政治と若者に注目が集まっている今こそ次の仕掛けを (2016/7/21 Patriots)
18歳選挙権の施行で注目された今回の参院選。「若者と政治をつなぐ」をコンセプトに活動しているNPO法人「Youth Create」の原田謙介さんは、若者以外の年代も政治に対する意識が高まった、と話す一方、参院選後もいかに関心を保っていくかが大事だと言います。これからのビジョンなどについて、お話をお伺いしました。
若者と政治をつなぐ存在になりたい
――政治に興味を持ったきっかけについて教えてください。
高校生のころ、将来は世の中の仕組みや、いろいろな人と関わる仕事に就きたいと思いました。それなら政治や法律、行政といった分野が良いのかな、と思ったんですが、政治は一番イメージがわかなくて。「体育祭実行委員長の延長?」ぐらいの感覚でしたね。
大学生になってからも政治については漠然と興味を持っていたのですが、相変わらずイメージがわきません。ならば「現場で政治に触れてみよう」と思って、地元・岡山選出の衆議院議員のもとでインターンを始めました。
インターン中、いろいろな人の政治への想いを知ることができたのは大きな収穫でした。一方で、政治の場に若者はいないんだな、ってことに気づいたんです。極端な話、若者は「政治なんてうさんくさい」、政治家も「投票に行かない若い人なんて…」と何となく思っている雰囲気があって。これではお互いに変な“食わず嫌い”になっているのではないかと。
それで若い人と政治の距離をもっと縮めよう、政治家と若者が直接会える場を作ろう、と思って、インターンを2年やったあと、学生団体「ivote」を作ったんです。このころはちょうど、次に総選挙があれば民主党政権になるのではないか、と言われていた時期でした。でも、そういう歴史的な節目になるタイミングなのに、若者は政治に全然関わっていません。一方でアメリカを見れば、オバマさんが大統領選に出ていて、若者も含めて国全体が盛り上がっていました。この違いが悔しくて、大きな問題意識を感じました。
――ivoteではどのように活動をしていったんですか?
政治に関心のない同世代をどうやって巻き込んでいったらよいのか…。その方法が分からなかったので、最初の2ヶ月ぐらいは政治に関係のない学生イベントに行きまくって、無理やり政治について若者に聞いてみる、という活動をやりました。やはり政治の話は盛り上がりませんでしたが、国会議員に会いたい、という人は結構いるんだな、ということに気づいて。
それで、まず「居酒屋ivote」という国会議員5、6人と大学生を中心とした若者3、40人が集まる飲み会を開くことにしました。もともと若い世代のために始めた活動でしたが、議員から「若い人と会える機会はなかなかないので意見交換できて良かった」など感想を聞くと、政治家もこういう場を求めているんだなと思いました。おそらく政治家自身が呼びかけても、若者を集めることは難しいと思うので、僕たちみたいな“つなぐ存在”が必要とされていたのでしょう。
――卒業後はどうされましたか?
在学中はいろいろな活動をしましたが、自分自身もすごく楽しかったのでもっともっとやりたい想いがありました。それで卒業しても引き続き「若者と政治をつなぐ」ということを自分の生活の正面に置きたいと願い、就職せずに「Youth Create」を立ち上げました。
「ivote」を引き続きやる、という選択肢もありましたが、学生だけが純粋にやる活動として残したいと思い、下の世代に引き継ぎました。「ivote」はいま東京だけではなく愛知、大阪、福岡にも支部ができていて、彼らの活動は僕にとっても刺激になっています。
18歳選挙権はほかの世代にも変化をもたらした
――18歳選挙権の施行でYouth Createの活動も大きく注目されましたね。
2015年の秋から2016年の春まで、沖縄から秋田まで延べ40校ほどの高校にお邪魔しました。学校では政治と高校生の関わり方について話をしたり、グループワークをしたり。
手法としては大きく2つあって、1つは模擬的に選挙を体験してもらっています。具体的には架空の立候補者をたてて、政策の違いについて話し合ってもらい、その中から一人の候補者に投票する、ということです。メディアでは模擬投票という行動自体がクローズアップされますが、投票する前に悩み切ってみることと、ほかのクラスメートと自分の考えの違いを知ることが大事だと思っているので、グループディスカッションの時間も設けています。
もう1つのやり方は「街に新しい公園を作ろう」と仮定し、それぞれに高齢者や母親などいろいろな役割を担ってもらって、どのような公園が望ましいか、という議論をグループでやってもらう方法です。
これは「合意形成」の模擬体験をしてもらう活動で、いろいろな立場や考え方の人たちとどのように意見をまとめていけばよいのか、ということを実際にやってもらっています。
この方法にはもう1つ狙いがあって、選挙以外でも政治に参加する方法がある、ということを知ってもらいたいんです。何か行政に要望があるとき、きちんと意見を出し、いろいろな条件がクリアされたらかなうことだってあります。普段の生活の中でもパブリックコメントや住民説明会で住民の意見を伝える機会があり、一人の住民の声でも実現することがある、ということを知っておいてもらいたいんです。
僕らの活動にはちょっとしたこだわりがあって、出前授業の中で「投票に行こう」とは言わないんですね。投票率を上げることはもちろん大事です。でも、僕たちが狙っているのは、多くの若者に政治は身近なものである、と認識してもらって、その結果として投票に行く、という流れを作ること。だから、普段の生活の中で、政治を頭の片隅に置いておいてもらえるような声かけをしています。
――高校生の反応はどうですか?
