天皇陛下、18年中に退位へ 公務すべて新天皇に (2017/4/27 JIJICO)
なぜ天皇の生前退位が問題になったのか?
天皇の生前退位を認める特例法案が政府により平成29年5月中にも提出されることとなり、この法案が成立すれば、平成30年中に生前退位が実現する見通しとなりました。そもそも天皇の生前退位はどうして問題となっていたのでしょうか。
日本国憲法では、明治憲法下での天皇主権を廃して人類普遍の原理たる国民主権を採択し、「国政に関する権能を有しない。」(憲法第4条1項)と定めて天皇の政治的無色を謳う一方で、天皇を「日本国民の象徴であり日本国民統合の象徴」と位置付け(憲法第1条)、皇位承継についても「世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを承継する。」(憲法第2条)と定めています。
「皇室典範」も法律の一つに過ぎませんが、その皇室典範の中で「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを承継する。」(皇室典範第1条)、「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。」(同第4条)と定められていて、あくまでも天皇が亡くなったときに皇位承継が行われることを規定するのみで、天皇の生前退位を認める規定は存在しておりません。
しかも、憲法第5条が「皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行う。…」と定めているのを受けて、皇室典範第16条1項が「天皇が成年に達しないときは、摂政を置く。」と、同条2項が「天皇が、精神若しくは身体の重患又は重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、摂政を置く。」と定めていることも合わせて考えますと、皇室典範自体が天皇の生前退位を認めていないと考えた方が筋が通ります。
憲法の他の条文が、「法律の定めるところにより」と規定しているのと比較して、憲法2条がわざわざ「皇室典範の定めるところにより」と法律名を明示していることを重視するわけです。
この考え方によれば、皇室典範を改正することなく、特例法によって天皇の生前退位を認めることは、憲法2条に反するものとして違憲ということになります。
皇室典範の改正の議論は並行して進めておくべき
違憲の疑いがあるにもかかわらず、政府が皇室典範の改正という形で対応しないのはなぜなのでしょうか。
議論が開始された当初は、天皇のお気持表明をきっかけとして皇室典範を改正するとなると、天皇が政治に介入したことになり、政治的無色の立場と矛盾するといった懸念もあったようですが、最近では、皇室典範の改正では、生前退位を一代限りではなく恒久的に認めざるを得なくなり、生前退位は政情を不安定にしてきたという歴史的経緯をどう克服するのか、生前退位の要件をどのように定めるのかを巡って議論が長期化しかねず、高齢の天皇に対し継続的に公務の負担を強いる結果となりかねないと判断したからであるともいわれています。
しかしながら、今になってこのような問題が浮上したのは、政治家を含めた我々国民が、これまでは天皇に対しては粛々と公務をこなし、国民統合の象徴という役割を果たすのを期待するばかりで、天皇ご自身も同じ人間であるということから目をそらしてきた結果ですし、生前退位が政情を不安定にしてきたというのも天皇主権時代の話でしょうから、同じ轍を踏まないためにも、皇室典範改正の議論自体は並行して進めておくべきだと考えます。
- 著者プロフィール
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田沢 剛/弁護士
東京大学法学部卒業、同年司法試験に合格。2年間の司法修習を経て、裁判官に。名古屋、広島、横浜などの裁判所で8年間裁判官を務め、退官。裁判官として、一般民事、行政、知的財産権、刑事、少年、強制執行、倒産処理などの事件を担当。2002年に相模原市で弁護士事務所を開業。2005年に新横浜にオフィスを移転し、新横浜アーバン・クリエイト法律事務所を開設。現在に至る。オールラウンドに案件を扱うが、なかでも破産管財人として倒産処理にあたるなど、経営問題に辣腕を振るう。
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