東京五輪 都がIOCに安い金額を虚偽報告どのような罪に問われる? (2016/10/23 JIJICO)
東京都がIOCに虚偽の建設費で開催の承認を得たことが明らかに
2020年の東京五輪・パラリンピックでボート、カヌー・スプリント会場の候補とされた「海の森水上競技場」につき、東京都の資料には本体工事費251億円、総整備費491億円と明記されていたにもかかわらず、都がIOC(国際オリンピック委員会)に対し、本体工事費98億円との虚偽の建設費を伝えて開催の承認を得ていたとの報道がされています。IOCから100億円以下に抑えるように要請されたのを受けて、辻褄合わせの数字を提示したとのことです。
誰がどのような罪に問われるのか?
仮に、報道内容が真実であるとすると、誰にどのような犯罪が成立するというのでしょうか。ここでは、我が国の刑法に規定された犯罪に絞って考えてみます。
まず、騙したということですので、詐欺罪(刑法246条)が想起されるところですが、この詐欺罪は、「人を欺いて財物を交付させた」とか、「人を欺いて財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた」ことが要件となっております。
IOCを騙して獲得したのが、「五輪・パラリンピックの開催地たる地位」ということですので、財物を得たとか、財産上の利益を得たというものではありません。よって、詐欺罪に問うことはできないでしょう。
次に、偽計業務妨害罪(刑法233条)が考えられます。
「偽計」とは、余り聞き馴れない言葉ですが、裁判上は、「欺罔行為により相手方を錯誤に陥らせる場合に限定されるものではなく、相手方の錯誤あるいは不知の状態を利用し、または社会生活上受容できる限度を越え不当に相手方を困惑させるような手段術策を用いる場合をも含む」とされておりますので、虚偽の建設費を伝えてIOCを騙し、IOCの錯誤を利用したのであれば、「偽計」を用いたことになります。
また、これによって、「公正に五輪・パラリンピックの開催地を決定する」とのIOCの業務を妨げたことになるでしょうから、偽計業務妨害罪が成立する可能性を否定できません。
但し、この偽計業務妨害罪については、国外犯を処罰する規定がないため、都の行為が日本国外で行われていた場合には、同罪では処罰できないことになります。
最後に、都がIOCに対し文書にて虚偽の報告をしたということになりますと、虚偽公文書作成罪(刑法156条)及び同行使罪(同法158条1項)が考えられます。
虚偽公文書作成罪については、犯罪行為が日本国外で行われていたとしても、公務員の国外犯として処罰する規定が設けられています。
では、誰に犯罪が成立するのかという点ですが、虚偽であることを認識して、そのような虚偽の報告をすることに加担した全ての者、すなわち、首謀者、指示者、幇助者の全てについて共犯関係が成立することになります。
4年後に迫った東京五輪・パラリンピックを成功させなければならないことは当然ですが、そのことと一連の不祥事の責任とは別問題ですから、それを曖昧なまま終わらせるようなことは、絶対にしてはいけません。
- 著者プロフィール
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田沢 剛/弁護士
東京大学法学部卒業、同年司法試験に合格。2年間の司法修習を経て、裁判官に。名古屋、広島、横浜などの裁判所で8年間裁判官を務め、退官。裁判官として、一般民事、行政、知的財産権、刑事、少年、強制執行、倒産処理などの事件を担当。2002年に相模原市で弁護士事務所を開業。2005年に新横浜にオフィスを移転し、新横浜アーバン・クリエイト法律事務所を開設。現在に至る。オールラウンドに案件を扱うが、なかでも破産管財人として倒産処理にあたるなど、経営問題に辣腕を振るう。
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