「出会った人を笑顔にしたい」イノベーションを起こす長島町副町長 (2016/7/28 Patriots)
鹿児島県長島町副町長として活動する井上貴至氏。東京大学在学中に各地方を見てまわる楽しさを知り、総務省入省後、愛知県市町村課に派遣され、さらに地域の魅力と出会いました。自身が提案した「地方創生人材支援制度」により鹿児島県長島町に派遣。「ぶり奨学金」などの取り組みが評価を得ています。そんな井上さんに、地方創生や日本の政治について伺いました。
「地域の人が主役」という強い想い
――地方自治に関心を持つきっかけとなった出来事を教えてください。
中学・高校時代です。大阪出身なのですが、東京に人や経済が流出する中で、「大阪のポテンシャルはもっとあるはずだ」「地方だからこそできることがあるんじゃないか」と子供心ながらに考えたことがきっかけです。
実は、最初から省庁など国の組織に進みたいと考えていたわけではありません。もともと役人にだけはなりたくなかったんです。ところが、東大に入学し、社会のため、国のために懸命に働く身近の先輩方と出会ったことで、「こういう人たちと一緒に働きたいな」と感じるようになりました。人のおかげで変わったところがあります。
そこから総務省に入省し、1年目に派遣された愛知県市町村課で、地域の公務員が消防団や野球などで地域貢献する姿と触れ合いました。「ボランティアをしている」と意識するのではなく、自然と地域を支えている。その姿に非常に感銘を受けたんですね。地域には隠れたヒーローがいる、東京に戻って以降も北海道から九州までまわる中で、「平成の伊能忠敬になるぞ」との想いが高まり、現在に至ります。
――地域の方々と仲良くなるために心がけていることを教えてください。
「地域の人が主役」という想いが強く、人を大事にしていること。こうした考え方も、さまざまな人に感化されたおかげです。東大在学時代、「東大生はなにも知らない。とにかく現場に行きなさい」と、ある先生から訓示を受けたこともそのひとつ。以降、積極的に現場に足を運ぶようになりました。
ミツバチが花から花を飛ぶように地域を飛び回り素敵な人や事例を繋いでいきたいという想いから、総務省時代は「地域のミツバチ」と名乗っていました。イノベーションは組み合わせることだと考えているため、介在したり人を紹介することが自分の役目です。
ミツバチは花を飛んでいるだけで、あくまでも主役は花です。「人も地域もダイヤモンド」だと信じて、その人や地域の良いところを見ていこうと日々尽力しています。
――大学時代と、今現在仕事で携わるようになって、地方との関わり方は変わりましたか?
基本的には変わらないところが多いです。大学時代から、「人が主役。地域が主役」という考えでした。たとえば、農家さんや漁師さんと話すとき、こちらから畑や海に出向いたほうが話がはずみます。人の輪を広げ、つなげ、続けていく。本質はいっさい変わりません。
逆に変わったことといえば、今は長島町に住み地方自治に携わっているので、なるべく町外にも出て行くようにしています。長島町の感覚だけに偏ってしまうのはダメ、という考えからです。
価値を創造することは、昔も今も地方でほとんどできる
――地方創生に対する考えを教えてください。
国の補助金制度は、メリットがある一方、地方の自立性を奪っている側面があります。本来もっと、自分たちの基準で考えていくことが大事です。にも関わらず、いかに自分の地域に補助金をとってくるか、椅子取りゲームのようになっています。
「お金がない」というのがデメリットのようにいわれますが、その分、人が力をあわせ、知恵を出す。お金があれば満足度が上がるわけではないし、幸せなわけではありません。どこに価値を見出すかにつきると思います。
価値を創造することは、昔も今も地方でほとんどできます。小さな地方のほうが、意思決定が早く、インパクトが大きいので変化が早いんですね。自分自身も地域の方々も、やりがいを実感していることが多いです。
――今後のビジョンを教えてください。
実現したいプランは、同時進行で約100持っています。すべてが芽になるとは限りませんが、ご縁をいただきながらやっていきたいと考えています。
地域の課題を捉えたとき、地域の内外問わず、どの人と組んで行うかが大事です。「この人と組んだら楽しい」「お互いに新たな可能性が生まれる」と、常に意識しながら取り組む。施策が施策をつなぎ、今取り組んでいることの先に新しいものが見えてくる。常に積極的かつポジティブな姿勢で人と物事に携わっていきたいです。
誰もが楽しんで取り組んでもらえることが大事
――長島町副町長としてたいせつにしている想いを教えてください。
「出会った人をたいせつにしたい」という想いは変わりません。「社会のために。国のために」だと抽象的になりますが、目の前の人を笑顔にしたいという想いで取り組んでいます。
長島町はダイナミックなスピード感であらゆる事案が進んでいます。なぜかというと、みんなが笑顔になる案件から取り組んでいるから。たとえば、「ぶり奨学金」は寄付するかどうか別にして反対する人はいません。食の素晴らしさをアピールする「食べる通信」も同様です。誰もが楽しんで取り組んでもらえる案件を選ぶことが重要です。
行政の取り組みといえば、学校統廃合再編やゴミ処理問題などがよく取り上げられています。確かにそうした案件に取り組むこともたいせつですが、地域のみんなが参加しやすい案件から行うことがもっと大事だと考えています。
また、地域の人だけではなく、専門家と組むこともたいせつです。「ぶり奨学金」は、鹿児島信用金庫が手を携えてくれました。「食べる通信」は、デザインがすべてプロの手によるものです。最後まで自分がやってしまったら、すごくダサイものができあがってしまいます。協力関係を築き上げながら、みんなで共に進んでいくことがなにより重要ですね。
――プランを実現させるための重要ポイントともいえるのではないでしょうか?
一番の肝です。自分が副町長を退いた後でもプロジェクトとして永続させていくことを考えると、長く続けていくためには行政だけでやらずに外部の方々に参加していただくことが重要です。
「みんなで笑顔になるぞ」ということを広げていく。自分の役目は、地域や外部の方々が動きやすくなるよう尽力すること。その意識がブレないよう、愚直にやっていきたいです。
――最後に、どんな人に政界を目指してほしいかを教えてください。
あらゆることに敬意が払えて、想像力を働かせることができる人ですね。自分が好きではない政治家は、自分の有権者にはペコペコ頭をさげるけれど、官僚や警備員の方に威張るなど、裏表がある方はあまり信用できません。
人間はすべてを体験することはできませんが、だからこそ想像力でカバーすることが大事です。そういう人に目指してほしいと考えています。
提供:Patriots
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