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【元県庁職員が行く!】夕張レポート(後編) (2016/9/27 ユースデモクラシー推進機構

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財政破綻をした自治体はどうなってしまうのか?

財政破綻により夕張市は、「最高の税率で、最低のサービス」を提供する自治体になりました。支出がカットできる部分はとことんカットされます。市職員は半数が退職し、部長職及び次長職は全員、課長職は9割が市役所を去りました。

【元県庁職員が行く!】夕張レポート(前編)

夕張を訪れて驚いたのが、街のいたるところに、使われていない公共施設が放置されていることです。そして、その数が普通ではない。視線を伸ばすと視野のどこかに必ず市の所有物が入ってくるような状態です。

維持管理をする予算もないので、多くの施設が朽ちた危険な状態にあり、とりあえず立ち入り禁止にされています。道路脇の草も刈られておらず伸び放題。市役所の周りにも空き家が点在しています。レトロな映画看板が寂しさを誘い、財政が破綻した街を実感するには十分な光景です。

夕張の行政サービスの状況については、webでもさまざまな情報が取得できるので、ここでは詳しく触れませんが、2つだけ紹介します。

1つ目はごみ焼却施設がないため、ごみは「穴」に投げ捨てられていることです。焼却するのではなく、大きな穴にただ投げ入れられるのです。市民の方にお話しを聞いた際に「ごみと政治は無分別」と、うまいことをおっしゃっていましたが、笑えません。

2つ目は、夕張には病院がないことです。破綻以前には、市立の総合病院(171床)がありましたが、破綻後、大きな赤字を生んでいた総合病院は強行的に閉鎖され、民間の診療所(19床)に変わりました。重い病気を抱える人は、夕張で暮らすことができなくなりました。

夕張の厳しい状況を書き連ねるとキリがないので、ここからは財政破綻を経験して、夕張の意思決定プロセスがどのように変わったのかに絞って見ていきたいと思います。

石炭博物館

前編に記載したように、夕張市は粉飾行為をしてまで、財政破綻を避けようとしました。

財政破綻をすると、自治体は国の管理下に置かれ、自治権を失います。すなわち、何かをやる際に、逐一国にお伺いを立てなくてはいけなくなり、自治体自らが地域のことを決定できなくなるのです。

観光政策によって、「夕張を守ろう」とした市は、この自治権の喪失を避けたかったのです。

少し込み入った話になりますが、「自治」には「団体自治」と「住民自治」という2つの概念があります。このケースでは「団体自治」は、夕張市が国に対して持つ自治権、「住民自治」は、市民が夕張市に対して持つ自治権と考えてください。

夕張では「住民自治」という民主的な統制が働かなかったために、財政が悪化しました。そして、「団体自治」を守るために粉飾行為を継続し、その結果、「団体自治」だけでなく、「住民自治」をも失うことになったと結論づけることができます。

財政破綻をした自治体はどうなってしまうのか?という問いに対しては、「自治権を失い、自分たちの地域のことを自分たちで決められなくなる」という回答になります。残るのは「最高の負担と最低のサービス」です。

自治権を失ったことについて、象徴的なものがあります。

通常自治体は今後どのようにまちづくりを行っていくかを表す計画(総合計画)を策定しますが、破綻をするとその計画の上位に「地域再生計画」という借金を返済するための計画が位置づけられます。そして、その計画は国によって厳しく管理されるのです。

すべての政策は、借金返済を滞らせないか、最低限必要なものを超えないか、という視点で管理されます。

夕張を訪問して強く感じたのが、これらにより自治体の統治機構が変化しているということです。一般に役所が政策を実行する際には、住民の代表である議会の承認を得ることになります。先ほどの総合計画しかり、予算しかりです。

しかし、財政破綻によって、市議会の承認よりも、国の承認が優先されるようになるのです。

さまざまな案件は、市役所と国が調整した後に、議会に示されるので、実質議会が意見をできない状況にあると聞きました。議会として提案する場合も、予算を伴うことはできず、かなりの権限が制約されている様子でした。

また、財政破綻当時、議会の定員は18名でしたが、現在の定員は9名。議員定員が以前の半分になったにも拘わらず、驚くことに、直近の選挙は無投票となりました。この結果にも議会の権限が制約されていることが表れているように思えます。

最近のできごととしては、JR石勝線の夕張支線の廃止を市長が市議会に諮らずに、JRに申し入れるということがありました。まち唯一の路線が廃止になるという重大な決定を、市民の代表である議会に相談せずに行ったということです。このことはあまり報道されていません。それが問題にならないことが問題です。それだけ自治というものが機能しなくなっているということです。

本来、民主的な統治構造が変わるというのは重大なことです。

しかし、本レポートを書いていて難しさを感じるのは、通常の自治体においても、どれだけ自治権が発揮されているか?つまり、地域のことを市民がどれだけ気にかけているのか?議会が役所に対してどれだけ市民の意見を伝えられているのか?ここに疑問が残るためです。

財政破綻によって、自治権は失われます。しかし、そもそも自治権を行使していないのならば、破綻しても何も変わらないと言うこともできます。「お任せ」する相手が変わるだけです。

それでも、夕張の経験から私たちが忘れてはならないのは、夕張は自治権の発揮という民主的な統制を欠いたために破綻したという事実です。

今回の夕張訪問は、明らかとなったものも多くありましたが、同時に市民や議会の役割など課題も多く感じるものとなりました。

夕張破綻から10年。

我々は今一度、自治のこと、そして民主主義のことを考えるべきではないでしょうか。

提供:ユースデモクラシー推進機構

著者プロフィール
加藤俊介●加藤俊介(かとう しゅんすけ)
一般社団法人ユースデモクラシー推進機構 理事
1985年生まれ。慶応義塾大学総合政策学部卒、東京大学公共政策大学院修了。県庁勤務を経て、現在は大手監査法人のコンサルタントとして、自治体の支援を行っている。また、地域活動として私設図書館の設立や地方議員の政策スタッフの経験、タンザニアでのボランティア経験がある。
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