自閉症の発症メカニズムを解明!CHD8が自閉症の原因遺伝子 (2016/9/28 QLife)
自閉症発症の鍵をにぎるクロマチンリモデリング因子「CHD8」
正常な脳機能の発達が障害された状態を表す「発達障害」という言葉、耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。自閉症や注意欠陥・多動性障害、学習障害などがある発達障害。しかし、なぜコミュニケーションの障害や固執傾向、反復・限定された行動などが起こるのか、治療法はおろか、発症メカニズムも十分に解明されていませんでした。
これまでの自閉症患者を対象とした大規模な遺伝子検査では、多くの遺伝子変異が同定され、CHD8という染色体構造を変化させるクロマチンリモデリング因子(タンパク質の一種)が自閉症患者のうち最も変異率が高かったことから自閉症の有力な原因候補遺伝子とされていました。
今回、九州大学生体防御医学研究所の中山敬一主幹教授、西山正章助教、片山雄太研究員らの研究グループが、ヒトの自閉症患者において遺伝子変異が最も多いクロマチンリモデリング因子「CHD8」に着目した研究を実施。ヒト患者と同じような遺伝子変異をマウスに起こすと、コミュニケーション異常や固執傾向が強まるなど、ヒトの自閉症とよく似た症状を示すことが明らかになりました。
CHD8の上昇とRESTの抑制が、自閉症治療につながる可能性
実験では、ヒト自閉症患者で発見された多くの変異と同様に、正常では2つあるCHD8の遺伝子の1つを欠損させたマウスの行動解析を実施しました。コミュニケーションの能力を調べる社会性試験では、2匹のマウスを四角い箱の中に入れて、お互いの接触時間や接触回数を測定。その結果、正常なマウスに比べて接触時間は増加するものの、お互いの匂いを嗅ぐ、追いかけるなどのコミュニケーションは減少するという異常が示されました。また、T字迷路試験では、半欠損マウスは一度覚えたことに対して強いこだわりがみられ、新しいことを受け入れられない様子が示されました。
さらに壁のある通路と壁のない通路が十字に交差する迷路を高いところに設置する「高架式十字迷路試験」という実験を行った結果、半欠損マウスは恐怖を感じる場所である壁のない通路に出てこないことから、強い不安を示していることがわかりました。これらの行動はヒトの自閉症患者でみられる症状と合致しており、研究グループは、CHD8が自閉症の原因遺伝子であると結論づけました。加えて、CHD8半欠損マウスでの全遺伝子の発現状態を総合的に調べる新技術「トランスオミクス解析」を行ったところ、CHD8半欠損マウスにおいては、神経発達に重要なタンパク質「REST」の活性が顕著に上昇。これが発達異常を引き起こしていると同定したとしています。
これら結果から、CHD8を人工的に上昇させる、またはRESTを抑えることで自閉症が治療できる可能性が示唆されました。今後はさらなる研究が進められることで、自閉症の効果的な治療法開発につながることが期待されます。(樹本睦美)
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