赤ちゃんポスト10年 問われる匿名性の是非 (2017/5/25 JIJICO)
赤ちゃんポスト10年 その実態について
親が育てられない子どもを匿名で受け入れる「こうのとりのゆりかご」いわゆる「赤ちゃんポスト」を熊本市の民間病院が設けてから、10年になります。これまでに預けられた125人のうち、20人を超える子どもは、今も本当の親が誰かわからないままとなっています。
赤ちゃんポストは、親が育てられない子どもの命を守るという点では、一定の役割を果たしてきました。
赤ちゃんポストでは、病院脇の専用の通路の先に小さな扉があり、その中に保育器が置かれていて、子どもが預け入れられるとブザーが鳴り、看護師が子どもを保護するというシステムになっています。預けられた子どもは、児童相談所を通じて、乳児院などの施設に保護され、その後、児童養護施設や里親などに引き取られて、育てられます。
親が預け入れをする理由としては、「困窮」「未婚」などの望まない妊娠の場合が多いとされています。
「匿名でなければ守れない命もある」として「匿名性」を維持するのが、病院側の立場です。一方、開設から10年が経過し、初期に預けられた子どもたちが、思春期を迎える時期となりました。成長した彼らに、出自を知る権利をいかにして保障するかという問題が生じています。
出自を知る権利とは
自分がどのように生まれてきたのか、自分の親は誰なのかを知る権利を、「出自を知る権利」といいます。人が、人格を形成していく上での基礎となるのが、遺伝的ルーツです。それを知りたいというのは、人間の根源的な欲求です。そのため、出自を知る権利は、幸福追求権のひとつとして、憲法上保障された基本的人権であると考えられています。また、子どもの権利条約でも、すべての子どもに対して保障している権利です。
匿名性によって子どもの命を守ることと、預けられた子どもが、出自を知る権利を確保することの調整が必要となっています。
子どもの基本的人権を保証するためにも法的整備をすべき
赤ちゃんポストを開設した病院が参考にしたのはドイツのシステムでした。ドイツでは、2014年に、「内密出産法」が施行され、相談機関に実名を届け出ることとして、医療機関では匿名のまま出産ができることになっています。そして、子どもが16歳になったときに、希望すれば(一定の例外はありますが)、実名を知らせる制度となっているということです。
残念ながら、日本政府は、設置当初の07年(安倍第1次政権)から、赤ちゃんポストの存在自体を認めていません。実態を把握し、基本的人権を保障するためにも、法的整備をすべき時期にあると思います。
- 著者プロフィール
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中村 伸子/弁護士
あおぞら法律事務所
1995年、福岡で弁護士登録。以来、子育てをしながら、数多くの離婚や成年後見、遺産分割などの問題に携わる。弁護士業務の傍ら、2011年からは家庭裁判所の家事調停官(パートタイム裁判官と)して週1回執務。高い専門性を持って、多くの家族に関わる事件を担当している。
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