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東芝の会計不祥事で株主が提訴、会計監査人の責任について (2016/9/23 企業法務ナビ

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はじめに

東芝の会計不祥事を巡り20日、株主が当時会計監査を担当していた監査法人に対し東芝に約105億円を賠償するよう求める株主代表訴訟を提起しました。企業の会計不正を発見できなかった場合に監査担当は責任を負うのか、会計監査人の任務懈怠責任について見ていきます。

会社法

事件の概要

2015年7月、東芝は2009年3月から2014年12月にかけて計約1518億円の利益を水増しする粉飾決算を行っていたことが第三者委員会の調査で発覚しました。リーマンショックや東日本大震災の福島原発事故等で半導体事業や原子力発電事業に巨額の赤字を計上するようになり、経営陣の関与の下にこれらを隠蔽するため不正会計が行われるようになったと見られております。これにより田中社長他、佐々木副会長、西田取締役等が辞任するに至りました。

東芝の個人株主の男性は当時の会計監査を担当していた新日本監査法人がパソコン事業での利益水増しを発見出来たにも関わらず日本公認会計士協会の定める監査指針に従った対応を怠り、不正を見逃したとして東芝に約105億円の賠償を行うよう株主代表訴訟を提起しました。東芝が納付した課徴金約73億円と不正発覚後の監査報酬約30億円分が損害額としております。

会計監査人とは

会計監査人とは会社の計算書類および附属明細書等を会計監査することを職務とする会社の機関です。どのような会社でも定款で定めることによって会計監査人を置くことができますが(会社法326条2項)、大会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社は必ず置かなくてはなりません(328条、327条5項)。

会計監査人になることができるのは公認会計士、監査法人に限られます(337条1項)。任期は1年で定時株主総会で別段の決議がなされなかった場合には再任されたとみなされます(338条1項)。選任は他の役員と同様に株主総会決議によりますが(329条1項)、監査役設置会社の場合には株主総会に提出する選任・解任の議案の内容は監査役が決定することになります(344条)。

会計監査人の責任

会社と会計監査人の関係は準委任であると解されております。そしてそれに基づき会計監査人は会社に対して善管注意義務を負っていることになります(民法656条、644条)。そしてその善管注意義務に違反した場合には任務懈怠として会社や第三者に対し損害の賠償責任を負うことになります(会社法423条、429条)。

会社に対する任務懈怠責任の追求は本来会社自身(通常は監査役)が追求することになりますが、会社が行わない場合には株主が会社に代って訴訟を提起し責任追及を行うことができます。これを株主代表訴訟と言います(847条)。この点に関しては取締役や監査役といった役員の場合と同様です。旧商法時代には会計監査人は会社の機関とはされておりませんでしたが、会社法制定の際に会社の機関とされ役員等として任務懈怠責任の対象とされました。

会計監査人の任務懈怠

会計監査人は上記のとおり役員と同様に会社に対して善管注意義務を負いますが、会計監査の専門家である会計監査人が負う善管注意義務の内容とはどのようなものでしょうか。

財務諸表等の監査証明に関する内閣府令3条2項によりますと、会計監査人の監査は「一般に公正妥当と認められる監査に関する基準及び慣行に従って実施」されなければならないとしています。そして裁判例によりますと金融庁の企業会計審議会が定めた「監査実施基準」は一般に公正妥当と認められる監査の基準に該当することから、会計監査人がこれに基いて通常要求される注意義務を尽くして監査手続を実施したのであれば、虚偽記載等の不正を発見することができなかったとしても、それをもって任務懈怠には当たらないとしています。

日本公認会計士協会は監査実施基準をより具体化した実務指針を定めており、この指針に基いて監査業務を遂行していれば原則として任務懈怠は生じないことになります。

コメント

会計監査人は会社の計算書類等が適切に作成されているかを監査することが本来の業務であって、会社の不正を発見すること自体は業務内容とは言えません。当然会社の不正を発見した場合にはその点を適切に指摘する義務は負いますが、適切に監査業務を遂行していれば、会社が隠蔽する不正工作を見抜くことができなくとも任務懈怠責任は負わないとするのが裁判所の考え方です。

会計監査人は監査する会社ごとに固有のリスクを評価します。例えば対象会社が同族会社で意思決定は一部の幹部が独占的に行っている場合、近隣に競業他社が進出している場合、急激な景気の悪化や自然災害により事業が縮小している場合、適切に議事録等が作成されていない場合などのリスク因子があれば不正会計が行われる可能性が高いと判断され、監査手続も厳格なものとなります。

東芝は従来から所得隠しによる脱税や労務問題、顧客情報漏洩といった不祥事を抱えてきました。また半導体事業や原子力事業等は客観的に見ても業績が苦しいであろうことはうかがえます。こういった点からも東芝の固有リスクは相当高く会計不正の可能性も相当高いと見積もれていたと考えられます。それ故に会計監査人に求められる注意義務も高くなっていたと言えます。

一方でそれ以上に東芝側の隠蔽工作が巧妙であり、実務指針に従った監査手続を行っていてもなお発見は困難だったと判断されれば責任は無いことになります。企業会計実務を左右する訴訟だけに注目を集めることになると言えるでしょう。

提供:企業法務ナビ

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