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【箕面市長 倉田哲郎氏:第6話】脳内に地域住民という上司が存在する (2017/10/14 HOLG.jp

箕面市長 倉田哲郎氏

(第5話から続く)

価値観を合わせることを突き詰める

加藤:最近では、事業部側が決められた予算の中で自由に配分をするような自治体も増えて来ました。

倉田市長:枠配分という手法が必ず良い悪いということではない、と僕は思っています。役所の仕事は「本当に喜ばれる事業」「先のことを考えると、今やらなきゃいけない事業」「やらないと住民から苦情を言われるからやる事業」「惰性であまり意味ないけど昔からやっている事業」、色んな特色があります。

 その中で何を重視して、どれは勇気を持ってやめよう、という価値観を組織の中で統一すること、突き詰めることが全てです。仕組みを作ったからといって、価値観が揃うわけではない。それは、枠配分を15年ほど前に出向してきていた時に箕面市で行って、色々失敗してきてわかりました。悪用できる部分や制度の隙みたいなものもあります。

管理部門の人間を長く滞留させない

加藤:なるほど。確かに、最初は制度に抜け道があったり、悪用ができたりするのかもしれないです。ただ、そこから改善していくことで、運用に求められているスキルやポリシーが伝わっていく。そうすると、事業部が自発的に行動していき、組織としては活性化していくような印象があります。

倉田市長:マインドが育っていけば、うまく回っていきます。結局はそこです。役所は管理部門の人材を長く滞留させるんです。だから僕が箕面市でずっとやってきていることとして、政策部門や財政のような管理部門の人間を、2年くらいで外の事業部に出すんです。それでまた新しく未経験者を呼んで、また送り出す。

 市長になってから10年これをやって来ているんですよね。そうすると、少なくとも僕の価値観がわかる人間が、現場側に増えて来ていると思います。

加藤:人を入れ替える労力は大変だと思いますが、文化は広く浸透しそうですね。

倉田市長:そうですね。だから今、うちの幼稚園、保育所を担当している部長は財政をずっと仕切っていた人間がやっていて、やっぱり予算に対する向き合い方が上手です。必要なところと無駄なところを自分で判断して提案してくれる。

加藤:それはありがたいですね。

首長なんて居なくても十分に組織は回っていく

加藤:職員の方へ向けてメッセージをいただけますか?

倉田市長:今の組織のままではなかなかそうはいかない部分もあるかもしれませんが、本来、行政組織は十分な権限や財源、それと自由度を持っている組織です。だからこそ、多くの職員さん達がその地域に対しての問題意識を持ってほしいです。時代はどんどん変わるので、アンテナを立てて自分達で判断をしてもらえたら、首長なんて居なくても十分に組織は回っていくと僕は思っています。

加藤:そうなるためには何が必要だと思われていますか?

倉田市長:役所の人達は実はルールに縛られているように見えて、ルールそのものを司っていることを忘れていることが多い。自分でルールを作り出せるっていうことを忘れないことが大事ですよね。まだ口に出しづらい若手だったりすることもあると思うんですけど、自分がこうすべきだと思ったことは黙らず伝えてほしいです。その案が採用されなかったとしても。

脳内に地域住民という上司が存在する

加藤:最後の質問です。今のお仕事の醍醐味をお聞きしてもいいですか?

倉田市長:喜んでもらえる人が「いるだろう」と思うこと。実は、市長は直接「ありがとう」と言われることが少ないんですよ。

 これを言うと笑われることの方が多いんですけど、僕はトップにいることが苦手なんです(笑)。部下としてだったら、上司を支える自信はありますよ。でも、今一番上にいて辛いんですよ。

 そこで、脳内に上司を作っているんですよ。脳内に上司を作って、その上司だったら僕にどう指示するかを想像して、その指示に基づいて仕事しているんです。実は、その脳内上司は地域の人達なんですよ。地域の人の集合体みたいなものが人格化されたものが僕の中にいるんです。

