地方で稼ぐ“Iターン副業”はおいしいのか… （2017/11/21 瓦版）
地方自治体が副業限定で重要ポストを募集
副業解禁で会社員の就業外時間の過ごし方の多様化が進んでいる。飲み二ケ―ションは激減し、学び直しや副業がジワジワと増え始めている。そうした中で、副業の新たな潮流として注目されているのが、都心勤務の有能会社員の地方へのIターン副業だ。気分転換と助っ人としての頼られ感で充実度と達成感も高く、なかなか魅力的だが…。
「人口減少、少子高齢化に立ち向かうには、役所の人間・経験だけでは限界がある。もともと『自前主義』が基本だったが、既存の行政運営からの脱却は不可欠。民間で働く方の新しい視点で、データ分析から戦略の企画立案までを経営者目線でけん引していただきたい」。こう外部人材に呼びかけるのは広島・福山市長の枝廣直幹氏。こうした“求人”は増加傾向にあるが、同市が求めるのは戦略顧問。それも兼業・副業限定という異例の人材募集だ。
首都圏の人材、とりわけ、プロ人材と呼ばれるハイスキル人材は、地方との格差が大きく、需給バランスが歪になっている。地方では欲しくても獲れない貴重な戦力。それがプロ人材だ。枝廣市長の“大幅譲歩”は、そうした超売り手市場に対する“奇策”でもある。一方で、来てさえくれれば、役所にとってもメリットがある、という皮算用もある。
「今回募集人材には福山市のブレーンとして、市の課題を分析し、有効な事業企画の立案・分析を担っていただきたい。副業を懸念する企業にとって情報漏えいリスクが気になるだろうが、自治体ではそのリスクは低い。加えて地方進出の足掛かりにもなる。我々にとっても社員の意識改革につながり、底上げが期待できる。常駐でなくても十分にそれは可能と考えている」と枝廣市長は熱弁する。
都内の説明会にはプロ人材が殺到
首都圏から700キロ以上離れた地から発せられたラブコール。あくまで副業だが、当のプロ人材はこうした求人をどう考えているのか。ビズリーチの会員アンケート（n＝1,400）では、兼業・副業の意欲は8割を超え、さらに「その場所は問わない」が44％と4割を超えている。十分に見込みはありそうだ。ちなみに、待遇は、日当として2万5,000円（週1日平日勤務、月4日程度）を支給で別途交通費と宿泊費が支給される。
実際、同市が都内で行った説明会には、日系大手シンクタンク調査主任、大手百貨店商品部課長、外資大手日用品メーカーマーケティングスペシャリストなどプロ人材が多数参加。もともと抽選制だったが、あまりの多さに人員調整するほどの盛況となった。参加した一人は、「長いキャリアを考えると会社でなく、個人のキャリアを考えなければいけない。本業は金融だが、この件は本業にもフィードバックできる。興味を持つ人が多いのではないか」と前のめりに話した。
副業解禁と地方人材不足が交錯して生まれた新たな潮流
ジワジワと広がる副業×地方という潮流。グルーヴスが仕掛けるのは、地方企業と都市部の人材をつなぐプラットフォームの構築だ。12月1日には、受け皿となるプラットフォーム「Skill Shift」をオープンする。第一弾は、岩手八幡平市と連携しての副業受け入れプロジェクト。人材確保に十分なコストを掛けられない地方企業と都市部のハイスキル人材をマッチングする取り組みで、プロ人材のIターン副業を後押しする。
着実に広がりつつあるプロ人材のIターン副業。ビズリーチの地方創出支援室の加瀬澤良年チーフプロデューサーは、その展望を次のように解説する。「アンケートから分かるようにプロ人材が地方で働くことへの関心は高い。加えて、企業もメリットを享受できることから、企業が兼業・副業を認めれば、自治体での兼業・副業が広まる可能性もある。そうなれば、自治体・企業・プロ人材のWin-Win-Winを実現する人材還流の新しいモデルとなる」。
福山市の事例は、戦略顧問という重要ポジションの副業での募集。就業日数こそ、“副業”だが、その役割は、プロ人材に見合った重いものだ。だからこそ、ジョインした人材がどれだけそのポテンシャルを発揮し、どんな結果を出すのかは副業の今後の在り方をも左右するといっていいだろう。ちょっと地方へ副業してきます――。それが、当たり前の風景になるのかどうか。解禁後、水面下でうごめく副業へのアクションが、大きく動きはじめそうな気配だ。
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