震災復旧談合で罰金刑、独禁法上の刑事責任について (2016/10/14 企業法務ナビ)
はじめに
東日本大震災で被災した高速道路の復旧談合を巡り独禁法違反の罪に問われていた道路舗装会社の一つである株式会社佐藤渡辺に対し11日、東京地裁は罰金1億2千万円の判決を言い渡しました。談合を行った場合、独禁法により行政処分である排除措置命令や課徴金が課されることになりますが、別途刑事罰がかされることがあります。独禁法上の刑事責任について見ていきます。
事件の概要
東日本大震災で被災した高速道路に関し東日本高速道路東北支社が2011年8月から9月にかけて発注した舗装工事12件の競争入札で参加した道路舗装会社20社が入札談合を行っていたとされています。20社には不当な取引制限を行ったとして公正取引委員会により排除措置命令が出され、そのうちNIPPO、日本道路、前田道路、大成ロテック、東亜道路工業、大林道路、常磐工業等の11社に対しては合計約14億円の課徴金納付命令が出されました。本件入札談合では前田道路、NIPPO、日本道路、世紀東急工業の大手4社が調整役を担い、各社の要望を聞いた上で受注予定者を決定していました。それにより復興財源から約176億円が投じられました。
独禁法上の刑事罰
独禁法では私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法、企業結合についての規定を置き、それぞれに排除措置命令や課徴金納付命令等を課すことができる場合を規定しております。そしてそのうち私的独占、不当な取引制限についてはこれら行政処分の他に5年以下の懲役又は500万円以下の罰金という刑事罰が設けられております(89条)。そして両罰規定として法人としての会社自体にも5億円以下の罰金が課されることになっております(95条1号)。
不当な取引制限については罰則規定は置かれておりません。独禁法上の刑事罰に関しては公取委が検事総長に告発することになっており(74条)、第一審裁判所は東京地裁の専属管轄となっております(85条)。これらの疑いが生じた場合、公取委には犯則調査権限が与えられており、裁判所の許可を得て臨検、捜索、差押えといった強制捜査ができることになっております(102条2項)。
公取委の告発方針
平成17年改正で課徴金減免制度が設けられたことに際して公取委はどのような場合に刑事告発を行うかの指針を発表しております。入札談合等を行っても、いち早く公取委にその旨申告した場合には課徴金が減免される、いわゆるリニエンシー制度が規定されております(7条の2、10項)。この制度の活用を促し独禁法の適正な運用を図る目的で刑事告発を行う場合の指針を明らかにしております。具体的には以下のとおりです。
(1)告発する場合
- カルテル、入札談合、共同ボイコット、私的独占等の一定の取引分野における競争を実質的に制限する行為のうち、国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案であること。
- 違反を反復して行っている事業者、排除措置命令に従わない事業者等、公取委の行政処分によっては独禁法の目的が達成できないと考えられる事案であること。
(2)例外
- 調査開始前に単独で最初に課徴金免除にかかる報告及び資料の提出を行った事業者。
- 調査開始前に他の事業者と共同して最初に課徴金免除にかかる報告及び資料の提出を行った事業者。
- 上記1・2の事業者の役員、従業員等で独禁法違反行為をした者のうち、公取委への報告、調査協力等1・2と同様と認められる者。
(3)告発問題協議会
上記(1)に該当する事業者等が告発されることになり、例外的に(2)に該当する事業者等は告発がなされないことになります。そして告発に当っては、円滑・適正を期するために最高検財政経済係検事等を含めた告発問題協議会を開催し、当該個別事件に係る具体的問題等について意見や情報の交換を行うこととなっております。
コメント
本件で入札談合に参加し課徴金納付命令が出された11社のうち、常磐工業を除く10社が刑事告発され起訴されました。常盤工業は工事を落札しましたが、当初の落札予定者ではなかったため起訴されませんでした。また世紀東急工業は落札しましたが事前に公取委に申告したため課徴金が免除となっております。東北大震災の復興事業で道路舗装会社20社に及ぶ大規模な入札談合がなされ巨額の復興費が投じられたことを鑑みて、国民生活に広範な影響を及ぼす悪質かつ重大な案件であり、課徴金納付命令だけでは独禁法の目的が達成できないと判断されたと言えます。
独禁法違反事件は経済的犯罪であることから刑法等と比較して罰金の額は相当高額となっております。過去の事例を見ましても懲役刑のほとんどには執行猶予が付いておりますが、罰金に関しては個人、法人含めて多くの場合で高額な刑が言い渡されております。リニエンシー制度である、課徴金減免制度は高額な課徴金を免れるだけでなく、刑事告発も回避することができる重要なものと言えます。事業活動や取引において同業者との相談等、独禁法に違反する可能性が疑われる場合には公取委への迅速な相談等が非常に有効であると言えるでしょう。
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