東京地裁が未払い給与1億円支払命令、解雇無効について (2017/10/17 企業法務ナビ)
はじめに
プレデンシャル生命保険(東京)に懲戒解雇されていた男性社員が処分を不服として未払賃金支払いなどを求めていた訴訟で東京地裁は13日、解雇は無効であるとして約1億240万円の支払いを命じていました。今回は懲戒解雇が無効となる場合について見ていきたいと思います。
事案の概要
報道などによりますと、プレデンシャル生命保険の元男性社員は顧客への勧誘に際して事実に反する説明をしていたとして平成25年6月に業務停止3日の懲戒処分を受けておりました。しかし男性社員はこれに従わなかったため、同社は翌26年11月に懲戒解雇としました。男性はこれを不服として未払い賃金の支払いなどを求めて東京地裁に提訴しておりました。
懲戒解雇と普通解雇
解雇にもいくつか種類があり、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇などがあります。普通解雇は成績不良、適格性欠如などを理由とする解雇を言います。これに対して懲戒解雇は一種の懲戒処分であり制裁としての意味合いがあります。それ故に両者には解雇の要件や有効性、法律の規定などに違いがあります。その点を踏まえて以下具体的に見ていきます。
普通解雇の場合
労働契約法16条によりますと、「解雇は、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効とする。」としています。つまり解雇に「合理的理由」と「社会的相当性」が求められるということです。合理的理由としては、労働能力・適格性の喪失・欠如、規律違反や非違行為、経営上の必要性などが挙げられます。社会的相当性とは解雇理由があったとしても解雇が社会的に見て適当であるかということです。
この点が問題となった事例として放送局のアナウンサーが寝過ごして放送に穴を開けたことを理由に解雇された事例で、本人に故意が無いこと、空白時間の短さ、謝意の表明、起こす担当者も寝過ごしていたがその者への処分が軽いこと、会社側の事故防止措置の不備、過去に事故歴がないことなどを考慮して、解雇は過酷すぎており社会的相当性が無いとしました(最判昭和52年1月31日)。
懲戒解雇の場合
懲戒解雇は懲戒処分の一種であり、その中で最も重いものに当たります。労働契約法15条によりますと、懲戒処分は「労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当」なものでなければ権利濫用として無効となるとしています。上記16条の解雇権濫用とほぼ同じ内容です。そして判例は懲戒処分を「企業秩序違反行為」に対して課す制裁としております(最判平成8年9月26日)。すなわち「企業の円滑な運営に支障を来す」場合に懲戒処分が可能ということです。
懲戒処分は制裁であることから、どのような場合に懲戒となるのかを予め示す等の手続きが必要となります。具体的には(1)就業規則に懲戒事由が規定されていること、(2)懲戒事由に該当すること、(3)そして懲戒権の濫用に当たらないことになります。就業規則では合理的な内容の労働条件とその周知が求められ(7条)、制裁についてもそこに定めることがもとめられます(89条9号)。社会的相当性についても上記解雇権濫用の場合と同様に判例は諸般の事情を総合的に考慮して相当性を判断していると思われます(最判平成27年2月26日海遊館事件等)。
コメント
本件でプレデンシャルは顧客に対する不実告知を理由に業務停止3日の懲戒処分をしております。勧誘に際して不実の説明をするという行為とそれに対する業務停止3日という処分内容から、これ自体は懲戒処分として相当と思われます。しかしそれに従わなかったことを理由とする懲戒解雇については、東京地裁は「業務停止処分に服さないことで会社側に見過ごせない損害が発生したとは認められず相当性を欠く」として解雇を無効としました。
停職3日の懲戒処分に従わないことで会社の円滑な運営にどの程度の支障を来すのかという点と、それに対して解雇という最も重い処分を課すことが適当であるかという点から考慮してこのような結論に達したのではないかと考えられます。
以上のように普通解雇と懲戒解雇はその法的性質自体は異なるものの、その有効性とその判断過程は基本的に同じものと言えます。また懲戒解雇としては無効でも普通解雇としては有効との反論が訴訟でたびたびなされることがありますが、裁判例では原則認められておりません。社員に懲戒事由が発生した場合には、問題の種類や程度、勤務態度、会社に与える影響などを考慮して過剰な処分とならないよう注意することが重要と言えるでしょう。
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