入れ墨(タトゥー)は医師免許が必要な行為? (2017/10/12 JIJICO)
医師免許なく客に入れ墨、有罪判決へ
大阪地裁は、今年9月、医師免許がない者が客に入れ墨(タトゥー)を入れたとして、医師法17条違反により罰金15万円の有罪判決を言い渡しました。これまでも医師免許なく入れ墨を入れた者が検挙される事例はありましたが、多くは罰金の略式命令により処理されており、正式裁判として争われたはじめての事案ではないかと思われます。
裁判では、入れ墨で針を皮膚に突き刺す行為は、細菌やウイルス感染のリスクなど保健衛生上の危害が生じる恐れがあり、医行為に当たると判断され、冒頭の判決となりました。
入れ墨(タトゥー)は、文化や芸術としての保護はハードルが高い
今後、入れ墨、タトゥーを推進する団体などは、法律により特別に施術が認められているはり師、きゅう師なども参考に、免許制、資格制などによる施術の存続を訴えていく可能性もありますが、入れ墨には、健康増進効果などがあるわけではありません。
社会的にも、入れ墨がある人には温泉やゴルフ場などの施設への入場規制がなされたり、未成年者に対する入れ墨は青少年保護育成条例などで処罰の対象となっています。そうした中で、入れ墨の文化や芸術的価値を主張していくとしても、立法により特別の保護を受けるためのハードルは低くないものと思われます。
入れ墨(タトゥー)以外にも、何が医行為にあたるかどうかは曖昧
今回のように、医師免許なく行われた行為が医師法にいう「医行為」に当たるかどうかが争われた事案は、これまでにもありました。コンタクトレンズの処方のための検眼やテストレンズの着脱、あるいはエステサロンで行われるレーザー脱毛などが、医師が行うべき医行為であると裁判所は判断しています。
厚労省は、平成13年に医事課長通達をだしています。そこでは、レーザー脱毛とともに入れ墨(針先に色素を付けながら、皮膚の表面に墨等の色素を入れる行為、と表現)も、医師が行うのでなければ保健衛生上危害を生ずるおそれのある行為とし、医師免許がない者が施術すれば医師法第17条違反、悪質な事案では刑事告発も検討すべきとしていました。
今回の事案の摘発もこの通達に沿ったもので、裁判所が平成13年の行政通達を追認した形となります。
ある施術行為が医行為に当たるかの境界は実際には必ずしも明瞭ではありません。そのこともあって、しばしば医師法17条違反の問題は、憲法上の職業選択の自由や表現の自由などとの関係でも議論されます。何が医師法違反に当たる行為なのかが不明瞭だと、市民の表現の自由などを萎縮させてしまう懸念があるからです。
この点、厚労省は、平成17年の通知で、原則として医行為ではないと考えられるものを列挙しました。具体的には、体温・血圧の測定や、爪切り、歯磨き、耳掃除などが示されていますが、かなり安全側に寄った判断であり、結局はグレーゾーンの行為については裁判例の蓄積を待つほかなさそうです。
- 著者プロフィール
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永野 海/弁護士
多様な事件の相談に親身に応じる弁護士のプロ
行政事件、知的財産事件、会社更生事件から医療過誤事件(患者側)まで、比較的専門性の高い分野も含めて幅広い分野の経験があります。
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