの簡単な手続きですが、さすがに緊張しました。本当によいのだろうかと。でも何事もなく許可されましたし、副業といっても費やすのは少しの時間で、報酬もお小遣い程度のものですから深く考える必要もないと思い直しました。副業を始めた後も上司から特に何か言われることもありませんでした。
寛容ではなかった職場の仲間たち~豹変した態度に地獄の日々~
――その後、トラブルに発展したそうですね。何があったのですか。
須藤:そうなんです。ある日突然、職場の先輩から「あなたアルバイトしているらしいけど、だから遅刻が多いのね」って嫌味っぽく言われました。私、これまで遅刻なんてしたことないし、何が何だかわからなくて…。
――先輩が嫌味を言うのは、どういった理由からだと思いますか。
須藤:アルバイトのこと、職場では誰にも言ってなかったんです。そのことが先輩は気に入らなかったようです。そのうち先輩だけでなく他の人からも嫌味っぽいことを言わるようになりました。
――パワハラですね。
須藤:そうですね。いじめですね。ついには職場のみんなから避けられるような感じになって、何も言わなかった上司まで「君は職場の雰囲気を乱している」と言い出しました。何でこんなことになったのか・・・悩み続けた毎日は地獄の日々でした。
――職場の人たちは会社が副業を認めていることは知っていたのですよね。
須藤:もちろんです。実際、アルバイトしている他部署の人のことが私の職場でも話題になることがありましたから。でも責めるとかじゃなくて、何となく話題になる程度でした。
――どういったことがパワハラの原因だったのでしょうか。
須藤:アルバイトしていること自体ではなく、アルバイトしていることを職場に言わなかったことだと思います。会社に許可を申請している以上、黙っていても私のアルバイトはいずれわかることなんですね。なのに私はそれを隠していると思われた。秘密にしていることが先輩たちの癇に障ったのではないでしょうか。そんなつもりは全くなかったんですけどね。
須藤:今思えば、さっさと自分から「アルバイト始めます」と宣言しておけばよかったのかもしれません。
正直者がバカをみる~風通しの良い職場環境が仇に~
――どうして先輩たちの癇に障ったのだと思いますか。
須藤:本当のところはよくわかりません。でも多分、アルバイトのこと、私からじゃなくて、他人から聞かされたからじゃないでしょうか。何でも言い合える風通しのよい職場なのに、私が影でアルバイトしている形を作ってしまったということなのでしょう。
須藤:先輩たちの態度は私も腑に落ちません。私は何もしていない・・・というか、アルバイトはしましたが、それは会社に許可をもらってやったことです。ただ、それを先輩に言わなかった。でもわざわざ先輩に言わなくてはいけないことなんですかね。大したアルバイトでもないのにバカ正直に申請した私が悪いのかもしれません。黙ってやればよかったです。
――悪いのは須藤さんじゃないと思いますが。
須藤:ええ、でも結果的に悪者にされてしまいました。今となっては、どうでもよいことですが・・・。
まとめ
須藤さんのイラスト副業は、ひと月に数点の挿絵を書く程度で、本業に影響を与えるようなものではありません。しかしあたかも本業に影響しているかのごとく吹聴され、周りから冷たい対応を受けることになってしまいました。
その後も先輩たちからのパワハラは続いたそうです。それに耐え切れなくなった須藤さんは、理不尽さを感じながら自ら会社を辞めました。そして今、会社と職場の先輩たちを相手に訴訟を起こそうと考えています。
今回も前回同様、本業先の職場環境が重要な要素であることがわかります。須藤さんのケースは、副業に対する職場の理解があっても、その知られ方如何でダメージを受ける可能性があることを示しています。副業禁止、副業容認、そのどちらでも、結局、副業は黙っておくのが得策ということでしょうか。
次回はハードな副業をしているケースをご紹介します。
記事制作/白井龍
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