天皇陛下生前退位の論点は? (2016/7/22 JIJICO)
皇室典範では天皇の生前退位は認められていない
天皇陛下が生前退位の意向を示されているとの報道がなされました。宮内庁は、そのような事実関係を否定されていますが、そもそも天皇の生前退位は認められているのでしょうか。
日本国憲法では、明治憲法下での天皇主権を廃して人類普遍の原理たる国民主権を採択し、「国政に関する権能を有しない。」(憲法第4条1項)と定めて天皇の政治的無色を謳う一方で、天皇を「日本国民の象徴であり日本国民統合の象徴」と位置付け(憲法第1条)、皇位承継についても「世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを承継する。」(憲法第2条)と定めています。
「皇室典範」といった厳つい名称から、法律とは異質のものと思われがちですが、明治時代の名称を引き継いだだけで、法律の一つに過ぎません。
その中では、「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを承継する。」(皇室典範第1条)、「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。」(同第4条)と定められていて、あくまでも天皇が亡くなったときに皇位承継が行われることを規定するのみで、天皇の生前退位を認める規定は存在しておりません。
しかも、憲法第5条が「皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行うふ。…」と定めているのを受けて、皇室典範第16条1項が「天皇が成年に達しないときは、摂政を置く。」と、同条2項が「天皇が、精神若しくは身体の重患又は重大な事故により、国事に関する行為をみずからすることができないときは、皇室会議の議により、摂政を置く。」と定めていることも合わせて考えますと、皇室典範自体が天皇の生前退位を認めていないと考えた方が筋が通ります。
皇室典範において天皇の生前退位を認めない旨が明示的に規定されていない以上、許容されるのではないかと考えてしまうと、今度は「国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを承継する。」と定めた憲法第2条との整合性に疑問が出てきます。
天皇主権を廃して国民主権を採択し、天皇に象徴としての地位しか認めない以上、国会の議決により定められた法律たる皇室典範に明示的に定めていない皇位承継のあり方を認めるというのでは、わざわざ憲法第2条を定めた意味が失われるからです。
天皇の生前退位を認めるためには皇室典範改正が必要
結局のところ、天皇の生前退位を認めるためには、皇室典範を改正する必要があるということになりますが、天皇が「生前退位の意向を示したこと」を発端として皇室典範を改正するとなると、天皇が政治に介入したことになり、政治的無色の立場と矛盾するといった懸念もあるようです。
しかしながら、国会で慎重に議論がなされた上で皇室典範を改正するというのであれば、あえて天皇が政治に介入したとまで言わなくてもよいのではないでしょうか。
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