「保育園落ちた」は死活問題―シングルマザーの生きづらさは社会構造にあり (2017/3/3 Single Parent 101代表 田中志保)
子どものいる全世帯のおよそ1割が母子世帯
先月発表された平成27年国民生活基礎調査結果によると、全国の世帯総数は5036万1千世帯で、児童のいる世帯は1181万7千世帯。そのうち、母子のみで暮らす世帯は79万3千世帯で、児童のいる世帯の約7%にあたります。
実家で暮らす等、母子以外に他の同居者がいる世帯を含めた母子世帯も合わせると全体の母子世帯は123.8万世帯(平成23年度母子世帯等調査結果)で、児童のいる世帯のおよそ10%が母子世帯であるということがわかります。母子世帯には未婚、死別、離婚とありますが、母子世帯の8割が離婚によるものです。
私たちにとって、シングルマザーは身近ですが、子連れ離婚を選んだ当事者の実態を知る人は少ないのではないでしょうか。
当事者でもある筆者が2014年1月から1年かけて静岡県中部地区に住む30代・40代の離婚したシングルマザー26人に聞き取り調査を行いました。結果の一部を紹介します。
子連れ離婚の実態(1)原因は経済問題が絡んだ複合的なものが半数以上
離婚の原因について尋ねたところ、半数以上が「必要な生活費を渡さない」や「借金」等の「経済問題」を原因に挙げ、その中で、同時に半数以上が「暴力もあった」と回答し、さらにその半数が「浮気もあった」と回答。
また、「暴力(精神的・肉体的)」と回答した全員も、浮気や経済問題などほかの原因を2つ以上挙げており、離婚の原因は1つではなく、様々なものが絡み合っています。
子連れ離婚の実態(2)子どもへの悪影響を避けるために離婚を決意
子どもがいる中で離婚の決断をすることはそう簡単ではありません。「こんな状況はもう耐えられない。別れたい」という気持ちと「私が頑張ればなんとかなるかもしれない。やっぱり頑張ろう」という対極にある気持ちを行きつ戻りつして結婚生活を続ける中で、継続しかねる決定的な出来事が起こり、離婚を決意します。3割が結婚5~6年目で離婚を決意し、4割弱が「子どもへの悪影響を避けるために離婚を決意した」と回答しています。
子連れ離婚の実態(3)離婚成立まで数年かかる場合もある
離婚を決意すると、ほとんどの人が実家に戻ります。手持ちのお金がなくても雨風を凌げ、食べ物に困らず、子どもの面倒を見てくれる実家は最高のセイフティネットだからです。
離婚調停を起こすための準備をしたり、就職活動をしたり、子どもの保育園申込み準備をしたり、新生活の基盤作りを同時進行で進めていきます。離婚を決意してから離婚成立までの期間は離婚の形態によってばらつきがありますが、協議での離婚成立が見込めない場合は長期戦になる場合が少なくありません。
「協議」で最も多い回答が3カ月未満、「調停」で最も多い回答が4カ月から6カ月、「裁判」になると1年半から3年と時間がかかっています。一定の収入以下のひとり親世帯が受給できる児童扶養手当は、婚姻中の場合でも「裁判所からのDV保護命令が出ている」等、要件に該当すれば受給できますが、基本的には離婚成立後でないと受給できません。
また、離婚成立前に利用できる「ひとり親家庭(母子家庭と父子家庭の総称)相談窓口」を設置していない地方自治体も多く、地方自治体による離婚成立前の支援がほとんどないため、この時期に実家や親せき、友人等、頼れる人がいて、安心できる場所があるかどうかが離婚前後のシングルマザーの未来を左右する重要な要素になります。
子連れ離婚の実態(4)結婚前からの就業率は1割以下、5割が離婚後に再就職
聞き取り調査の結果、就業率は95%でしたが、そのうち結婚前から出産を経て同じ職場で働いている人は1割以下。出産を機に仕事をやめてしまった人が多く、5割が離婚後に違う職場で仕事を始めていました。
また就業形態別に就業年収を見ると、離婚後に非正規雇用で仕事を始めた人の最低就業年収は110万円、離婚前から正規雇用で働いている人の最低就業年収は250万円で、140万円もの差がありました。
学歴や能力、経験といった個人差があるとはいえ、結婚や出産でいったんキャリアを中断した30代、40代の女性が正規雇用を目指すのはそう簡単ではありません。業種によって正規雇用への道が開かれているところもありますが、正規雇用は金銭的には安定をもたらす一方で、時間の融通が利かない長時間労働のリスクがあります。そのため、子どものことを考え、敢えて正規雇用ではなく、非正規雇用を選ぶ人も少なくありません。
