ダイハツがトヨタの完全子会社に、株式交換について (2016/7/6 企業法務ナビ)
はじめに
ダイハツ工業は6月29日の株主総会で、株式交換により筆頭株主であるトヨタ自動車の100%子会社となることを提案し、承認可決されました。現在東証一部上場のダイハツは7月27日に上場廃止となり、8月1日付でトヨタの完全子会社となる見通しです。今回は組織再編方法の一つである株式交換について見ていきます。
事案の概要
ダイハツは1967年からトヨタと業務提携し、共同開発やOEMを通じてトヨタの小型車開発の重要な役割を担ってきました。トヨタは98年には出資比率を51.2%にまで引き上げていましたが、トヨタの小型車開発を進める上でダイハツとの協力範囲を更に拡大することを目的として100%子会社化することを今年1月末に発表しました。ダイハツ株1株につきトヨタ株0.26株を割り当てる株式交換により行われます。今後はダイハツがトヨタの小型車開発の中心を担い新興国向け小型車開発を目指していきます。一方トヨタのハイブリッド技術等もダイハツに提供されることとなり競争力向上への相乗効果を狙います。
株式交換とは
株式交換とは、株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社または合同会社に取得させることを言います(会社法2条31号)。既存の株式会社の株主が有する全ての株式を他の会社に強制的に移転することによって完全親子会社関係を創設するための制度です。煩雑な手続を経ることなく持株会社化し組織再編を容易に行うことを目的とした制度です。合併と違い会社が消滅したりすることはなく、会社財産が移転することもありません。ただ株主が変動するだけとなります。似た制度として株式移転がありますが、株式移転の場合は新たに完全親会社を新設し既存の完全子会社となる会社の全株式を移転することになります。
株式交換の手続
(1)株式交換契約締結
株式交換を行うにはまず当事会社間で株式交換契約を締結します(767条)。株式交換契約では①当事会社の商号・住所②対価に関する事項③対価の割当に関する事項④新株予約権の交付に関する事項⑤効力発生日等を定めることになります(768条1項各号)。株式交換契約は取締役会設置会社では取締役会の承認を得て締結することになります。
(2)事前開示
各当事会社は備置開始日から株式交換効力発生日後6ヶ月経過する日まで株式交換契約及び法務省令で定める事項を記載した書面を本店に備え置き開示することになります(782条)。法務省令で定める事項とは①対価の相当性②対価について参考となるべき事項③新株予約権の相当性④計算書類・財産状況に関する事項⑤債務履行見込み等を言います(施行規則184条、206条)。
(3)株主総会の承認
各当事会社は効力発生日の前日までに株主総会特別決議による承認を得る必要があります(783条1項、795条)。ここで反対する株主には公正な価格で株式を買い取ることを請求することが認められております(785条、797条)。
(4)債権者保護手続
他の合併や分割と違い株式交換では原則として債権者意義手続は必要としません。上記の通り株式交換は株主が入れ替わるだけで権利義務の承継が無いからです。例外的に完全子会社が新株予約権付社債を発行している場合、株式交換契約によって完全親会社に新株予約権が承継され、完全親会社株が交付されることになる場合には社債権者への異議手続を要します(789条1項3号)。社債権者から見れば債務者が親会社に交代することになるからです。また完全親会社が交付する対価が完全親会社株以外の場合にも要します(799条1項3号)。株式以外の財産を交付することによって親会社の財産状況が悪化するおそれがあるからです。
(5)事後開示と登記
株式交換の効力発生後遅滞なく完全親会社が取得した株式数その他法務省令で定める事項を記載した書面を備置き、6ヶ月間開示することになります(791条)。株式交換では吸収合併や吸収分割等と違い基本的に登記は不要です。株主が変更されるだけであり、解散や資本金、発行済株式数に変動は基本的に無いからです。例外的にこれらに変動が生じたり新株予約権が消滅する場合のみ登記を要します。
コメント
株式交換の手続は上記のとおりとなります。完全子会社の株主に対して交付する対価については旧商法時代は完全親会社株に限定されておりましたが、現行会社法では親会社株式以外には現金や新株予約権、社債等でもよく対価の柔軟化が図られております。また株主総会による承認決議についても、交付する対価が純資産の20%以下の場合は親会社側での承認決議は不要です(簡易組織再編手続796条3項)。また親会社側が子会社側の議決権の90%以上を保有している場合には子会社側での承認決議が不要です(略式組織再編手続784条1項、796条1項)。
本件でトヨタはダイハツ株を51.2%保有していたので略式手続による承認の省略は出来ませんでした。このように株式交換等の組織再編は手続の容易化が進んでおり、柔軟で迅速なグループ再編が可能となってきております。しかし一方で反対株主による株式買取請求がなされた場合の公正な価格の算定等、複雑な面も残っております。株式交換による相乗効果等も考慮して算定することになります。株式交換を行う際には、簡易・略式手続が可能かという点と公正な価格の算定について注意が必要と言えるでしょう。
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