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ASKAさん不起訴処分で釈放 なぜ起訴をされなかったのか? (2016/12/27 JIJICO

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刑事裁判における有罪の立証責任は検察官にある

本年11月25日に覚せい剤使用の容疑で逮捕された歌手のASKAさんが、今月19日に東京地検により不起訴処分とされ、釈放されました。嫌疑不十分が理由のようです。

男性

刑事裁判では、犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡しをしなければならないとされています(刑事訴訟法336条)。ここでいう「犯罪の証明」とは、合理的な疑いを差し挟む余地のない程度にまで立証されていることを意味します。

人は生まれながらにして基本的人権を享有し、これを保障されるものですので、国家が被告人とされた者に対し刑罰権を行使するときに間違いがあってはなりません。そこで、有罪の判決をするにあたっては、それだけの高度な立証が求められるわけです。そして、その立証責任も検察官にあります。

裁判所から合理的な疑いを差し挟む余地のない程度にまで立証されていないと判断されると、無罪を言い渡されることになり、検察官としては「敗け」になりますし、信用失墜を招きますので、検察官が被疑者を起訴して刑事裁判に持ち込む場合には、有罪判決を得られる程度の十分な証拠が集められていることが前提になります。逆に、刑事裁判で無罪判決を言い渡される可能性がある場合には、刑事裁判に持ち込みません。

ASKAさんはなぜ起訴をされなかったのか?

今回のASKAさんの件は、任意提出された尿から覚せい剤反応が出たため、ASKAさんの覚せい剤使用は間違いないと思われたところですが、覚せい剤反応が出た鑑定資料が実はお茶であるとASKAさんが弁解したため、これを覆すためには鑑定資料がASKAさんの尿であったことの証拠ないし立証が必要となります。

この点、鑑定資料が自分の尿ではなくお茶であったことの立証責任をASKAさんに負わせるようなことをすると、ASKAさんがその立証に成功しない限り有罪と判断されてしまうことになりかねず、実際に罪を犯したからではなく、立証に失敗したから有罪とされてしまうという不合理な結果を招くこととなり、基本的人権が蔑にされかねません。

そこで、検察官としては、ASKAさんの弁解が虚偽であることの立証、すなわち、任意提出された資料が実際にASKAさんの尿であったことまで立証しなければならないわけですが、捜査官が採尿の際に手元まで見ていなかったこと、鑑定の際に当該資料がASKAさんの尿であること自体の鑑定まではしていなかったこと、資料の全てを使い切ってしまって今さら検証できないことなどに照らし、刑事裁判に持ち込んだとしても、ASKAさんの弁解が虚偽であることまでの立証は困難であると判断して、起訴を断念したということだと思われます。

ASKAさんの弁解は、覚せい剤使用を疑われた人物に対し、罪を免れさせるヒントを与えてしまったのではないかという危惧もありますが、捜査機関としても、今回の事ことを肝に銘じて慎重に証拠を積み重ねることになるでしょうから、そのような危惧は、杞憂なのかも知れません。

提供:JIJICO

著者プロフィール
田沢剛

田沢 剛/弁護士
東京大学法学部卒業、同年司法試験に合格。2年間の司法修習を経て、裁判官に。名古屋、広島、横浜などの裁判所で8年間裁判官を務め、退官。裁判官として、一般民事、行政、知的財産権、刑事、少年、強制執行、倒産処理などの事件を担当。2002年に相模原市で弁護士事務所を開業。2005年に新横浜にオフィスを移転し、新横浜アーバン・クリエイト法律事務所を開設。現在に至る。オールラウンドに案件を扱うが、なかでも破産管財人として倒産処理にあたるなど、経営問題に辣腕を振るう。

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