子連れ離婚の実態(5)シングルマザーの子どもも待機児童
「相談したくても窓口がなくて困ったこと」を聞いたところ、ワースト1は「保育園に入れなかった」という結果でした。優先されると思われるシングルマザーでも保育園に空きがなければ入れてもらえません。
入園できるまで実家に頼ることができればよいですが、頼れない場合は少ない収入や手持ちのお金から高い認可外保育園や保育園の一時保育を利用するか、回数制限のある自治体のひとり親支援サービスを利用してやりくりするしかありません。シングルマザーにとって「保育園落ちた」は死活問題です。
実態調査から見えてきた「子育て世代の働く女性」に厳しい社会構造
筆者が行った聞き取り調査は静岡県中部地区に住む30代・40代の離婚したシングルマザー26人で、「これがシングルマザーのすべて」とはいえません。しかし、個人へのインタビューを重ねるたび見えてきたものは「男性は仕事、女性は家事・育児・介護などの家庭内でのケア役割を期待される社会構造」でした。
男女間にいまだ根強い給与格差が際立ち、厚生労働省が発表した平成27年賃金構造基本統計調査によると、男性の給与を100とすると、女性は70.9しかもらえていません。
さらに子育て世代の男女給与格差がひどく、2012年のOECD(“Closing the Gender Gap: Act Now”)の報告書によれば日本の25歳から44歳の子どもがいる女性の給与が、同世代の男性よりも61%低いのです。これはOECD諸国の中でワースト1です。
平成27年分民間給与実態統計調査を見ても、男性の給与は順調に上がり50歳~54歳でピークを迎えますが、女性の給与は25歳~54歳まで、ほぼ横ばいです。
これらのデータと私の聞き取り調査の結果から、日本は子育て世代の働く女性に厳しい社会構造であることがわかります。
女性は、仕事を辞めて家事・育児・介護など家庭内のケアに携わることが当たり前のこととされてきた歴史があり、今もそのような考えが根強くあります。少し前、単身男性による親の介護離職がマスコミに取り上げられ、介護離職後の再就職は厳しく、貧困問題に繋がるケースが少なくないと社会問題になりました。これを自己責任と見るか、社会構造の問題と見るかで、その人の困難さの見え方がだいぶ変わります。
最近、共働き夫婦のワーキングマザーが、長時間労働や単身赴任等で夫が不在になることで、家事も育児も一人でこなさなくてはならない状況を「ワンオペ育児」と呼び、社会問題になっています。
育児、家事、仕事を一人で担っているシングルマザーはまさに「ワンオペ育児」であり、「給与を低く設定され、家事・育児・介護など家庭内のケアに携わることが当たり前とされている「女性」が育児と家事を負担する」状況は全く同じです。
シングルマザーの方が男性1人分の収入がない分、負担や困難さのハードルが高く、生きづらさが際立つのです(もちろんシングルファザーの生きづらさもありますが、それはまた別の機会に。。。)
現在の社会構造はいまだ女性に厳しいと言わざるをえません。
離婚がありふれた時代になっているのに、男女の賃金格差はこのままの状況でいいのでしょうか。政府や産業界の対策が急務です。
女性躍進のためには、シングルマザーが安心して子どもを育てられる社会、つまり、家事、育児の負担を性別役割分業によるものから脱却させる社会を、みんなが自分ごととしてとらえ、転換していかなければいけないと考えています。
- 著者プロフィール
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田中志保 /Single Parent 101代表
「ひとり親家庭でも安心して暮らせる社会を作る」をミッションに2014年1月から活動開始。 離婚前後のシングルマザーへの聞き取り調査、食糧提供を中心に、離婚前後のシングルマザーとその子どもの居場所づくり、性別にとらわれない生き方の多様化推進を行っている。「プレシングルマザーヒントBOOK 私たちの選択と決断~離婚、子どもと漕ぎ出す新たな未来~」著(■第一刷2015年9月25日発行■第二刷2015年11月1日発行■A5版45ページ■定価500円(税込)※送料別)
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