最低賃金を下回る東京大阪の中小企業が増加!そのワケは? (2017/1/10 JIJICO)
アベノミクス効果が見られない中小企業の賃金水準
先日、新聞報道で、中小企業の労働と賃金の状況が発表になりました(2016年12月19日毎日新聞)。焦点となったのは、最低賃金との関係です。日本企業の特徴として、小規模ほど賃金水準が低くなる傾向にあることは従前より言われていました。しかし、賃金水準が低いことと最低賃金との関係は視点を変えてみなければいけません。
最低賃金とは、人としての最低限度の生活を維持するとの趣旨から、毎年、最低賃金審議会の審議を経て決定されるものです。同様の趣旨の制度に生活保護の受給があり、よく比較されます。政府の発表では、アベノミクスにより賃金水準が上昇したとの分析結果が公表されているところです。
しかし、中小企業の現場からは、「少なくとも中小企業にはあてはまらない」との声も多く聞かれています。単に賃金水準が低いだけであるならば、就労者募集において企業がハンデを負う問題、労働者の満足度に抵触する問題などとの関係で影響すると考えればいいと思います。しかし、最低賃金に達していない水準は、法的問題となるだけに、いかなる理由があっても許されない問題となります。
東京大阪の中小企業 最低賃金未満が5%超に
毎日新聞では、厚生労働省と労働局に対し情報開示請求をして判明した、2016年の都道府県別の中小企業の状況で、最低賃金未満で労働する人の状況(未満率)まとめています。データは、厚労省が毎年6-7月に30人未満(製造業などは100人未満、建設・運輸業は除く)の約10万事業所に賃金調査したものです。文字通り、小規模企業の実態が浮き彫りになったものです。
データによれば、未満率が5%超えたのは、大阪(5.5%)、東京(5.3%)、北海道、沖縄、三重の5都道府県です。とりわけ、東京、大阪の未満率悪化は顕著だったようです。前年比較では、大阪が1.6%、東京が3.9%も上昇しています。東京においては、10人未満の事業所のみみると未満率7.7%です。
最低賃金の上昇に中小企業の賃金上昇が追いついていない現状
最低賃金の毎年の上昇を考えますと、小規模企業の賃金が低下したわけではなく、最低賃金の上昇に小企業企業の賃金上昇が追いつけていないことを示していると考えられます。小規模企業の労働分配率は上昇をたどり、賃金上昇は困難な状況にあります。現実には、賃金上昇以前に社会保険の強制適用に対応できていない小規模企業が多いことも、実態を示しているものです。
もっとも、最低賃金の上昇に関して、2012年からの5年の推移をみると、12円、15円、16円、18円、25円と5年間で1時間あたり86円も上昇しています。これは、8時間労働で、23日勤務するとした場合、月15,824円、年189,888円の上昇となります。ざっくり考えてみれば、従業員数を考えると人件費上昇を吸収するためには、従業員1人当たりの粗利益が年間で35万円以上、1人当たり売上高が80万円以上の上昇が必要になるという計算です。小規模企業にとっては、この上昇幅は簡単に実現できることではないことも現状です(実際は、パートタイム労働者もいることからもう少し上昇幅は抑えられると考えられますが)。
改善は今後も困難
現在、民間求人企業の調査では、アルバイト・パートの求人時給の全国平均は1,000円前後になっています。小規模の現状の対応は、違法であることを認識しつつ、求人時給を据え置く、最低賃金チェックまでするゆとりがなく確認を怠るなどが散見されます。本稿執筆時点で、ハローワーク(公共職業安定所)は、最低賃金を下回っている求人票を調査しており、最低賃金未満であった場合、その求人票の公開を停止する措置をしています。
そもそもが、小規模企業は、最低賃金ぎりぎりでの賃金水準設定であることから、社会的な賃金上昇に追いつけない状況は、今後も改善は困難を極めると考えられます。
- 著者プロフィール
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亀岡 亜己雄/社会保険労務士
首都圏中央社労士事務所
会計人向け情報処理サービス業である(株)TKCに約11年間在籍し、財務会計、管理会計、経営シミュレーションなどの戦略的な意思決定のための業績管理システム導入のためのコンサルティング営業を担当。その後、大手経営コンサルティングファームに転職し、経営、人事制度構築、財務・経理、組織などの各種経営コンサルティング業務を担当する。1998年、社会保険労務士試験に合格し、翌年、亀岡社会保険労務士事務所を設立。また、2006年には特定社会保険労務士試験に合格し、2011年に首都圏中央社労士事務所に組織変更して現在に至る。これまで1000件以上の中小企業経営をサポートし、労働相談の経験と蓄積したノウハウを盛り込んだ労務コンサルティングを手がける。
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