インターン企業の「ぬけがけ」目立つ、学生への事前通知欠かすな (2016/10/3 筑波大学新聞)
7月上旬、志望企業への就職が決まったが、納得できないままのことがある。「インターンシップ」(インターン)が実質的な選考の場となり、参加した学生が有利に就職活動を進めていたことだ。
インターンは、就活前の学生が企業や官公庁に出向き、企画立案、課題解決などのグループワークをしたり、人事や社員からレクチャーを受けたりする就業体験。大手就活情報サイト「マイナビ」では、「理想とのギャップをなくし、入社後のミスマッチを防げる」ことが企業にとってのメリットだとされている。
マイナビが2月に実施したアンケート調査によると、来春卒業予定の学生のうち昨年10月以降インターンに参加した人は62.1%で、年々増加傾向にある。学内でも関心が高まっており、筑波大学就職課によると、5月から行われている学内のインターンセミナーには昨年比3~4倍の学生が参加しているという。
私も今年1月、以前から興味のあった経団連加盟企業のインターンに応募した。書類選考すら通過できず落ち込んだが、企業の募集サイトには「採用活動とは一切関係ありません」とのただし書きがあった。それを信じ、就活本番で挽回しようと考えていた。
だが6月、その企業の春期採用試験を受けた友人の言葉に驚いた。「インターン参加者に、すでに多くの内々定者がいる」。友人の知り合いが1月のインターンに参加し、選考解禁以前に内々定を獲得したそうだ。「自分は就活で出遅れていたのだ」と気付き、焦ったと同時に企業に裏切られた思いがした。
ここで改めてインターンのルールを確認したい。経団連は「『採用選考に関する指針』の手引き」の中で、インターンを「学生の就業体験の機会を提供するものであり、社会貢献活動の一環」と位置付けている。その上で、「実施にあたっては、採用選考活動とは一切関係ないことを明確にして行う必要がある」と明記している。
問題は、インターンに参加しない学生が就職で不利になりやすいことだ。前掲のマイナビの調査では、インターンに参加した学生の6月末時点での内々定率が72.1%と、未参加者(54.6%)を大きく上回る。
インターンに参加しなかった学生は、単になまけていたわけではないと思う。同調査によると、インターンに参加しなかった人の理由は「学業を優先していた」(35.9%)が最多。経団連は「学業優先」を掲げ、昨年度から採用活動の解禁日を後ろ倒ししたのだから、これはもっともな理由だ。
また都内の学生と、筑波大を含む地方の学生とで参加のハードルは大きく異なる。地方の大学生には交通費や移動時間が負担となり都内企業のインターン参加をためらう人もいる。
こうした状況を鑑みれば、経団連はインターンの指針を変更すべきではないか。具体的には、「採用に少しでも結びつけるのであれば事前に学生にその旨を伝える」と明記してほしい。「採用には関係ない」としながら学生を裏切るような「ぬけがけ行為」は、企業の信頼を損ねることにもなる。また居住地域で参加率に差が出ないように、遠方から参加する学生には必ず交通費を支給するなど、学生への経済的配慮も不可欠だ。
実情に即した指針を作ることで、インターンは学生と企業双方にとってより良い制度になると思う。まずは学生の生の声を取り入れながら議論を深めていくことが必要だ。
(元筑波大学新聞副編集長・社会学類4年 井口彩)
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