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電通に労基署が立入り調査、過労死の会社責任について (2016/10/18 企業法務ナビ

関連ワード : 36協定 労働・雇用 法律 

はじめに

電通の女性新入社員が過労自殺した問題に関し東京労働局は14日、労働基準法に基づき電通本社等を立ち入り調査しました。出退勤記録等を調査し、是正勧告や刑事告発も視野に実態解明を進める方針です。従業員が過労死した場合の会社側の責任について見ていきます。

通勤

事件の概要

高橋まつりさん(24)は東京大学卒業後の昨年4月、広告大手電通に入社しインターネット広告を担当していました。本採用となった10月以降は業務が大幅に増加し、11月上旬にはうつ病を発症したとみられております。高橋さんは12月25日、東京都内の社宅から投身自殺しました。うつ病発症前1カ月間の残業時間は月約105時間に達していたとされ、本採用となる以前の残業時間40時間から大幅に増加しておりました。

高橋さんは会員制交流サイト(SNS)等に、「土日出勤が決定した、死んでしまいたい」「休日返上で作成した資料をボロクソに言われた、体も心もズタズタ」等の記述を残していました。これらの事情を受けて、三田労働基準監督署は7日、高橋さんの自殺について労災認定を行いました。

電通は労使協定で残業時間を月70時間と定めていましたが、それを超過する高橋さんには労働時間集計表に過少申告するよう指導し70時間未満として申告していたとされます。労基署は違法な長時間労働が常態化している疑いがあるとして14日、電通本社及び中部、京都、大阪支社も同時に立ち入り調査を行いました。

労基法上の責任

(1)労働時間規制

労基法によりますと、従業員を週40時間を超えて労働させるためには労働組合と労使協定でその旨を定め、労働局に届出る必要があります(「36協定」32条、36条)。36協定を締結すれば無制限に時間外労働をさせることができるわけではなく、月45時間が限度となります。決算期、納期の逼迫といった場合に時間延長できる特別条項を締結していた場合には例外的に限度時間を超過することができます。このような36協定の締結を行っていなかった場合、協定によって定めた限度時間を超過して労働させた場合は32条~36条違反となり6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が課されることがあります(119条)。

(2)刑事責任

労基署は臨検や帳簿等の書類の提出を求めたり、尋問を行うことによって労基法違反の有無を調査することができ(101条)、違反が発見された場合には是正勧告を行います。この是正勧告は一種の行政処分であり強制力はありません。しかしこれに従わなかった場合や、形だけの改善を行い是正報告する等、悪質で改善の傾向が見られない場合には送検となり刑事手続がとられることになります。

どのような場合に送検となるかの明確な基準はありませんが東京労働局の発表によりますと以下のような事例で送検されております。(1)貨物運送業において、36協定未届けの上時間外労働が月127時間を超えていたもの(2)36協定では月45時間を上限とし、特別条項として年6回、上限80時間の延長としていたところ年6回の回数制限を超えて時間外労働をさせていたいものが挙げられております。36協定を締結していないか、締結されていても形骸化しており守られていないといった場合に送検されると考えられます。

民事上の責任

上記のように労基法上は36協定を締結し特別条項を定めておけば現行制度上では時間外労働の上限はありません。しかし従業員が過労死した場合には会社は民事上の責任を負う場合があります。厚生労働省はどのような場合に過労死となるかの基準として、いわゆる過労死ラインを公表しております。

それによりますと、(1)うつ病発症前1~6ヶ月の期間にわたって時間外労働が45時間を超える場合は、その時間が長くなるほど業務との関連性が強まる(2)発症前1ヶ月の時間外労働が100時間、又は発症前2~6ヶ月の期間にわたって時間外労働が80時間を超える場合は関連性が強いと評価するとなっております。

つまり時間外労働月100時間で過労死と認定されることになります。そして判例上企業は従業員の労務管理を適切に行う安全配慮義務を負っているとされており(最判平成12年3月24日)民法上の不法行為責任を負うことになります。安全配慮義務とは雇用契約に付随する義務とされます。

コメント

本件で電通は36協定により月の時間外労働時間の上限を70時間と定めておりました。しかし実際には上限を超えた長時間労働が常態化していたとみられております。また従業員には時間外労働時間を過少申告するように指導しており36協定が守られていないだけでなく違反の隠蔽を指導していたと言え、より悪質な労基法違反と判断される可能性が高いと言えます。

また上記労務管理に関する安全配慮義務を認めた最高裁判例の事例は同じく電通での過労死による損害賠償請求の事例であり、電通側は当時再発防止に務めるとしていました。にも関わらず今回の件で改善ではなく、より巧妙な隠蔽を行っていたとして送検事例となる可能性は高いと言えます。また同様に民事でも安全配慮義務違反として損害賠償義務を負うこととなるでしょう。

このように従業員に過労死が生じた場合、労基署からの行政処分だけでなく刑事責任や民事責任も同時に生じる可能性があります。36協定は締結して労働局に届け出ているか、時間外労働の上限を定めているか、定めていたとして過労死ラインを超えていないか等を今一度見直すことが重要と言えるでしょう。

提供:企業法務ナビ

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