三菱東京UFJ銀行が独自の仮想通貨を開発中!?【仮想通貨利用にあたっての法的リスク】 (2016/6/13 企業法務ナビ)
平成28年6月10日、大手銀行の1つである三菱東京UFJ銀行が独自の仮想通貨を開発した上、近い将来銀行実務で活用する予定であることが分かった。
そこで、第一にそもそも仮想通貨とは何か、第二に仮想通貨を用いることのメリットとデメリットについて、第三に仮想通貨を利用するにあったての法的なリスクについて、最後に仮想通貨活用に対する今後の企業側の対策について検討していきます。
仮想通貨とは?
仮想通貨とは、オンラインサービスで経済活動を行うことができる貨幣価値のことです。すなわち仮想通貨とは、私たちの買い物で利用されている通貨(例えば、500円や100円及び1円)とは異なり、インターネット上だけで取引されており、貨幣といった実物を持たないという意味で、「仮想」といいます。ですから、仮想通貨は特定のサービス内でのみ貨幣価値を持つものですが、一般的には現金に換算したり他のサービスで使用したりする価値は持ちません。また、仮想通貨を用いてアイテムを購入すれば、より有利な条件や環境でサービスが利用できます。
仮想通貨を用いるメリットとは?
以下、仮想通貨の1つであるビットコインを例としてそのメリットを検討していきます。
1 中央機関に依存していない
仮想通貨については日本銀行が発行している通貨と異なり、政府や中央銀行が発行しているわけではありません。ですので、仮想通貨の世界は従来の通貨のように中央機関に依存していません。中央機関が供給量を任意に変動させて当該貨幣の価値をコントロールするようなことができません。そして、ビットコインについては供給量があらかじめ「プログラミング」されています。したがって、後から供給量を変えることができません。
2 国境のない通貨である
本来、国が違えば使用している法定通貨も違います。そのため、別の国に行く場合にはその国の通貨に両替しなければならないといった「手間」が生じます。これに対して、仮想通貨には国境がありません。ですので、両替のことを考えずに利用することができます。
3 送金は国際送金より早い、かつ、手数料が安い
仮想通貨は、銀行システムとは違い、週末等を問わずいつでも送金可能です。また、国際送金でも最大1時間程度で完了します。さらに、手数料も格安です。具体的には、ビットコインで言えば、1ビットコインを送るにも10ビットコインを送るにも手数料は0.0001ビットコインくらい払えば、すぐに送金できます。
4 仮想通貨は、組戻しとは無縁
ビットコインでは銀行振り込み、クレジットカード、PayPal支払いのようにチャージバック(組戻し)の恐れはありません。そうしますと、チャージバック詐欺を防ぐことができます。なお、チャージバック(組戻し)とは、送金したもののそれが誤振込みの場合に、受取人等が銀行の行員等に対して誤振込みである旨を告げると、銀行側が当該送金を凍結することで、当該送金をなかったことにする手続きを言います。
5 ハイパーインフレ時にも対応できる
仮に、自国通貨がハイパーインフレに陥ったとしても、あらかじめ仮想通貨に変えておけば、資産を(短期的に)守ることができます。なぜなら、仮想通貨の世界では、自身の銀行は自分自身だからです。
以上の仮想通貨のメリットをふまえると、仮想通貨は今後国際規模での取引を行う企業にとっては、迅速かつ簡易に取引を完結できる手段の1つといえます。仮想通貨を用いることにより、取引業務の時短が実現できます。
仮想通貨のデメリット?
1 投機的側面がある
仮想通貨は投機的側面があります。そうしますと、暴騰暴落を繰り返しているため、価値の保存に向いていないといえます。
2 アドレスが長くて人間には間違えやすい
例えば、ビットコインを用いて仮想通貨を送ったり受け取るときには専用のアドレスが必要になります。しかし、この専用アドレスは、かなり長い上に人間には読めない組み合わせの文字列なので、コピペやカメラでのQRコード読み取りをしない限り、間違える可能性があります。また、間違えて違うアドレスに送った場合、送金した通貨を取り戻すことはできません。
3 国による価値の担保はない
前述の通り政府や中央銀行は未だ仮想通貨を正式な通貨として承認していません。ですから、万が一仮想通貨に何かが起きたとしても国は補償してくれません。要するに、仮想通貨での送金は結果としてすべて自己責任となってしまいます。
以上の仮想通貨のデメリットをふまえると、仮想通貨は従来の通貨と比較して利便性があります。その半面、国が仮想通貨を正式な通貨として承認していませんので、送金の責任は全て自己責任で行うといった大きなデメリットもあります。
仮想通貨に関連する裁判例
仮想通貨ビットコインの不正流出事件と関連して、世界最大のビットコイン取引所を提供していたマウントゴックス社に対しては、米国利用者をはじめとする各国の利用者が同社を相手取り損害賠償請求裁判を提起しています。また、マウントゴックス社のCEO・マルク・カルプレス氏は、私電磁的記録不正作出・同供用容疑逮捕されました。
このようにいったん仮想通貨にを利用していた顧客の個人情報が不正流出してしまいますと、仮想通貨を決済手段とする取引場を提供している企業は民事上のみならず、場合によっては、刑事責任をも追及されかねないリスクがあります。
また、利用者は、確かに個人情報が流出した際には、取引所を提供している企業に対して損害賠償請求をすることは可能ではあります。しかし、被告企業が既に破たんしており、損害を賠償する支払能力がなく、結果として泣き寝入りする可能性もあります。
したがって、仮想通貨を利用する企業としてもいったん損害が発生してしまうと発生した損失を回復することがほとんどできないといったリスクを覚悟したうえで、仮想通貨の利用を検討する必要があります。
仮今後の仮想通貨利用の際の企業の留意点
前述した仮想通貨のメリット・デメリットをふまえると、一見して企業が仮想通貨を利用するときは全て当該利用企業の責任で行うといったデメリットが生じるとも思えます。
しかし、今回日本の大手銀行の1つである三菱東京UFJ銀行が独自の仮想通貨の開発を行っていることを考えると、将来日本において仮想通貨を日本政府が正式な通貨として承認する可能性があります。そうしますと、このような仮想通貨には、今までの仮想通貨にはなかった政府・銀行の補償が付くことで、安全性が確保される可能性があります。
したがって、今後企業においては、銀行から発行される仮想通貨が、上記のような従来の仮想通貨とどのような差異があるのか、(具体的には、銀行が破たんした際の政府の補償の有無)について比較検討していただきたいと思います。
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