2017年に発生する景気後退に備えて ニュースフィア 2017年2月9日
2017年以降の見通しとしては、米国経済が再び景気後退を迎えると考えている。
確かに、現時点での経済情勢は非常に良好に見える。ダウ・ジョーンズ平均株価指数とS&P500は過去最高の水準に達しているし、失業率が労働人口の5%を大きく下回っていて、しかもドル高でインフレもうまく抑制されている。
米国経済は長きにわたり、劇的に成長しており、GDPは21世紀初頭からインフレ調整後も3分の1伸びている。
しかしながら、資本主義経済というものは単純に大きく順調に成長するのではなく、景気後退によってその長期的な成長が定期的に阻まれる。
過去1世紀半の景気の浮き沈みの全記録を見れば、米国経済は33回の景気後退を経験してきた。つまり、5年に1回の割合で景気後退が発生しているということなのだ。
現在の景気拡大は5年間をはるかに超えて続いている。米国経済がいわゆるGreat Recession(大不況)を脱却したのは約7年半前の2009年6月だった。したがって、今日、多くの指標が非常に良好な状況を指し示しているとは言え、歴史の教訓に従うならば、再び景気後退が発生することが予想される。
この予想が正しいのであれば、今こそが景気後退の初歩を学び、不況への準備を整えるべき時期だと言えよう。
◆誰が不況だと宣言するのか
米国の景気動向の転換点を判定(不況の開始と終了)するのは、NBER(全米経済研究所)という無党派の組織だ。現在9人の教授で構成されているNBER内の小委員会が、一般的には不況期に入ったと思われる時期から数ヵ月後にはじめて不況期の判定を下す。
景気後退を判断する際に、ジャーナリストなどは一般的な経験則として2四半期連続のGDPマイナス成長といった点を考慮するが、同委員会はそれを指針としてはいない。これは、米国政府が頻繁にGDPの数値を変えることが一つの理由として挙げられる。絶えず変動する数値に基づいてその国が不況にあるかどうかを判断することは賢明な方法とは言えない。
そのため、同委員会は雇用、所得、工業生産、小売販売など、GDP以外の多くの要因も考慮に入れて判断する。
◆長期的な経済拡大
米国の経済史上、10年以上にわたる経済の拡大は発生した試しがない。
現在の好況は記録上4番目に長い好況であり、1850年代以来となる。
ジョン・グレンが地球周回軌道を飛行して以来、より長期的な好況が3回発生している。3番目に長い好況は1982年に始まり、その後8年近く続いた。2番目に長い好況は1961年に始まり、その後9年近く続いた。米国が経験した最長の好況時期は、1991年から2001年まで10年間続いた、いわゆるドットコムバブルだ。
つまり、現在の成長期は史上特別なものとして経済史に残る事象だということだ。後わずか数ヵ月続けば、1982年の好況時期を追い越し、米国史上3番目の経済拡大期となる。
◆好況の持続期間
経済拡大が終わる理由は誰にも分からない。それは、2008年後半に発生したリーマン・ブラザーズの破綻のような突発的な事象が引き金となることも、単に一般的な不安が起因となることもあろう。
経済学者のハイマン・ミンスキーらが主張する経済理論では、経済拡大が続く期間が長期に及ぶほど不況が発生やすくなると説かれている。
経済拡大の期間の長さは非常に重要だ。これは、銀行が経時的に融資基準を下げるためで、非常に長期的な経済拡大が終焉に近づく頃には、銀行や金融機関は過度に楽観的になっており、ほとんど相手構わず貸し出しを行うようになっている。現在、米国の自動車ローン業界にこの種の貸し出し現象が見られる。
ミンスキー・モデルでは、経済は椅子取りゲームのようなものであると説いている。音楽が奏でられている間は誰もが楽しい時間を過ごすが、演奏が止まって全員が同時に椅子に座らなければならないときがくると、ムードは一変する。突然、幸福ムードがパニック状態に変わる。経済も同様であり、一瞬にして好況から不況へと変わるというわけである。
経済拡大が停止する理由が何であれ、米国において過去に好況が10年間以上継続した例がないという事実は、現在の好況もそれほど長く続くはずがないことを予示している。
◆何をすべきか
個人には不況を食い止める力はない。しかし、計画を立てることで、景気後退が個人とその家族に与え得る影響を緩和することができるだろう。
現在、ほとんどの人々が好況の時代を満喫しているが、この状況が永遠に続くことはない。そのため、今こそ貯蓄することが大切なのだ。今残っているクレジットカードの債務やその他のローンは完済しておき、不況が到来したときのために、金銭的蓄えを用意しておく必要がある。
必要な貯蓄量は、それぞれのリスク許容度によって異なる。過去1世紀半の間に発生した典型的な景気後退は、1年半未満で終結していることがひとつの指針となる。
ただし、不況は時計のように規則正しいものではなく、データでは経済の拡大時間の明確なパターンを把握することはできない。しかし、1850年代以降、現在よりも大きな好況を経験したのはわずか3回しかない。このため、現在の経済拡大が永遠に続くことを過信するのは賢明とは言えない。
したがって、これから到来する景気後退を少しでも緩和できるよう今すぐ計画を立てよう。もし筆者のこの推論が間違っていたとしても、その結果としてもたらされるのは負債の減少と貯蓄の増加だけなのだから、良いことずくめではないか。