アンケートを取ると「友達と考えが違ったのは意外だった」とか、「政治は思っていたより身近なものというのが分かった」とかいう意見があります。また「政治は年配の人たちだけのものだと思っていたけれど、僕たち高校生にも意見を求められていると分かったので、これからはもっと関わろうと思う」といった感想もあり、僕らが伝えたいメッセージをとらえてくれているのはうれしい。ダイレクトな反応として、出前授業をやった直後は、僕のtwitterのフォロワー数が増えますしね。
正直、外部から行く僕たちが1コマだけ授業を担当してもたいしたことはできないかもしれません。でも「今日の授業、面白かった」という一言があれば満足。何を学んだか、というよりも、政治や選挙について、なんて絶対面白くなさそうな硬い授業で、少しでも「面白い」と思うものが残ってくれたらな、と思います。
――そして18歳選挙権がいよいよ現実のものとなりました。
うれしいのは、若者以外の年齢層の意識が変わってきていることです。これまでの社会には、何となく政治の話はしてはいけない、という雰囲気がありました。でも18歳選挙権の施行で、社会全体の政治に対する意識が変わりつつあるのが面白いなと思って。
例えば、家庭の中でどのように子どもと政治について話せばよいのか考えたとき、実は親も政治についてよく分かっていない、ということがあると思います。それでPTAなどから講演依頼が増えてきたのは、予想以上の変化でした。
2014年の衆院選の投票率を見れば、40代前半の投票率は50%を切っているんです。おそらくいまの中高生の親世代は、半分も投票に行っていなかったことになります。だから今回の18歳選挙権をきっかけに、改めてほかの世代も政治とどう向き合うか、しっかり考える機会になってほしいです。
今後の展開は“子育て世代”と“地域”
――これからの活動はどのように展開していきますか?
東京だったら都知事選が続くように、これからも全国で選挙が行われていきます。Youth Createとしては、まず身近な街の政治に興味を持ってもらいたい、と願っているので、若者と政治の関係が盛り上がっているこのタイミングで、いろいろ仕掛けるスタートを切っておきたいと思っています。
考えている仕掛けは大きく2つあって、1つは子育て世代に政治とのつながりをもっと持ってもらおうという取り組みです。例えば今まで1回も選挙に行ったことのない友達でも、子どもができた瞬間に「政治ってどう?」と僕に聞いてきます。普通の20代なら政治へ主体的に興味を持つきっかけはほとんどないんですが、唯一、子どもが生まれたときだけは別。「この子たちの未来はどうなる?」「保育園に入れる?」などの想いや疑問から、改めて政治や選挙に自分はどう関わるのか、という視点を持てるようになるんですね。それで子育て世代向けに政治や選挙について解説するハンドブックを作ったり、ワークショップをやったりして全国に広げていけないかな、というのを模索しています。
もう1つの仕掛け、というのは自分の住む地域に着目してもらうこと。僕自身は今年から、地元の岡山大学で政治学の先生と一緒に、街づくりと政治に関する授業を担当するようになりました。とにかく街のことを知る、という趣旨なので、外部から人も呼んでくるし、キャンパスを出て話を聞きに行くこともある。そうすることで地域に興味を持ち、結果として政治や選挙に興味を持つ、という流れを作れたらいいなと。これって一見、対象は大学生なんですが、街の人も巻き込んでいるので、ほかの年代でも改めて政治への意識を高めるきっかけになるんですよね。
いまニーズの高い高校生への主権者教育は面白いし、これからも取り組んでいきますが、僕にとってはもう新しいものではありません。同じような活動をしている団体は多いし、学校の先生自身もやろうとしているし。だから、僕らはどんどん、次の“開拓地”を作っていかなければならないと思っています。
――どのような人に政治家を目指してほしいですか?
「いつでも政治家を辞められる」というぐらいの人ですね。いまは取り組みたいことがあるから政治家になっているけれど、それを成し遂げたり、政治以外の道でやるべき課題が見つかったりしたら、躊躇せず民間に戻れるような人、という意味です。
最初のうちはみなさん志はあるのですが、何期も続けばどうしても周りに染まってしまう。だから「一生、政治家をやる」と決めていない人になってほしいですね。政治家を経験した人が民間に入って、お互いの距離を縮める役割を果たすことも重要だと思っています。
提供:Patriots
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