「あおり運転」での事故は危険運転致死傷罪になるか? (2017/11/21 JIJICO)
あおり運転による悲惨な事故の発生
近時、あおり運転や暴走・飲酒運転の結果、悲惨な事故がいくつも発生しています。しかし、加害者に対する刑罰法令の適用については、法定刑が極めて重い「危険運転致死傷罪」が適用されないこともあり、その是非を巡って議論が起こっています。そこで今回は、交通事故の罰則にはどのようなものがあるのかと、危険運転致死傷罪とはどのようなものか、を整理してみようと思います。
交通事故に対する処罰はどのようなものがあるか
交通事故で人を死傷させた場合、以前は刑法の自動車運転過失致死傷罪で処罰されていましたが、飲酒運転による悲惨な交通事故が多発したことや、交通事故の厳罰化の意見が出たことから、2001年に刑法に新たに「危険運転致死傷罪」が設けられました。
その後、刑法の危険運転致死傷罪に当たらない悪質運転も厳重に処罰すべきという意見が出されたことを受けて、運転の悪質性や危険性に応じた処罰を実現するために、2013年に「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が制定され、2014年5月20日に施行されました。
同法の主な内容は、元々刑法に規定されていた危険運転致死傷罪及び自動車運転過失致傷罪を同法に移すとともに、危険運転致死傷罪の新しい類型を定め、また無免許での事故の罰則を加重したり、いわゆる「逃げ得」の状況を許さないよう規定が整備されました。
現行法では、危険運転致死傷罪に該当した場合、被害者が死亡した場合には1年以上(一定の行為は15年以下)の有期懲役、被害者が負傷した場合には15年以下(一定の行為は12年以下)の有期懲役となります。
法律上、刑の上限が限定されていない場合には最長が20年(複数の犯罪が成立する場合には最長30年)と定められていますので、危険運転での死亡事故で他に犯罪が成立しない場合、刑の範囲は懲役1年以上20年以下、とされることになります。なお、危険運転致死罪は裁判員裁判対象事件でもあります。
他方、危険運転に当たらない交通事故(過失運転致傷)の場合の刑罰は「(1月以上)7年以下の懲役若しくは禁固又は100万円以下の罰金」とされています。
危険運転致死傷罪が適用されるのは、以下のような場合です。
- 「アルコールや薬物の影響により正常な運転が困難な状態での事故」
- 「未熟運転や制御できないほどの速度超過での事故」
- 「あおり行為・進行妨害で重大な交通の危険を生じさせる速度での事故」
- 「赤信号を喜夫とさらに無視し、重大な交通の危険を生じさせる速度での事故」
- 「通行禁止道路を進行し、重大な交通の危険を生じさせる速度での事故」
- 「アルコール等の影響で正常な運転に支障が生じるおそれがあるにもかかわらず運転した結果、正常な運転ができなくなり事故を起こした場合」
もっとも、危険運転致死傷罪については「故意犯」とされています。すなわち運転者が前述した危険運転となる行為を行っていることを認識しながら運転することが要件となります。あおり運転を例に取ると、運転者に「人又は車の通行を妨害する目的」があることや「重大な交通の危険を生じさせる速度であること」の認識が必要になります。あおり運転の場合には比較的故意も認められやすいと思われますが、それでも全てのあおり運転での事故が危険運転致死傷罪になる、というわけではありません。この点が壁になって悪質運転での事故を危険運転致死傷罪で立件できない、ということも指摘されています。
刑罰の適用範囲は無制限に広がるべきではなく法改正の検討が必要
しかし、弁護士の立場としては被害者の心情は十分理解できるものの、刑罰法規の解釈適用は謙抑的であるべきという法の原則からは、厳罰の必要性のみを理由に解釈で危険運転致死傷罪の適用範囲を広げることには抵抗を感じます。危険運転致死傷罪の適用範囲が狭すぎるという点についてはこれまでも何度も指摘されていますが、重い刑罰を科す以上、適用範囲が無制限に広がることを防ぐ必要があることは否定できません。
危険運転致死傷罪の適用にハードルがある点については、処罰範囲が無限定に拡大することを回避しつつ、適正に適用することができるよう、法改正を含めた検討が必要な分野である、と考えます。
なお、近時高速道路上であおり行為を行ったあと、車を止めて因縁をつけていた際に後続車が追突した死亡事故について、危険運転致死傷罪での起訴がなされたとの報道があります。現在裁判が係属中ですので、危険運転致死罪での起訴の是非について述べることはできませんが、危険運転(あおり行為)と事故の発生に直接的な関係が無い場合でも危険運転致死罪が成立するのか、裁判所の判断が注目されます。
- 著者プロフィール
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半田 望/弁護士
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