介護人材不足に元気高齢者の協力やロボット活用を、2025年に向けた生産性向上を検討―介護保険部会 (2016/6/6 メディ・ウォッチ)
いわゆる団塊の世代(1947-51年の第1次ベビーブームに生まれた方)がすべて後期高齢者となる2025年に向けて、医療・介護ニーズが飛躍的に高まっていくが、介護人材をどのように確保し、またその生産性をどうやって高めていくべきか―。
このようなテーマについて、3日に開かれた社会保障審議会・介護保険部会で議論が行われました。
元気高齢者に看護・介護業務を担ってもらうため、夜間での准看養成を武久委員が提案
厚生労働省は、2025年における介護人材需要を253万人と推計しています。一方、供給面に目を向けると、現状の傾向のまま推移した場合には215万2000人にとどまり、「37万7000人の不足」となります。このため「介護人材の確保」は喫緊の課題として、強力に推進していく必要があります。
また、新たな介護人材を確保することに加えて、既存の介護職員の生産性をより高めることや、業務の効率化などを図っていくこともきわめて重要です。
介護職員の離職率は、低下傾向にはあるものの、産業計と比べて高い水準で推移しており、離職の引き金として「結婚・子育て」や「職場の方針」「人間関係」といった雇用管理のあり方が浮上しています。どれほど制度を精密に構築しても、「働き手」が不足していれば制度が成り立ちません。
政府はこうした点を危惧し、また家族の介護によって離職せざるを得ない人をゼロにする「介護離職ゼロ」を重要施策に掲げ、「介護分野への就業促進」「生産性の向上」などに総合的に取り組むことにしています。
介護保険部会では、こうした点を踏まえ、次期制度改革に向けて介護人材の確保や生産性向上・業務効率化をどのように進めていくかを検討していきます。3日の部会には、このテーマについて次のような論点が厚労省から提示されました。
(1)ロボットやセンサーなどの新しい技術を利用者に対するサービスの向上や労働環境の改善に繋げるための取り組み
(2)介護記録のICT化など、個々の事業者レベルでICTの活用促進をするための方策
(3)ICT化による業務効率化にあたって、適切な制度運用に必要とされる書類のあり方をどう考えるか
(4)介護人材の類型化・機能分化によって、介護職の専門性を活かす取り組みを踏まえて、介護サービスの内容や施設・事業所のあり方をどう考えるか
(5)介護人材の専門性や能力の向上の観点から、施設・事業所における介護職員の業務管理や研修・技術指導など人材育成のあり方をどう考えるか。また、事業者における介護業務の手順をどう明確化するべきか
(6)処遇改善を含めた介護人材の確保策
このテーマに関して武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)は、「元気な高齢者の1%でよいから、看護・介護業務に従事してもらう」ことが必要と指摘。そのために夜間の准看護師コースを整備するべきと提案しています。
また鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)は、ロボットなどの活用がどの程度の効果を持つのか事前に評価することが必要と指摘。ICT化には導入・メンテナンスコストや、使いこなすまでのタイムラグなども考慮する必要があると述べています。さらに介護職員の処遇改善については、「准看護師給与との逆転現象が生じている」などの課題があることから、財源を確保した上での「報酬引き上げ」を行うことが本来のあり方であるとも指摘しました。
介護職員に対しては、2009年10月から、介護職員の給与を1万5000円程度引き上げることを条件に支給される補助金「介護職員処遇改善交付金」が設けられ、12年度の介護報酬・診療報酬同時改定で、交付金を引き継ぐ形で「介護職員処遇改善加算」が新設されました。15年度の介護報酬改定では、さらなる雇用の確保・定着を狙って、より手厚い「介護職員処遇改善加算I」が新設されています。
しかし、この「介護職員に射程を合わせた処遇改善」に対しては、▽そもそも従事者の給与水準などは労使交渉の中で決めるもので、国が過度に関与することは好ましくない▽介護現場には介護職員以外の職員もおり、全体として処遇改善を考えるべきではないか―といった批判もあります。2018年度の次期介護報酬改定も踏まえて、処遇改善に関する幅広い議論が必要と言えそうです。
要介護認定事務簡素化に向け、1次・2次判定結果の差を精査すべきと土居委員が提案
3日の部会では、「要介護認定など保険者業務の簡素化」や「介護保険適用除外施設における住所地特例の見直し」といった点も議題となりました。
介護保険制度では、保険者(市町村)に要介護・支援状態であると認定されて(要介護認定)はじめて保険給付を受けられます。真に介護サービスが必要な人に給付を集中することが狙いです。
しかし、制度の浸透とともに要介護認定の申請者が増加し、保険者の業務量が急増していることを受け「認定有効期間の延長」が行われています。この点について厚労省は、「さらなる有効期間の延長」など業務の簡素化・効率化方策を論点に掲げています。
この論点について土居丈朗(慶應義塾大学経済学部教授)は「主治医意見書の電子化」を進めるとともに、「1次判定(コンピュータ判定)結果と2次判定(1次判定結果を原案として保健医療福祉の学識経験者が判定する)結果の差異を分析し、2次判定で覆らないことが確実な事例(パターン)については2次判定を簡素化する」ことを提案しています。
介護保険適用外施設における住所地特例、負担の公平性を考慮して検討
後者の「住所地特例」とは、いわば「介護保険施設の整備が進んでいる市町村の負担を過度にしない」ための仕組みです。
A市では土地代が高いので特別養護老人ホームの建設が進みませんが、B町では比較的土地代が廉価なために施設整備が進んでいたとします。すると、A市の高齢者が要介護状態となった場合、B町に引っ越す方が増えるでしょう。この場合、B町の介護保険に加入するのが原則ですが、これを貫くと「B町は特養ホーム入所者が増え、介護給付の負担が過度に重くなる」事態が生じてしまいます。
そこで、要介護高齢者が特養ホームのある市町村(上の例ではB町)に住所を変更しても、特例的にもとの市町村(上の例ではA市)が保険者となる仕組みを設けているのです。
現在、介護保険施設(特養ホーム、介護老人保険施設、介護療養)、有料老人ホーム、経費老人ホーム、養護老人ホームが住所地特例に対象となっています。
ところで、介護保険の適用除外施設である「障害者支援施設や救護施設」を退所し、介護保険施設などに入所した場合にも、上記の住所地特例によって「適用除外施設がある市町村の介護保険被保険者」となります。しかし、このケースでは「適用除外施設に入所する前に居住していた自治体で費用を負担する仕組み」があり、住所地特例の適用が、かえって不公平を招いていることもあると指摘されます。そこで、厚労省は、こうした不公平を是正する見直しを行ってはどうかとの論点を掲げているのです。
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