世界の社会課題を現地からレポート!~米国編「オレゴン州の『歴史的』条例と世論の実態」 (2016/6/7 EcoNetworks)
最近米国で話題になっている最低賃金の引き上げ。州や市町村レベルで大幅な引き上げを求める運動が広まっているが、私の住むオレゴン州でも最近ニュースになっている。
それは州内の最低賃金を大幅に引き上げる条例が2月に可決され、知事がサインをしたからである。この条例は、現在の最低賃金9.25ドルを2022年までに段階的に14.75まで引き上げるというものだ。これは法律が制定された2013年6月時点において全国一高い水準で、この後カリフォルニア州やニューヨーク州でも最低賃金を15ドルに改正することが合意されている。
オレゴン州の条例の特徴は、全国で初めて地域別の賃金水準を設定していること。先述の14.75ドルはポートランド市内など都市圏での金額で、郊外と地方ではそれぞれ約1ドルと2ドル低く設定される見込み。
そもそも、最低賃金を引き上げる理由には何が挙げられているのか。
オレゴン州のケート・ブラウン知事は条例にサインする前日に以下のツイートを発信した。
上昇傾向にある家賃や食事などの生活費がまかなえる賃金(living wage)は市民権であり、そのためには所得の底上げが必要という議論だ。ポートランド市で特に深刻な貧困、ホームレス問題などを考えると、道理にかなった理由だと私は考えている。
それに対する議論が、経済を悪化させるというものだ。最低賃金の引き上げに伴う人件費の増加は、失業者を増やし物価上昇に拍車をかけかねないと考える人は数多くいる。
党別に見ると、賛成派は主に民主党、反対派は共和党に分かれるが興味深いことに経済的な階層ごとに意見が分かれているわけではなく貧困層にも反対派が多くいる。
例えば、私の育ったニュー・ジャージー州の同期生に州上院労働委員会が最低賃金を15ドルに引き上げる法案を可決したことを嘆いた人がいる。
「今日はとても悲しい日だ。コンビニが従業員を解雇してタッチパネルに置き換えたように、この法案によってファストフードの仕事がもっと減っていくだろう」というFacebookの投稿には「ファストフードの時給が15ドルになるなんて。もっと高いスキルが求められる私の給料と変わらない」「最低賃金の仕事だけ給与があがるなんて不公平」といったコメントが続く。賃金の問題は生活に直結するため、議論が白熱しやすい。
この点で、オレゴン州の「歴史的」条例は労働者を代表する労働組合とビジネス界の「かしこい」妥協とされている。市町村を人口密度によって3段階に分けて最低賃金を設定することで物価が低く、都市のように高い賃金を支払うことが難しい地方の店にとっても対応がしやすいため従業員の大幅な解雇を防ぐことができる。
この都市と地方との経済的な違いは全国一律で決まる連邦法定最低賃金を15ドルまで引き上げる最も大きい障壁の一つかもしれない。最低賃金は大統領予備選においても主要な論点となってきた。秋の本選に向けた国としての議論と、州と市町村での動きに焦点を当てながら、この課題を注目していきたい。
執筆:エコネットワークスパートナー翻訳者:Stephen Jensen@米国
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