地域とも積極的に関わる倉田市長

地域とも積極的に関わる倉田市長

加藤:なるほど。面白いですね。

倉田市長:僕ら行政、ないしは政治家がアクションすることなんて、万人にとって全て良いことなんてない。必ずそこでマイナスを受ける人もいるだろうとは理解しつつ、トータルとしては「ああ良かった」とか、「助かった」とか思ってくれる人が多い選択肢を選んでいるつもりです。だから、日々の仕事の先に喜んでもらえる人が沢山いてくれたらと思っています。

◇        ◇

【編集後記】

 以前に、スーパー公務員と呼ばれるような方々と夕食をご一緒させていただいた際、これから先、必ず『ミスター人事』のような人が現れて、改革の波が押し寄せるとおっしゃる方がいた。

 私自身、人事にはかなり強い興味がある。そこで、全国自治体における人事の先進事例がないものかと、様々な職員の方々にお聞きしていたが、「思い浮かばない」という返事を何度も聞いた。そして、ようやくアンテナの高い方から箕面市の人事給与制度改革の話に辿りつき、今回、同じく人事領域で変革を進めた生駒市小紫市長から倉田市長をご紹介いただいた。

 倉田市長はご自身のブログに、人事給与制度改革のことを『地味』だと書かれていた。私にとって、なぜ、これだけの成果が『地味』なものとして扱われるのか、とても疑問に感じたし、それに加えて、2014年にこの改革が実を結んでから、追随した自治体が皆無というのは率直に驚きでもある。

 地方公務員法第三十条に「すべて職員は、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当つては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」とある。奉仕者という表現が時代に合っているかは別として、ここでは『公共の利益』を生み出すことを職員に求めている。だとすれば、多くの公共の利益をもたらした人こそが、その分の対価として相応の報酬を得ても良いのではないだろうか。

 もちろん、組織としての成果を最大化することが自治体の役目である。もし、個人の成果ではなく、年次に給与を連動させることによって、組織の成果を最大化できるというのであれば、それは考え方の一つとしておかしくないとは思う。しかしながら、私はそれを論証できるような根拠は乏しいと感じている。むしろ、旧態依然とした制度は自治体における職員のモチベーション、そして、今後見込まれる採用環境の激化から鑑みると、自治体組織全体の成果を抑える仕組みに加担するのではないかと思う。

 これから先、組織の人事制度の優劣によって優秀な人材が採れる自治体と、そうでない自治体に二極化する可能性は高いと考えている。それによって、組織の成果に差異が生ずることは言うまでもない。そして、もう既に成果を抑制している部分もあるに違いない。例えば、自治体において民間経験者の採用が増えて来ている昨今では、民間時代に比べて成果に対するモチベーションを削がれている方々が、多少なりとも存在すると思われる。少なくとも箕面市に起きていたのだろうから、当然、これが全国で起きていることも想像に難くない。

 さて、倉田市長は市長が動かないと人事給与制度を変えることは難しいと仰っていた。確かにこれを進めるには大きな力が必要だ。そこで思うのだが、地方議会からも人事制度の疑問を、議会を通じて自治体側へ投げかけることはできないのだろうか。労働組合という政治上のしがらみもあると思うが、全ての会派や議員が組合の支持を受けているわけではないだろう。

 給与制度の議決は地方議会でなされるものでもある。だとしたら、地方議会が積極的に在り方を考えることは決して不自然ではない。ましてや、「労働組合が納得しているならよろしい」という姿勢は、有権者から委託された議員としての責務を全うしているとは言い難い。

 全国のどこかで議員の不祥事が起こる度に、聞こえて来る議会不要論。こうしたものと決別する上でも、地方議会からも積極的な働きかけがあることが望ましいのではないか。少なくとも私には、それほどまでに重要な問題に思えるのである。選挙の際に政策を訴えたとしても、その実現には必ず行政側の実務能力が求められる。そうであるならば、地方自治体の成果を最大化する組織環境の構築のため、自治体自身はもちろん、議会が真剣に向き合うことも必要とされているのではないだろうか。

(記=加藤年紀 写真=砂庭萌 場所=SENQ霞が関)

提供:HOLG.jp

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